第52話

「笑うことないでしょ…。話すの、慣れてないんだから…」



ボソボソと言った出雲に「悪い悪い」とまだ緩む口元のまま軽く謝る。



「ありがとな」


「……え?」


「心配してくれて。でも、マジで大丈夫だから。あんま気にすんな〜」



そう言って「じゃーな」と立ち去ろうとすると、なんだか声まで可愛いらしい出雲が小さく何かを言った。



「…がと、」


「なに?」


「私の方こそ……」


「…」


「……あ、ありがと、助けてくれて…。」



そう言った出雲の零れそうな程大きなその瞳は泳ぎながらも俺に向けられていて。



え、感謝された?



男には暴言しか吐かないって噂の、出雲が俺に?




「…本当は…、それだけ、言いたかったの。」


「…」


「……うん、それだけ。じゃ、じゃあね」



出雲を見る俺にひとり納得した様子で頷いて、俺の横を通り過ぎていく華奢な女。

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