第10話

「……幸せに生きてほしい……」


あの貴女ひとに……。

誰よりも大切でかけがえのない人に出来なかったこと……を。


迷惑で失礼なこと……言葉を紡ぎ、願うことさえも許されぬこと……。

それでも……少しでもそう、願わずにはいられなかった……。


そうすることで、記憶かこの過ちの償いとし、楽になろうとしていると思われても仕方のないことだ。

僕はとても卑怯だ……。


「僕だけでいいっ!過去に囚われ続け、戒めを受け続けるのは……!!」


……あの貴女ひとも、きっと……


「だから、ここを選んだ。いつまでも忘れず、苦しみ続けられるように……と」


「そっ……そんなっ……」


「悔やんでも悔やみきれないっ……。消せぬ記憶かこ。償いきれない罪を犯した己の戒めの……この、教会


「……」


「……悪いが、帰ってもらえないだろうか……」


「帰りませんっ!」


ゆかりは頑なに拒否をした。


わたくしはあなたの口から真相が知りたいのです。あなたから真相を教えてもらわないと意味がないと思うから……」


「……意味がない……?」


ゆかりはコクリと力強く頷く。


「妹の死に直接関わったのは、あなただから……」


「……っ……」


「お願いします」


ゆかりはさらに深々と頭を下げた。


「僕からも……お願いします」


小暮も深々と頭を下げ、懇願した……。


「……」


……なんと……酷なことを……。


「くっ……」


隼一は苦悶の表情を浮かべて、唇を噛みしめた……。


ーー隼一……さま……ーー


脳裏に響いた微かな声に隼一はハッとする……。


そして……考えを巡らせた……。


あぁ……そうか、そうなんだ……。

分かった、分かったよ……。


これも戒めであり、償いというのであれば……。


「……分かった……」


隼一は重い口を開いたーー……。

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