『僕』

全世界全種族が統一されてから1000年、平和に暮らしている各種族の一つ、識者族たち。彼らは非力ながらも他種族より思考力が高く多くの魔術にも高い適性を持っている、その知を持って帝国全土に広く住みつき他種族と繁栄を築いていった。そして竜頭族とそれと交友をもつ竜人族たちと共に発展を遂げ天空と大地に咲く大都市ディレイトを築いたディバスタ州そこから南方に進んだ先にある小さな村。ハーレ村、約百人の中規模の村。そこで僕は生まれた。


「今日もいい天気だ!」


2階にある寝室の窓を開け朝日浴びて部屋の空気を入れ替える、僕の家は丘の上にあり村を一望できる場所にある。村の中心には大きめの湖があり米作りのための田んぼが広がっている。

下から大きな声が響いた。


「おい!小僧!メシだぞ!」

「わかったから!それに小僧じゃない、オーリって名前がある!」

「ガハハ!声が小さくて聞こえんぞ!」


朝早くから大声を出したのも相まってお腹が減ったので下の階に降りる


「オオ!遅いぞ小僧!」

「だから、、今日の朝ごはんは?」

「米と魚だ!!」

「いつもの朝食か、ありがとおじさん」


この大声を出すおっさんは竜頭族のセド・リューベルクといい隣人だ。

この村では掟として識者族と竜頭族は隣同士で住むこととし互いに助け合い村の発展に貢献するように定められている。竜頭族は鋭い爪とその特徴的な頭から火を吹き、識者族の技術で作られた魔術や道具で補助などを行う。

出された朝食をゆっくりと味わい食べ終わる。うん、いつも通り美味しい。


「今日はなにをすればいいかな?」

「いつも通りでいいぞ!部屋で術式道具の研究に勤しんでおれ!」

「そっか、今日こそは村にいけると思ったんだけどな」

「それは天啓の命に反する故に!日が落ちても村には降りていかんぞ!」

「わかったよ、おじさんも今日の天啓の命を果たしてきてね」

「ああ!天に誓おう!それとワシはまだ30ゆえおにいさんだ!」


そう言いながら、おじさん、、セドは扉を開け村に行った。

天啓の命とは、帝国統一と共に天から与えられたとされる絶対義務であり平和のために必要なものだと。皆それに従い日々を幸せに生きている、村の人たちも毎日命に従い稲作や漁業、様々な労働をしており今日の朝食も美味しく食べれる。そして僕の命といえば部屋で術式道具という名の使えない小道具を作っている、さらには村にも行けないと、、退屈な日々だ。

さて、そろそろ僕も仕事をするか。食べ終わった皿を水につけて術式を使う、使うのは生活術式と言われるものでありほぼ全ての種族が扱える魔術の一つだ。呪文を唱え皿を洗うよう術式を組む


「生活術式:バブル


水がかすかに光り流動し皿についている汚れを落としていく。これまた便利な術式であり解釈があまりにも広いのだ、服の汚れも部屋の埃もこの術式で綺麗になる。このような術式は帝国の首都にある中央術式管理局という場所で日々研究されより効率的になり階級ごとや天啓別で共有される、中央局で作られる術式は裕に万を超えるとの噂だ。僕も中央局に行きたいけれど天啓を得てないから働けなないんだ。一体どのような天啓を得たものが中央局にいけるか気になるけれどまずは自分のやることをしなければね。2階にある寝室の隣の部屋に僕の研究室がある、中にはセドが街に来る商人などからもらった術式道具が散乱していた。


「片付けたいけれど生活術式を使うと道具が傷ついちゃうからね」


床が散らかっていたとしても研究はできるため、言い訳をしながら狭い足場を通って窓際の机へ向かう。

机の上の物を少し退かし作業する場を用意して今日の作業を始めよう。

術式道具の作り方はセドから基本的な部分は教えてもらい後は自分で研究して発明している、基本天啓の命は親の天啓が引き継がれるため子は親に教えてもらうとセドが言っていたが僕には実親がいないためセドに教えてもらった。こうしてみるとセドを親と言ってもおかしくはないな。


「さて、今日は術式の効果範囲を指定するような物でも作るか。確か先週の研究で似たような事をしたからそこから流用して、、」


そこからは日が暮れるまで作業にのめり込み、また長い時間自分の部屋で過ごした。毎日毎日変わらず同じ日を過ごすその日々に疑問を持たないわけではなかったが、かといって何故と問うのは引けてしまう、胸の奥、心の中心で何か引っ掛かるようにその疑問は疑ってはいけないような『当たり前』だと認識してしまっている。僕は父も母も物心がつく前に亡くなってしまったとセドから聞いたことがある。そして、セドが僕の親代わりになって育てくれた。座学から簡単な作法まで豊富な知識を持つセドから教えてもらった。しかしそれしか知らない、セドから教えてもらった世界しか僕は知らない。窓から見える村にどんな人がいるか、山を超えた先に何があるのか僕は知らない。知りたいと思ったことはある、けれどそれもまた今に疑問を持つのと同じなのか思った端から知らないのが当たり前だと心が判断してしまう。結局また同じ日々を、、、。

繰り返される日々を受け入れようと完成した術式道具を手に取り、少しばかしの満足感で心満たす。別に毎日が一緒なのが悪いことではない、些細な変化でも喜ぶことはできるのだから。窓から見た景色も広く見れば毎日同じだが、雲の形は常に変化して森の姿もよく見れば変わっている、そんな些細なことでも変わっているのなら同じ日々が流れているとは言えないだろう。

矛盾した結論で思考を終えた僕は流石にお腹を空かせたので下にあるセドが作り置きしてくれたお弁当を食べに部屋の扉向かった。その時だ。突然部屋の窓からの夕日が消え、微かに残った光の残滓がそれの、いや、彼女の輪郭をくっきりと映していた。


「おや?この時間は皆、広場にいるはずだが君は何故ここに?」


なぜここにいるのかと問いたいのは僕の方だと言いたいが、あまりにも衝撃的な僕の人生、家の中と窓の景色のみで完結していた世界が突然崩れ消えてくかのように僕は、未知と遭遇、新たな可能性と出会った。

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大輪廻ハ魂、外へと酔う鯨 サメチョコ @sisutemu

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