第12話

バサッ…。


ビクッと肩を震わせるさゆり。細い眉を寄せ、「なに?」という表情を浮かべる。


…中には誰もいないんじや…なかったの?


見回した時、人影はなかった。

恐る恐る音がした方へと足を進める。薄桃色のワンピースの裾が歩く度に揺れた。


…男の子…?


1番前の長椅子の肘掛けに身を預けるような態勢で、気持ち良さそうに少年が眠り込んでいた。

床に向かって投げ出された手。少年の足元には、頁(ページ)が開いたままの本が落ちていた。


…本が手から落ちたんだ…。


音の正体が分かり、さゆりはほっと胸を撫で下ろす。


栗毛色のサラサラした髪の毛、スーッと引かれた眉毛、整った顔つきの少年。紺色の着物は所々継ぎはぎだらけで、薄汚れていた。


優しく降り注ぐ日差しはうたた寝したくなるような陽気だった。

さゆりは気持ち良く眠る少年をしばらく、見つめていた。


本、好きなのね


床に落ちた本を拾い上げ、ワンピースのポケットから取り出したものをそっと挟み込んだ。

邪魔にならないように、少年が座っている椅子へ置く。


贈り物…。


そーっと、眠る少年を起こさぬようにその場を去るさゆり。

扉の前まで来ると、ちらっと振り返り、笑顔を浮かべた。 


そして、その場を後にした。

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