「赤はあかん、白にしろよ」と赤ら顔 青く冷えヒェ 白けた教室

 小学二年生の時の担任の先生は、脂っぽくて若干の加齢臭のする、正方形の眼鏡を掛けた、ダジャレ好きのおっさんでした。

 どんな行事でも必ず司会を任されるような、低く、若干しゃがれたような、通りの良い声。あの声で「おい」とか言われると怖気づいてしまいそうなほど。

 昭和気質で、宿題は多く、キレると黒板を叩きます。叩く音が強すぎて、隣の教室の三年の担任が文句を言いに来たほど。

 また、なかなか言うことを聞かない子供は、「おい、こっち来い」と言って、なんと肩に担いで、廊下へ連れて行って説教でした。

 連れていかれる時は、担がれながらも笑顔で手を振っていたお調子者も、帰って時には顔をぐしゃぐしゃにして、「ぐすっ、……ぐすっ」と情けない声を出す、というのが何度か繰り返されました。

 ちなみに現在は、違う学校の教頭をしているそうです。


 そんな先生の、数ある「持ちネタ」の中でも、よく出てくるのが、この短歌の「赤はあかん、白にしろ」と「トイレにいっといれ」でした。

 全く何を言っても、教室の空気を冷ましてしまう。夏にはありがたいが、冬には遠ざけたい。

 もうね、本当にウケが悪かったんですよね。

 最初の方はみんな目が点、少し経つと、忖度して「アハ、アハハ」と乾いた笑い声を上げる子もいましたが(もっとも、あまりにウケていないことにウケてしまった可能性もあり)、最終的には「またか……」と呆れ顔になる始末。


 僕たちが三年になった時、先生はまた二年の担任をしていました。

 手洗い場が隣で、給食後の歯磨きで時々顔を合わせることがあるんです。

 ある日、先生はニパッ、と愛らしい顔で、幼子のような甘い声で言ってきました。


「今年はめっちゃウケとるわ」

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赤の他人のひとりスケッチ DITinoue(上楽竜文) @ditinoue555

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