第二章
第10話
〔陸side〕
血の気が引いて、生きた心地がしないとはまさにこの事を言うんだろう。
莉音に嫌われたら、俺は生きていけない。
俺にとって、莉音は生きる意味だ。
俺の道を照らす光だ。
俺の世界には、莉音がいなきゃ意味がない。
他の誰かじゃ駄目なんだ。
暗い部屋の隅で、膝を抱えて座る。
その日は一睡も出来なかった。
いつもより二時間程早く家を出た。
莉音が逃げないようにと、逸る気持ちが足すらも早くする。
俺の心配をよそに、莉音はまだ部屋にいるようで、起きているのか部屋の電気は点いている。
まるでストーカーにでもなった気分で、自分の行動に苦笑する。
部屋のカーテンが開かれ、窓が開く。
油断していた俺は、隠れる間もなく見つかってしまう。
恐る恐る見上げた俺の目には、仕方ないなぁとでも言ったような、俺の好きな莉音の笑顔が写った。
好きが溢れて、堪らなくて、涙が出そうになる。
「寝坊助が早くからそんなとこでストーカーごっこ?」
そう言って「おはよ」と笑う笑顔が愛おしくて、胸がギュッとなる。
窓を閉めて、しばらくして玄関のドアが開いて、制服姿の莉音が、自分に走り寄る姿が嬉しくて。
「あの……莉音ちゃ……」
「陸、ちゃんと寝たの? 顔、疲れてる」
謝ろうとした俺の目元に、女の子らしい細くて綺麗な指が触れた。
好きで、愛おしくて、どうしたらいいんだ。
「昨日はごめんね。私、子供みたいにワガママ言った。可愛くなくて、ごめんなさい」
まさか、莉音に謝られるなんて思ってなくて、呆気に取られてしまう。
そんな俺が反応しないのが気になったのか、莉音が悲しそうな顔をした。
「陸が怒るのも仕方ないって思ってる。でも、私は陸と仲直りしたい」
「ちょ、ちょっと待ってっ! 僕は怒ってないし、莉音ちゃんが悪いわけでもないよっ! 寧ろ僕が謝ろうとしてたし」
「何で陸が謝るの? 私の態度が悪かったわけだし」
「え、ち、違うよっ、僕がっ……」
俺が言って、莉音が吹き出した。
「何してるんだろうね、私達。じゃ、お互い様って事で、仲直り。ね?」
握手を求めるのに差し出した莉音の手を、握って引き寄せる。
抱きしめた体は、成長したとはいえ、細くて小さくて、柔らかくて甘い。
「甘えん坊な陸はまだいたんだね」
「うん。莉音ちゃんにはずっと甘えん坊だよ、僕は」
クスリと笑って「何それ」と言った優しい声と、柔らかくて甘い莉音を自らに刻みつけるように、抱きしめる力を少しだけ強めた。
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