12話 最高の日々を満喫中です。
何も冒険者の基本知識を知らなかった俺に、丁寧に魔物の解体方法を教えてくれた冒険者のパーティーは〝
パーティーは剣士、魔法使い、盾使い、回復士から構成されている。
俺をパーティーに誘ってくれた剣士の男がリーダーだ。
魔物の攻撃を一手に担う盾使いだけがCランクの冒険者で、他のメンバーは全員Dランク。
その一方で、パーティーに誘われた俺はFランクだ。
一週間に数回しか参加しないつもりでも、俺がDランクのパーティーに参加していいのか疑問に抱いた俺は、その点を最初に確認した。
だが彼らはランクとか、ルールとか、あまり細かいことは気にしないそうだ。
つまり、パーティーメンバーと同じような実力があれば良いらしい。
今日はそんな彼らと依頼を一緒に受けに行く約束をしていた。
寝るときには外していた金髪を隠すための魔導具を身につける。
茶髪に変装した俺は、冒険者になるために買った動きやすい服に着替えていく。
まだ朝日が昇り始めたばかりの早朝だ。
朝を知らせる小鳥のさえずりが、窓の外から少しだけ聞こえた。
心地良い音に耳を澄ましながら、部屋のテーブルで1階のレストランで作ってもらった朝ご飯を頬張る。
追放されてから
だが、俺が使っていた手下の大半は、王太子になった弟に数日前に全員あげてしまった。
自堕落に生きる俺に、優秀な人材は必要ないのだ。
なので基本的に食事は宿の1階にあるレストランで食べている。
食事を運んできてくれる女の子たちは可愛いし、日替わりメニューもどれも美味しくて素晴らしいので、特に困ったことはない。
俺にとって食事は、すっかり楽しみの1つとなっていた。
追放されても手放せなかった愛剣を片手に、俺は宿を出る。
待ち合わせ場所は、大通りにある冒険者ギルドの前だった。
「ここだぞー! セラディール」
俺が待ち合わせの冒険者ギルドの場所まで歩いて向かうと、集合時間よりも早く来たはずなのに、他の4人はすでに揃っていた。
剣士のリルが、大きく手を振っている。
他の3人は早朝ということもあって、少し眠たそうだ。
一人だけ元気に手を振っているリルと、他の3人が纏っている眠たくてどんよりした空気の落差が非常に激しい。
思わず俺は笑いを漏らしながら、小走りで駆け寄っていった。
「みんな、おはよう!」
「おはよう御座います」
「……お……はよう」
「おはようです……」
今日俺たちが受ける依頼は、Dランクの魔物討伐だ。
俺はFランクなので、1人の時はFランクか、Eランクの依頼しか受けられない。
だが、〝道草の雑草〟はパーティーとしてはDランクの実力評価をギルドから貰っているから、俺もこうしてDランクの依頼に参加することが可能なのだった。
討伐する魔物は水属性の魔法を使うイノシシみたいな見た目をしている魔物で、隣の街から少し離れた場所に出現する。
隣の街とは随分距離があるので、徒歩ではなく、馬車を使ってこれから向かう。
予定通り上手く魔物を狩れれば、今日中に馬車に乗ってこの街まで帰ってくるつもりだ。
日帰りのちょっとした旅行に行くような感じがする。
みんなで今日の依頼を受けるのを、俺は楽しみにしていた。
それでも早朝なので、俺もまだ寝ぼけている。
しかし、寝ぼけているどころでは済まなそうな様子で、半目を閉じて寝ているメンバーに、俺は同情の苦笑を溢す。
前の俺は、毎日こんな感じだった。
「じゃあ、行こっか」
決めていた集合時間よりも前に全員が集まったので、相乗りの馬車が発車するまで、まだ余裕はある。
それでも、馬車に乗り遅れたら今日中に帰ってこれなくなるかもしれない。
俺たちは、ひとまず馬車の出発場所に向かっていた。
「寝坊して、朝ご飯食べれませんでした……」
「ボクもです……」
冒険者ギルドの前から移動している間に、マリアとソルルが、まだ眠たそうな表情で言う。
「……時間もあるし、屋台で何か買っていくか?」
「向こうの通りに、美味しいホットドッグの店があるぞ」
街中の屋台を最近食べ歩きしている俺は、近くにあるオススメの店を盾使いのコト背に提案する。
眠たそうだった3人のなかで、唯一コトゼだけが歩いている最中に覚醒していた。
「じゃあ、寄り道だな!」
最初から元気だったパーティーリーダーが賛成したことで、俺たちは朝からやっているホットドッグの屋台に立ち寄ってから、馬車の出発場まで向かった。
ちなみに俺は、隣の屋台でちゃっかりコーヒーとクッキーを買っている。
結局、最初は朝ご飯を食べていない二人だけがホットドッグを買う予定だったのに、気付けば
目的地の隣街に向かって、馬車は朝の日差しに照らされながら、朝露で光輝く草原を駆け抜けていく。
気持ち良い風に身を委ねる。
買ったコーヒーとクッキーを食べながら、朝の草原を駆けていくのは最高だった。
「セラディールは俺たちと一緒に依頼を受けていない日は、何をやっているんだ?」
ホットドッグをペロリと食べ終わったソルンが、包み紙を畳みながら聞いてくる。
俺はコーヒーに口を付けながら、のんびりと答えた。
「うーん、部屋で一日中ゴロゴロしている日もあるな。たまにFランクの薬草採取の依頼を受けたりしている。あまり戦闘系の依頼は受けないかも」
「薬草採取の依頼って、お前、また魔物の森で紅茶でも飲んでるのか?!」
横に座っていたリルが俺の方を向いて、答えも予想がついているのか半笑いになりながら尋ねてくる。
「……ちゃんと、魔物は解体してるよ」
みんなからの視線を感じて、俺は口ごもりながらボソボソと半分笑って答える。否定はしなかった。
街道を走る馬車は、特に魔物に遭遇することもなく、順調にずっと続く草原の道を駆け抜けていった。
俺たちは他愛のない話をして過ごしたり、朝飯を食べ終わった二人は、腹が膨れると二度寝をしていたり。
3時間ほど経っただろうか。
ずっと続く草原の地平線の先に、建物が立っているのが遠目に見え始めた頃だった。
剣士のリルが誰よりも早く気付いて、指を指して言った。
「街が見えてきたぞ!」
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