11話 休憩


 地面に布を広げて、紅茶を飲みながら読書をしている男の周囲には、大量の死体が散乱していた。


 遠くから見たときには分からなかったが、どれも一撃で仕留められている。


 ゴブリンやウルフの死体。この森に棲息せいそくしている魔物のなかでは強いとされるオークの死体まであった。


 そのオークだって、ソロで倒したはずなのに特に苦労した戦闘の後はなく、綺麗に剣で真っ二つにされている。


 周囲の惨状に対し、ノンビリとした一時を過ごしているセラディールに、冒険者の一団は自然と顔を更に引きつらせた。




 魔物の気配ではない人間の気配が近づいてきたことに気が付いて、俺は本から視線を上げると、魔物の素材を背負った4人組の冒険者が近づいてくるのを視界に入れる。


「どうしたんだ? 紅茶でも一緒に飲むか?」


 何か俺に用事でもあるのだろうか?


 何故かドン引いた表情をしながらやって来た冒険者たちに、その場から立ち上がった俺は頭を傾げながら尋ねる。


 平民になりたての俺には知り合いだっていないし、強い魔物を倒せるような力だって持っていない。


 なぜ彼らが俺の元にやって来たのか、分からなかった。


 あくまで俺は王太子として、命の危険に晒されても俺の護衛が助けに駆けつけるまでの時間を稼ぐ護身術程度にしか、強く無い。


 弟の命を狙って侵入してきた暗殺者たちを夜中に屠りに行ったこともあるが、あれは……うん。ノーカンだ。


 俺も元までやってきた冒険者たちに戦意は無かったが、彼らも武器を持っていたので一応剣が腰を腰にさしたまま立ち上がる。


「……いや、そういう紅茶が飲みたいとかじゃなくてな…………」


 俺と同じように剣を腰に差している剣士らしき男が、困ったように頭を乱暴に掻きむしりながら言葉を濁す。


「あなた、休憩するなら先に魔物の死体を片付けてからの方が良いわよ。

 血の臭いに誘われて他の魔物をおびき寄せちゃう」


 剣士の男に代わって、隣にいた冒険者の一団では唯一の女性が言葉を続ける。


「ここには駆け出しの子だって多く訪れているし、あなたは強いから良いかもしれないけど、初心者の子たちがおびき寄せられた魔物に遭遇しないように、気を払ってあげる事も大切だわ」


 冒険者たちに指摘に、俺は目を丸くした。


 少しの間を開けて、冒険者たちがわざわざやって来て言いたかった事をしっかり理解できた俺は、申し訳なく思う。


「ああ……。そうか、すまない。魔物が血の臭いに誘われてやって来ることは、知らなかったんだ。どうりで魔物が集まってくるはずだ」


 この森は魔物の気配も少なくて、比較的安全だと思っていたのに、意外と多くの魔物がやって来た理由に今さら気づけた俺は言葉を続ける。


「それに倒したのは良いんだが、解体を知らなくて……」


「なんだ、強いのに冒険は初心者なのか」


「……ボクは解体の方法さえも知らない冒険者を冒険者と呼べるのか、聞きたいぐらいですけど」


 他の冒険者からも耳が痛い感想を貰ってしまい、俺が苦笑いを漏らす。


 冒険者になったのは昨日のことだし、超初心者だ。


 確かに俺は冒険者なら誰もが知っている基本的な知識を持っていないのは否定できない。


「じゃあ、知らないなら俺たちが解体の仕方を教えてやるよ」


「良いんですか?」


「おう、いいぞ。別に良いよな? みんな」


 驚いて聞き返した俺に、あっけらかんとした表情で剣士の男が返事を返すと、確認するように問われた他の冒険者も頷いて返す。


 背負っていた重そうな魔物の素材をその辺の地面に置き、解体に必要なナイフなどの導具を取り出し始めた先輩冒険者たちが、俺の方を向いて笑いかけた。


「ちゃんと教えてやるから、今度からは魔物の片付けをやるんだぞ?」


「はい、ありがとう御座います!」


 俺に解体の方法を教えても、彼らには何も利益が無い。


 それなのに魔物の解体を実際に見せながら教えてくれる冒険者たちは親切で、技術も素晴らしかった。


 城で過ごしていては感じられなかった見返りのない優しさに、俺は心がそっと温まるのを感じた。



=====



「なるほどな。そりゃあ、解体の仕方も知らないわけだ」


 無事に全ての魔物を片付け終わった俺たちは、せっかくなので一緒に紅茶を飲んでいた。


 俺たちは、会話に花を咲かせる。


 冒険者登録を昨日したばかりだと知った冒険者たちが、納得したように頷いた。


「ああ、だからランクはFだ」


「ボクらには、もっと実力があるように見えますがね。オークを一人で倒せるならDランクか、もしかしたらCランクぐらいの力があるかもしれない」


「私もそう思うかな」


 高価なことで知られる魔導具から、紅茶カップと共に出したお菓子を頬張りながら、魔法使いの女は頷く。


 魔物が居る森の中で無防備に高価な本を読んでいたし、セラディールと名乗った男は、のんびりと穏やかな雰囲気を漂わさせているのに、実力があって変なバランスを感じた。


「リーダーとセラディールさん、どっちが強いと思う?」


「さあ? どうでしょう」


「お、俺の方が絶対強いに決まっている! 俺には超絶パワーがあるんだ!!」


 メンバーの言葉に、剣士の男が面白おかしく慌て始める。


 自分の剣を手に取って一見カッコ良さそうな、ダサいポーズを披露し始める。


 それがあまりにもおかしくて、俺も含めた全員が吹き出すように笑った。



 みんなでワイワイ話す時間は、本当に楽しかった。


 追放されてからはまともな話し相手が居なかったし、俺は少し心の片隅で寂しさを感じていたのかもしれない。


 賑やかに会話をしていた時間は、体感であっという間に終わってしまった。

 夕方になってきたし、暗くなる前に街へ戻った方が良いだろう。


 広げていた者を魔導具の中にしまって片付けをしする。


 そうしていると、離れた場所で他のメンバーと話し込んでいたリーダーの男が俺に話しかけてきた。


「セラディールさんよ」


「ん?」


 片付けをしていた手を止めた俺に、リーダーの男が俺の顔色を伺いながら、照れるように不器用な笑顔を浮かべて言った。


「良かったら俺たちのパーティーに入ってみないか? お試しで」


 向こう側では、少し前まで話し込んでいた他のメンバーも俺のことを見ていた。


 どうやら話していた内容はこのことだったらしい。




 俺は予想外の言葉に一瞬驚くが、目を輝かせて直ぐに頷いた。


「ああ、是非!」



ーーーーー


 どうも、作者です。

 自分の小説をスマホで読んでみたら、めっちゃ読みにくくて驚きました(超絶句)。


 公募に出すような文体を、少し簡単にしただけでは駄目なんですね……w

 読みやすいように全修正をかけるので、しばらくお待ち下さい。


 作者

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る