第32話

「ーありがとう…」


さゆりは微笑む。


「えっ…」

「私が勝手に本のページに挟んだしおりをずっと大切に持っていてくれて…ありがとう。嬉しい…」


…傷つけたわけじゃなかったんだ…。


孝直は、ホッと肩をなでおろす。


「これっ…」


スーッと手拭いをさゆりの前に差し出す。


「えっ…」


戸惑うさゆり。


「…嫌じゃなかったら…」


「あっ…ごっごめんなさいっ…。急に泣いてしまったから…」


恥ずかしそうにさゆりは手拭いを受け取り、涙を拭った。


「…そのしおり…そのままあなたが使って…」


「俺が…?」


「えぇ」


さゆりはコクリと頷く。


「あなたさえ、良かったら…」


ニコッと優しく微笑む。


孝直の心がドキッと高鳴った。

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