第3話

今更、誰がわざわざ自分なんかに会いに来るのだろう……?

小暮の言う……自分に会わせたい方、とは……?


思いを巡らすも……やはり、全くもって……検討がつかない。


小暮は少し右側に避けた後、ちらりと左側に視線を送った。


隼一もそちらの方へと視線を向ける。


小暮の姿と重なって、よく見えていなかった人物は……ゆかりじょせいだった。


ゆかりじょせいは色白く、全体的に身体の線が細く、着ている服は彼女の身体からだに合わせて仕立てられているように見えるが、まだ服の端々にゆとりがある感じだ。


スーッと鼻筋が通った鼻に薄桃色の唇、二重の瞳は髪の毛と一緒の色でやや薄灰色がかっている。

髪は腰くらい長く結うこともせず垂らしていた。

彼女が動く度にさらり……と、揺れた。


コツコツと左手で杖をつき、隼一の目の前にやって来て、お辞儀をした。

右手には大切そうに紫苑の小さな花束を抱えていて、彼女の動作に合わせて包装紙がカサカサと、小さな音が鳴っていた。


「お初にお目にかかります」


トクンッ……。


隼一の胸が切ない想いにかられたと同時にズキッ……と、痛んだ……。


……そっ……んな……まさか……。


目の前のゆかりじょせいとは初対面だが……ある1人の女性を彷彿させていた……。


「……」


隼一は床に視線を落として左右にかぶりを振り、切ない想いを立ち切ろうとした……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る