第36話

「貸すよ」


「えっ…」


さゆりがいる方の自分の肩をトントンと叩く。


「肩、貸すよ」


「…っ…」


「いつでもうたた寝する時は」


孝直は、少し意地悪な顔でさゆりを見て、言った。


カーッとさゆりの顔が赤くなる。この前の出来事を思い出していた…。


「もー」


ぷーと頬を膨らませ、怒るさゆり。

ポコポコと孝直を叩く。


「いたっ…痛いって…」


孝直は眉を寄せた。


「孝直さんが意地悪なこと言うからっ!」


「ごっ…ごめん」


「あの時…すごーく、恥ずかしかったんだから…」


さゆりはそっぽを向きながら、ボソリと言う。


「…ほんと…ごめんっ…」


「……」


孝直はどうしたらいいものか分からず…困ってしまった…。


…参ったな…。


トンッ…。


さゆりは右肩に重さを感じた。


「ーじゃ…」


肩越しに響く、孝直の声…。


「…えっ…」


「…今度は俺が肩を貸してもらう」


視線を孝直に向けると、孝直は頭をさゆりの右肩に預け、瞳を閉じていた。


「これで、おあいこ。もう、恥ずかしくないだろう?」


ちらっと横目でさゆりを見る孝直の頬は少し赤く染まっていた。


「…うん」


さゆりは嬉しそうに微笑んだ。


ステンドグラス越しに差し込んだ日差しが優しく2人を包み込んだー…。

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