第37話

…ダメだっ…。


孝直は、読みかけの本をゆっくりと閉じた。

教会の長椅子から立ち上がり、扉を見つめる。しばらくするとまた、長椅子に座り直し、本のページを開く。


「……」


数分もせず再び、孝直は読みかけの本を閉じた。

教会に来てから、何度も同じ動作を繰り返していた。


…落ち着け…。


自分自身に言い聞かせる。


さゆりと会えるかどうかも気になっていたが…それ以上に孝直の心をかき乱していることがある。


それは…。


シャツの胸ポケットに入れている小さな包み紙だ。

孝直は、そっと取り出し、指先で触れる。


…不安と期待…。


その表情は切なく。


そして…。


とても優しい。

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