第17話

女性の肌は白く透き通っていた。

閉じられた瞳から伸びたまつ毛は長く、小さな鼻と薄く紅をひいた唇。艶やかな黒髪は腰の辺りまでありそうなくらい長い。

横の髪をまとめ、大きなリボンを結んでいる。

薄紫色のワンピースがよく似合っていた。


…育ちが良さそうだ。

きっと…裕福な家庭のお嬢さんなんだろう…。


規則正しい寝息を立てながら眠り続ける女性を孝直は優しく見つめ、微笑んだ。


…そう言えば…。


懐かしき…幼き日の記憶がふと蘇り、孝直はシャツのポケットに入れていたしおりを取り出した。愛おしそうに見つめた後、先程借りてきた本の表紙を開き、そっとしおりを挟んだ。


次のページをめくり、物語を読み始める。


しばらくすると…。


ーんっ…。


女性ーさゆりの瞳がゆっくりと開く。


「…起きた…?」


ーえっ…。


ぼんやりとしていた意識が…一気に覚醒する。


「…っ!!」


いきなり、声をかけられたことにも驚いたが…さらに驚くことがあった…。


声のした方へ視線を向けると、そこには…見知らぬ男性が隣に座っていて、さゆりと男性の距離があまりにも近かったからだ。


「きゃっ!!」


驚きのあまり…思わず、叫んでしまった。


「驚かせてごめん…。寝てる君が椅子から落ちそうになったから肩を貸していたんだ…。起こそうかと思ったけど、あまりにも気持ち良く寝てたから…」


孝直は出来事をありのままに伝えた。

さゆりは赤面し、慌ててその場を後にした。


孝直はただ、走り去ってゆくさゆりを見つめることしか出来ずにいた…。

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