第38話

その頃…。


さゆりは自室の窓辺に立ち、やるせない気持ちで外を見つめていた。


…どうして…。


納得のいかぬまま、ときだけが虚しく流れていた。


さゆりが何故、このような状態になってしまっているのは、少し時間を遡るー…。


それは…教会に行く前のことだった。

さゆりは玄関先で呼び止められた。


「どこへ行く気だ?」


突然、声をかけられ、さゆりは驚く。

そっ…と、振り返る。


「…おっ…お父様…」


不機嫌そうに眉を寄せ、腕組みをした父親が立っていた。


「どこへ行くのか、聞いているっ!」


「…えっ…と…」


正直に答えるべきか…はぐらかすべきか…どちらにせよ、いい顔はされないとさゆりは思い、返答に困った。


「はぁー」


大袈裟に溜め息を吐き、頭を抱え込む。


「教会か姉のところだろう…。いつまでフラフラと自分の好きなことばかりしてるんだ? お前もそろそろ縁談の1つや2つ話がきてもおかしくない年頃だ」


「…縁談…って…」


「何をそんなに驚くことがある?」


父親は顔色1つ変えず、淡々と話す。


「お前は、九条家繁栄のため…九条家のことだけを第一に考えていればいいんだ」


「……」


「前から言っているだろう? 九条家の人間として恥ずかしくない行い、立ち振舞いをしろと…」


「……」

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