ラスクセ:襲撃
ある日のことだった。
今日、【ゆうしゃのよんじょう】は魔の森の最深部まで潜り、魔の森のボスの存在までは確認できた。
ボスの討伐が目標だったが、魔狼が現れたのと同じ理由なのか、強化種となっていたのだ。
倒せないことはないだろうが、勇者たちが話した結果、万全の準備をして挑むこととなったので、王国に帰ってきていた。
ちなみにこの話し合いには、ミラーシは参加していない。遠すぎた。
現在時刻は、まぁ詳しくは分からないが、辺りも寝静まってきたくらいの時間である。
エンメルもあらかた剣の手入れを終え、そろそろ寝るかぁと思っている──その瞬間だった。
ブォンブォンブォンブォンブォンブォン──!!!
「……ッッッ!!!」
けたたましい警告音が、王国中に響き渡った。この音は──魔物の襲撃である。
聞こえてきた方角的に、襲撃を受けているのは正門。警告音の音量や回数的に、かなり強い魔物が大量に攻めてきていることが分かる。
正門側にあるのは魔の森。警告音はエンメルが聞いてきた中でも最大級。
エンメルは装備を高速で身につけ、剣を持ち拠点から駆け出した。
ドンッ、という衝撃波とともに、一瞬で最高速度に達したエンメルは、ものの数秒で正門についた。
強化種の気配しかしなかった。
そこでは、衛兵たちが悲惨な光景に──なんていうことは一切なく、『挑発スキル』を発動したガードが、ピンポン玉のような状況になっていた。
……ピンポン玉のような状況に、なっていた?
「ゴブヘァッ!」
強化種のゴブリンに殴られたガードがめちゃくちゃ吹き飛ばされる。
「バブシァッ!」
その先にいた強化種のオークに蹴られたガードがめちゃくちゃ(ry
「いってええええええええ!!!!!」
その先にいた強化種の魔狼に(ry
……やはり、ピンポン玉という表現が1番正しそうであった。
「よく耐えてくれたガード! あとは任せろッ!」
なろう系主人公らしく情熱的なエンメルは、そんなガードの様子に決して笑うことはなく、すぐに剣を構え走り出した。
「あぁ……! たのガブシノォァ!」
エンメルに言葉を返すことすら許さないとでも言うように、強化種の大蛇がその尾を振ってガードを薙ぎ払った。
「次は俺が相手だッ!!」
エンメルが堂々と宣言している背後で、ガードが正門の柱に打ち付けられていた。
だが、自身が弱っているおかげで耐久力が高まっていたため、無傷で地面に落ちた。
「お、おい……大丈夫か?」
ガードのおかげで一切攻撃を受けなかった衛兵がガードに駆け寄り、心配そうに声をかけた。
「あぁ! 無問題だぜ!」
その心配とは裏腹に、ガードはピンピンした様子で立ち上がった。
正門で衛兵が死んでしまわないように、シャルドネはこの近くに住んでおり、常に『不死身領域』を展開しているおかげだった。
衛兵が目を丸くしポカーンとなっているが、突然魔力の圧が強くなったことに気づき、すぐ正気に戻る。
衛兵が視線を戻した戦場では、エンメルが莫大な魔力を練っていた。
「神威──それは魔を根絶やしにする神の御光。今こそ我に、力を貸したまえ──ッ! 憑依、極限魔法・
エンメルが剣を掲げると、遥か上空からありえない量の魔力を纏った稲妻が駆け下りてきた。
バチィィィィン、と空気を切り裂くような音を轟かせながら、エンメルの剣に直撃し、激しい光が辺りを埋め尽くした。
魔物たちも視界が奪われたため攻めることが出来ず、おとなしく成り行きを見守る。
光が落ち着くと、エンメルの手にはバチッバチッと稲妻を走らせている剣があった。
──
「未来永劫、世界に光を齎すは、神の御光である」
いくらエンメルがなろう系主人公とはいえ、魔物までそうとは限らない。
詠唱を始めたエンメルのもとに、大量の魔物が襲いかかる。
──その上空に、エンメルの剣にも負けないくらいの魔力を持った、1本の杖が飛んできた。
エンメルの真上で静止し、その後一気に光輝いた。
数百m離れたベッドの上で、ミラーシはポツリと呟いた。
「遠隔禁忌魔法・
杖を起点に大爆発が起こった。
しかし、ミラーシの神をも上回るような技術の成果なのか、正門を含む建物はすべて無事。
エンメルもガード、衛兵もみな無傷。
ただ、エンメルに襲いかかろうとしていた魔物だけが消し飛んだ。
敵意のあるもののみを、この世から葬り去ったのだ。
魔物たちは攻めることを禁じられ、エンメルの詠唱を見守ることしかできない。
逃げ出す魔物も出始めた。
「すべての生物は、神の祝福を浴びるべきである。我が剣、魔に祝福を与えよ。これは、神威なる祝福である────殲魔流竜頭式・極神閃ッ!!!」
神速で放たれた一閃は、巨大な光の刃を飛ばし、魔物を──時空を切り裂いた。
その刃に触れた魔物はすべて消え去った後も上昇しながら進んでいき、その奥にあった山の頂上を削った。
「す、すげ……」
衛兵はその衝撃的な試合に、思わず言葉が漏れる。
「──さて、帰るか」
「だな……っと、ミラーシの杖届けないとだな」
「あぁ……また置いていったのか。ったく、自分の手元に戻すまでは魔力維持しろよってな」
エンメルはミラーシの杖を拾いつつ、衛兵に「残りの仕事も頑張ってな」と言いながら自分の家に向かった。
一人ひとりがなろう系主人公であるのに、クセがあまりにも強すぎるパーティー。
このパーティーが成立したとき、人々の間で一つの問が言われていた。
『パーティー全員クセ強でも、ちゃんと冒険は成立するのか』
しかし、今回のように得手不得手を理解した上で戦えるようになった。
彼らなら、魔王討伐もやってくれるだろう。
よって、この問の答えは、『成立する』になるだろ──
「だあああああ!! 『接近鈍化領域』忘れてた! くっそ、杖は夜が明けてから改めて持って行くとして……おいガード! これどのくらいで抜けられるか!?」
「こ、この速さで歩いてるとなると……2時間はかかるんじゃないか……?」
「ああああああああ!!!!!」
ほんとに成立する、のか……?
パーティー全員クセ強なろう系主人公でも、ちゃんと冒険は成立するのか
FIN 本文8411文字
《あとがき》
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【完結】パーティー全員クセ強なろう系主人公でも、ちゃんと冒険は成立するのか もかの @shinomiyamokano
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