第6章 第3話:決意の灯火

ベレルの言葉を聞いたセレスティアの胸の中には、これまでにないほどの怒りと悲しみが渦巻いていた。自分が国外追放された理由が、個人的な罪や過ちではなく、王国に渦巻く政治的な陰謀によるものだったという事実。彼女が何も知らないまま無実の罪を着せられ、家族や友人と引き裂かれ、異世界の地で孤独に生きざるを得なかった理由が、ようやく明らかになった。

「こんなことが…許されていいの?」

セレスティアは震える手を握りしめ、心の中で湧き上がる怒りを必死に抑え込もうとした。だが、それは簡単に収まるものではなかった。自分が背負った無実の罪の重さだけではない。何も知らずにこの世界を漂ってきた自分の無力さ、家族を守れなかった悔しさが、胸の奥で苦しみとなって膨らんでいく。



「…家族は、どうしているのかしら」

セレスティアは小さな声で呟いた。それはベレルだけでなく、自分自身への問いでもあった。追放されてからというもの、自分の家族がどうなっているのか、彼女は何も知らなかった。彼らが自分の追放によってどれほど苦しみ、どれほど戦ってきたのかを想像するだけで、胸が痛む。

「家族を守るために、私は追放された。なのに、その家族がどうしているのかも分からないなんて…」

そう呟くと、ベレルが静かに口を開いた。

「君の家族のことは、俺も正確には知らない。ただ、オルドレッド家が完全に消されたわけではないという話は聞いている」

その言葉はわずかな希望を彼女に与えたが、それでも不安は消えなかった。家族が生きている可能性があるのなら、どうしても真実を暴き、彼らの名誉を守りたい。それは、国外追放されてから初めて胸の奥底に灯った、明確な目標だった。

セレスティアは静かに目を閉じた。心の中に渦巻く感情を整理し、一つの決意を固めるためだ。そして目を開き、真っ直ぐにベレルを見つめた。

「ベレル、王国に戻って、この陰謀を暴く方法はあるの?」



ベレルはセレスティアの問いに、少しだけ沈黙した。その間、彼の表情にはためらいが見えた。彼は、彼女がこれから進むべき道がどれほど危険なものであるかを熟知していた。数秒の沈黙の後、ベレルはゆっくりと口を開いた。

「方法はある。しかし、それは非常に危険だ」

その声には、覚悟を試すような鋭さがあった。

「君が再び王国に足を踏み入れるだけでも、命を狙われるリスクは高い。おそらく、王国の貴族たちは君が生き延びているとは考えていない。彼らにとって君の存在は、完全に消し去られるべきものだからだ」

その言葉に、セレスティアの胸に冷たい感覚が走った。王国に戻ることは単なる旅ではなく、命を賭けた戦いの始まりを意味している。それは彼女自身がよく理解していた。

「それでも、君が進む覚悟があるのなら、俺は協力しよう」

ベレルの真剣な眼差しを前に、セレスティアは深く息を吸い込んだ。彼の言葉に含まれる危険性を理解しつつも、彼女の心の中には既に迷いはなかった。

「…進むしかないわ」

セレスティアは静かに頷いた。その言葉には確固たる決意が込められていた。真実を知らなければ、この世界で自分が生きる意味も、家族の無実を証明する方法も見つけられない。自分が背負った運命から逃げることはできないのだ。



セレスティアの決意が固まったことを知り、冒険者の仲間たちはそれぞれの表情で彼女を見つめた。戦士のアルフは、豪快な笑みを浮かべながら言った。

「いいじゃねえか。そいつはでけぇ目標だ。俺たちがついてりゃ、どんな危険も乗り越えられるさ」

カイは軽快な口調で冗談めかした。

「ま、王国の陰謀に挑むなんて、退屈な旅よりよっぽど面白そうだな。俺も一緒に燃えてきたくなったよ」

しかし、最も冷静だったのはリウスだった。彼はじっとセレスティアを見つめ、静かに言った。

「セレスティア、本当に覚悟はできているのか?これは単なる冒険じゃない。敵はおそらく、これまで君が想像していたよりも狡猾で、力を持っている連中だ。それでも進むというなら、俺たちは君を支える」

その言葉に、セレスティアは少し笑みを浮かべて頷いた。

「ありがとう。でも、もう迷うことはないわ。私は家族のために、真実を知り、戦う覚悟ができた」



セレスティアの中には確かな炎が燃え始めていた。それは、自分のためだけではなく、家族のため、そして理不尽な陰謀に立ち向かうためのものだった。旅の目的地は、いよいよ王国へと定まった。

「ベレル、これから私はどう動けばいいの?」

ベレルは少し考えた後、地図を取り出し、王国の位置を指し示した。

「まずは王国近辺の情報を集める必要がある。君が直接乗り込むには準備が足りない。潜入の手段も考えなければならないが、それは俺の手配に任せてくれ」

「分かった。私は準備を整えておくわ」

そうしてセレスティアは、新たな旅の準備を進めることになった。王国に戻る道は決して平坦ではなく、多くの困難が待ち受けているだろう。しかし、彼女の心にはもはや迷いはなかった。

「家族を守り、自分の名誉を取り戻す。そして、王国の陰謀を暴くために…」

そう心に誓い、セレスティアはゆっくりと歩き出した。

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魔法と知恵袋を携えて、異世界で新たな運命を deep-friedbread @deep-friedbread

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