第2話

ガチャ……。


不意にドアの開く音がし、ゆかりは一瞬……ビクッとする。


ゆかりはそっと指先で涙を拭い、側に佇んでいる小暮と共にこちらに入ってきた人物を確認するために、ゆっくりと音がした方へと目を向けた。


2人は教会内の中央にある大きな十字架の正面に立っていて、音がしたのは……右側からで奥の方に人1人が通れるくらいの小さな木製の扉があった。

その扉から誰かが・・・・こちらへと入ってきたのだった。


やや目線を床へと落とし気味に扉から現れたのは……黒色の祭服を身に纏った、ここの教会の神父で川島かわしま 隼一じゅんいちという元華族の男性だった。


隼一は人の気配に気づき、顔を上げた。

途端……息を呑み、目を見開く……。


「ーーっ!?」


「お久しぶりです」


小暮は足早に隼一へと近づき、微笑を浮かべながらお辞儀をする。


「……こっ……小、暮……」


「お元気そうで……」


「……あぁ……君も……」


小暮は以前よりも痩せて見える隼一の身体からだが気になったが……久しぶりに会えた喜びの気持ちの方が勝ってしまった……。


小暮こぐれ 智哉ともやは元加納家に仕えていた者で隼一の執事だった。


黒のスーツに濃い紺色のネクタイ、白シャツはシワ1つ見当たらない完璧な仕上がりだ。

背筋をピシッと伸ばしている姿は、あの頃と変わっていない。

漆黒の短髪と大きな瞳。

丸顔の童顔ゆえ、実年齢よりも若く見える。


……あれから……10年ーー……。


月日は流れているのに……彼が年を取った印象を受けないのはその見た目のせいだろう……。


隼一は小暮との再会に彼と過ごした日々を思い出し、懐かしさを感じた。

それと共に……複雑な思いも心を駆け巡り、胸をざわつかせていた。


「……今日……は……?」


恐る恐る隼一が尋ねる。


「会って頂きたい方が……」


「……?」


……誰、だろう……?


隼一は見当がつかなかった……。

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