13話 冒険


「みんな、武器を構えろ!」


「おう!」

「了解です!」


 草原の中を走る気持ちの良い馬車に乗って、隣街まで辿り着いた俺たちは、早速依頼を遂行するために、街から少し離れた場所にある岩場エリアを訪れていた。


「ブォオオオオ……」


 剣や盾をリーダーの合図で構えて包囲する俺たちに、威嚇いかくするように魔物が低い唸り声を上げる。


 今回俺たちが討伐するには、〝イノッスル〟というイノシシに近い姿をしている魔物だ。


 小山みたいな巨体に、荒々しい性格。


 オークよりも耐久力があるにも関わらず、勢いよく突進してくる。


 Dランクの魔物だ。


 強力なイノッソルの突進を防ぐために、パーティーで唯一Cランクのコトゼが、魔物の前に出る。


「掛かってこい……」


 大盾を握って揺るぎがない自信を瞳に浮かべながら、ボソリと呟く。


 その一言に誘発されたのか、それともただの偶然か。



 イノッスルが凄まじい速度でコトゼに向かって突進していった。


「アリナ、魔法を放て! ソルル、コトゼの防御を支援しろ!」


 剣を片手に握りしめながら、リーダーが大声で指示を出し始める。


 反転して何度も、イノッスルはコトゼに体当たりを食らわせていた。


 大盾1つで全ての攻撃をコトゼが受け止めている間に、アリナが遠距離魔法を打ち込んで、魔物を弱らせていく。



 徐々に動きが鈍くなってきた頃に、リーダーが新たに口を開いた。


「よし、俺たちも攻撃するぞ。セラディール!」


「ああ、分かっている!」


 リーダーの掛け声に応じて、2人で駆ける。



 確実に仕留めるため、左右に別れて魔物に接近すると、思いっ切り剣を振り上げて弱り切った魔物に斬りかかった。




 そして、両脇から剣士の俺たちに攻撃されたイノッスルは、逃げることも出来ずに、呆気あっけなく地面に沈んだ。




「ふうーっ! みんな、お疲れ様です!」


 今回は誰も怪我をすることは、なかった。


 魔物はDランク相当のレベルだったが、最後まで苦労しなかった。


 もしかしたら昇格が出来ていないだけで、コトゼ以外のみんなもCランク以上の実力があるのかもしれない。


 あまり出番が無かった回復役のソルルが、魔物の解体を一人でドンドン進めていく。


 俺が水分補給をしている間に、彼に片付けられてしまった。



 この岩場エリアに出現するイノッスルは、群れを形成せずに単独で棲息している魔物だ。


 ソルルに魔物の解体をほとんどしてもらった俺たちは、新たなイノッスルを見つけるべく、移動を開始す。


 戦闘しては、徐々に慣れた手つきで倒して、イノッソルの解体を繰り返した。



 素材を5人で分担して持ち運んでいると、俺たちの動きも徐々に鈍くなってきた。


 この辺りで限界だろう。


 大量に討伐しようとして、誰かが大怪我を追えば本末転倒だ。


 俺がそろそろみんなを止めるべきだ。


 そう俺が思っていた矢先やさき、前を歩いていたリーダーのリルが振り返った。


「じゃあ、街に帰るぞー!」


=====



「今回の魔物は、ボクたちと相性良かったですね」


「ソルル、あんまり出番をあげれなくてゴメンね?」


 イノッスルを討伐した褒賞の金額はDランク冒険者にとって、かなりの金額になる。


 だが、誰もリーダーの決定に反対することは無かった。


 リル自身は経験がまだまだ足りなくて失敗ばかりしていると言っている。


 だが、これまで一緒に受けてきた依頼で、リルの判断はいつも的確だった。


 戦闘であまり活躍出来なかったメンバーが、戦闘以外の場所で多めに働くというルールを決めたのもリルだと聞いていたし、冒険者にありがちな喧嘩もない。


 他のメンバーだって、低い冒険者ランクの割には実力が随分とあった。


 受けた依頼で苦戦することは少ない。




 このパーティーは将来、もっと高ランクのパーティーになるのかもしれない。


「誰も怪我をしないのが一番ですし、ボクは気にしてませんよ」


 今回の戦闘では活躍の機会が少なかったソルルが、ニコニコした表情で、アリナに言う。


 だけど冒険者というのは、己の力を発揮したいものだ。


 きっと次の依頼では、ソルルが大いに活躍出来るような依頼を、リーダーは受けるに違いない。




 街に向かって帰りの道を歩きながら、俺は空を見上げる。


 まだ、太陽は高い位置にあった。昼下がりの時間だ。


「まだ今日の馬車の最終便まで時間があるか。せっかく来たんだし、街でも観光しないか?」


「私、賛成ー!」


「いいな、それ」


「確かにー」


 俺の提案に、口々にみんなが賛成の声を上げる。


 俺たちは残りの時間で、思いっ切り観光を楽しむことに決めた。





=====



「これ、本当にウマい!」


「確かに、くそ美味い。この街に来る依頼があったら、セラディールもまた来るか?」


「ああ、是非また呼んでくれ!」


 美味しそうな匂いに誘われて、入った焼き肉店は絶品だった。


 俺は口に次々と肉を放り込みながら、リーダーの問いに勢いよく首を縦に振って即答する。


「セラディール、あなた本当に“人生を満喫してます”感あるわよね……」


「初めて会った時には、紅茶飲んでいましたし……


 今日一番の生き生きとした表情をしながら絶え間なく肉を食べ続ける俺に、向かいの席に座ったメンバーたちが、楽しそうに感想を漏らす。


 この店に入る前に立ち寄った屋台でも、俺はカリッと美味しそうなパンを手に入れている。


 明日の朝ご飯がすでに楽しみだ。



 もちろん、帰りの馬車で食べるための菓子も抜かりなく、購入済みだ。


 この街には、美味しいものが沢山あった。


 追放されていなければ、街にある小さな焼き肉屋に美味しい食べ物があることも知らなかっただろう。



 馬車の中、買った菓子をみんなで食べるのが楽しみだ。


 新たに運ばれてきた大盛りの肉を口いっぱいに頬張り、みんなと再度乾杯をするためにジョッキを持ち上げる。


「自由、最高~!」

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【朗報】俺、やっと追放される! 人狼 @Jinro897

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