第5話

「ーーっ!?」


頭を鈍器で殴られたような衝撃。


つーぅと、一筋の冷や汗が背中を伝う。


ガタガタと身体からだが小刻みに震え出し、今度は……苦い想いが胸を強く締めつける。


……だから……。


花束が1人の女性を彷彿させたんじゃない……。

花束を抱くゆかりじょせいを見て……僕は……。


隼一は身体からだの震えを止めようと唇を噛みしめ、拳を強く握りしめた。

口の中は渇き、絞り出すように言葉を紡ぐ……。


「あっ……あの時はっ……!!」


勢いよく頭を下げる。


「えっ……あのっ……」


頭を下げる隼一の姿を見て、ゆかりは慌てた。


その時……うっかり杖を手から放してしまい、床へと落ちてしまった……。

その拍子に身体からだがよろけてしまい…小さな紫苑の花束が宙を舞う……。


「危ないっ!」


咄嗟に小暮が右手でゆかりを抱きとめ、左手で紫苑の花束を見事に掴んでいた。


隼一は反応出来ず、ただ二人のやり取りを見ることしか出来なかった……。

それは身体からだが硬直していて、上手く動かず……まるで自分の身体からだではない、そんな気さえしていた……。


「ごっごめんなさいっ」


「いえっ……。とりあえず、座りましょう」


小暮はゆかりを支えながら歩き、近くの長椅子へと座らせると床に落ちた杖を拾い上げた。


「どうぞ。花束も無事です」


微笑みを浮かべ、小暮は杖と花束をゆかりに差し出す。


「ありがとうございます」


さゆりは小暮にニッコリと微笑みかけて、お礼をのべた。


杖を自分の側に置き、自分のでも紫苑の花束がぐしゃぐしゃになっていないか、確認してから……ゆかりはホッとした表情を浮かべて自分の膝にそっと、のせた。


そして……

とても愛おしそうに……包装紙の上から紫苑の花を撫でた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る