第11話
陸に何て言おうかなんて考えていて、なかなか寝付けずに朝を迎える。
いつも通り、部屋のカーテンと窓を開けて朝日と風を部屋へ入れる。
ふと下にいる人物と目が合う。
まさか、こんな時間にここにいるなんて思わなくて。
向こうも予想してなかったのか、慌てて隠れようとしたようだったのに、失敗していた。
どうしようもなくなり、諦めた様子で恐る恐るこちらを見上げる頼りない姿が、放っておけなくて。
「ほんと、ズルいなぁ……」
自分にだけ聞こえる声で呟き、私は陸に声を掛けた。
近くで見ると、少し疲れたような顔で私を見る。
目元を指でなぞると、閉じた瞼で長いまつ毛が揺れた。
すっかり私より大きくなってしまった、男の子の体に抱きしめられ、胸の鼓動が少し早く動いた。
妙な仲直りをして、一緒に朝食を食べる。
「ほら、付いてる。そんなに急いで食べたら、喉詰めちゃうから、ゆっくり噛んで」
「ほんと莉音は陸君のお母さんみたいだね」
「さすがにお母さんはないでしょ。お姉さんくらいにしといてやんなよ」
久しぶりに家にいる父に言われ、母が苦笑する。
「あ、未来の旦那さんだから妻か」
「ママ……いくら陸君相手でも、パパとしては……複雑です……。くっ……でも、他の変な男に攫われるくらいなら、陸君の方がっ……」
「ちょ、ちょっと二人共、何言ってんの。勝手に話進めないで」
未来の旦那さん。 幼い頃は、それで良かったかもしれない。
けど、今はそうはいかない。
陸にも陸の世界があるし、昔とは環境、状況、世界の大きさも変わっただろう。
だから、特別視されやすい“幼なじみ”という位置にいるからと言って、私が陸を縛り付けていいわけがない。
私が否定しても、陸は優しいから「そんな事ない」って言うのが分かってるから、私は敢えて話しを逸らした。
なのに。
「莉音ちゃんが……奥さん……。お義父さん、お義母さん、莉音ちゃんはみんなの宝物だから、大事にしますね」
「ち、ちょ、ちょっと陸まで何言ってんのっ!」
両親の手をしっかり握り、陸は無駄に表情をキリリとさせている。
陸や両親が冗談で言っているからと言って、このノリは居心地が悪い。
嫌でも陸の奥さんになる人は幸せだなぁとか、羨ましいなとか、嫌な感情が生まれて来るから。
陸と一番近い場所にいるのは私だけなのに、と。
こんな黒くて汚い感情は、捨てなきゃ駄目なのに。
だけど、捨てられないのが分かっているから、見て見ぬフリをして、蓋をする。
学校への道のりを、手を繋ぎながら歩く。
「陸、あの、そろそろ学校も近づいて来るし、他の生徒も増えるだろうから、手、離し……」
「やだ」
「や、やだって……」
いくら幼なじみだとはいえ、手を繋いだまま登校なんて出来るわけがない。
こんな所を誰かに見られたりしたら、学校で何を言われるやら。
私の、僕の、幼なじみ 柚美。 @yuzumi773
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