第9話

「お願いします」


「……本当に僕からお話しすることは何もありません」


隼一は俯いたまま、呟く。


「知っていることを教えて下さい」


「……」


「お願いしますっ!」


ゆかりは凛とした瞳で隼一をじっと見つめ、必死に懇願する。


「……」


「どうか……」


「……」


「どうか……お願いしますっ……!」


隼一は小さく息を吐き、拳を強く握りしめた。


「……あなたは妹さんの死の真相を知る権利がある……。けれど……真相を知ってどうするつもりですか……?」


「どうって……」


「僕がこんなことを言える立場ではないことを承知の上で聞いています」


「……」


「過去を知ったところで過去は過去です。過去を変えることは出来ない。まして……妹さんが還ってくることも……ない。どんなに願ったとしても……」


何度も、何度も願い、祈り続けた。


夢であれ、と……。

過去を変えることが出来たら……と。


「人を恨みながら生きてゆくのですか……? もし……そうであるならば、あなたが報われない……」


「……」


隼一はゆかりを見つめた。

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