第9話

歳を重ねる毎に、陸は段々過保護に磨きが掛かる。



「だ、大丈夫だけど、い、今着替えてるの分かるでしょっ……一回出てっ……」



「嫌だ」



「はぁっ? な、何で……」



「急に帰るってメッセージだけ来て、電話にも出ないし、僕心配したんだよ?」



「べ、別に何もないよ……。たまには一人になりたい時だってあるでしょ……。陸こそ、五十嵐さん、ちゃんと送ってあげたの?」



まただ。



こんな事言いたいわけじゃない。



「何で八重が出てくるの? 今アイツは関係ないでしょ?」



眉間に皺を寄せ、陸が言う。



やっぱり、五十嵐さんは“アイツ”と呼べるくらいには、他の子とは違うんだ。



「関係なくないでしょ。明るいとはいえ、遅くに女の子を一人で帰らせちゃ危ないでしょ」



「莉音ちゃんも女の子でしょ? 八重だけ守って、莉音ちゃんだけ一人にするのは違うでしょ」



やめて。



「別に陸に守ってもらわなくても、私は大丈夫よ。小さな子供じゃないんだし」



「だったら八重だってそうでしょ」



やめて。



他の子を名前で呼ばないで。



私以外を、特別にしないで。



感情が、理性を上回る。



「いいから出てってっ! 今は……陸と一緒にいたくないっ……」



声を張り上げ、陸の体を力いっぱい押して部屋から追い出す。



鍵を閉め、背にした扉の前でしゃがみ込んで、向こうからする陸の声を遮断するように耳を塞いだ。



醜い嫉妬に、体中が支配される。



涙が自然と流れて、必死に嗚咽を我慢するみたいに唇を噛んだ。



血の味がした気がするけど、構わない。



部屋の真ん中にあるテーブルに置いた、スマホが震えた。



メッセージが来ている事を示すバイブが鳴る。



“今日は帰るね。明日、迎えに来る。お願いだから、逃げないで”



最後の“ごめんね”は、何に対しての“ごめん”なのだろう。



陸は何も悪くない。



私の醜い、ワガママな八つ当たりなのに。



「最低だな……私……」



明日ちゃんと謝ろう。



ずっと陸の特別で、絶対的な存在だったから、甘えていたんだ。



私より特別が出来るはずがないと。



本当に、どこまでも愚かで、醜い。



昔を懐かしむみたいに、陸と撮った思い出の写真が入っているアルバムに手を伸ばした。



その日、私はそれを抱きしめて眠った。



私は、昔に依存し過ぎているのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る