第20話

「気をつけなきゃダメよ。さゆりはこーんなに可愛いのだから。その人…さゆりのことが気になって、親切にしてくれたんじゃないかしら…?」


さゆりをきゅっと抱きしめ、頭をなでなでする。


「…お姉様…」


ふわっと花の香りが鼻孔をくすぐる。

ゆかりの体温が温かく、心地よい…。


さゆりの瞳から、ポロポロと涙が溢れた。


「あら、あらっ…」


「…っ…」


「びっくりしたわね」


「…うっ…」


「いい子、いい子」


ゆかりは優しく微笑みながら、さゆりの背中をさすった。


しばらくすると…さゆりは落ち着きを取り戻しつつあった。

ぽつり、ぽつりと喋り出す。


「…もう、行けない…」


「行けないって…教会にって、こと…?」


コクリと頷く。


「行けばいいじゃない」


「…行けるわけないっ…」


「どうして?」


「……」


力なく、俯く。


うたた寝してしまったことも恥ずかしいけれど…それ以上に、知らない男の人に寝顔を見られた挙げ句、肩にもたれかかり眠り続けたというー醜態をさらしてしまった相手に会うかもしれないと考えただけで、そんな自分がとても情けなく、恥ずかしい…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る