第18話
アラスカの厳しい冬を越え、吾輩は群れでの生活に終わりを告げ、遠く離れた家族の元へ戻る決意を固めた。長く続く雪の大地を振り返り、吾輩はボスやリリーに別れを告げる。
「吾輩は、どうしても家族のもとへ戻りたいんや」
ボスは無言でうなずき、誇らしげな表情で吾輩を見つめた。「お前の決意は尊い。だが、遠い地へ行くには多くの試練が待っている。忘れるな、この地で学んだ力を」
リリーもそっと吾輩に寄り添い、「あなたならきっと成し遂げられるわ。家族がきっと待ってる」と微笑んでくれた。
そうして吾輩は、長い旅を開始した。
アラスカの海岸に到着した吾輩を待ち受けていたのは、果てしなく広がる氷の海だった。海面は冷え込みによって凍りつき、ところどころに裂け目が走り、無数の氷塊が流れていた。ベーリング海峡。この凍りついた海峡を渡れば、吾輩はユーラシア大陸へと足を踏み入れることができる。しかし、そこに待ち受けているのは過酷な自然との闘いだった。
吾輩は、覚悟を決めて海峡の氷の上へと一歩足を踏み入れた。氷の下から響く不気味な音が吾輩を包み、どこか異様な圧力がのしかかってくる。冷たさは骨の髄まで染み込み、足を踏み出すたびに体が凍えていくようだ。だが、吾輩は進むしかない。
氷は滑りやすく、足を滑らせるたびに冷たい風が容赦なく吾輩の体を叩きつける。足元が不安定で、どこか踏み外せば裂け目に落ちてしまう危険が常に付きまとっていた。吾輩は慎重に一歩ずつ進み、裂け目を避けながら前に進んだ。
しかし、凍った海峡を渡る旅は、自然の力が容赦ないものであることを思い知らされるものだった。ある晩、突然、足元の氷がひび割れ、吾輩は冷たい水の中に落ちかけた。咄嗟に氷の端を爪でつかみ、必死に引き上がろうとしたが、体が凍えるように冷たく、力が入らない。
「家族のもとへ帰るんや…ここで倒れるわけにはいかん!」
吾輩は自らを鼓舞し、最後の力を振り絞って氷の上に這い上がった。濡れた体が冷気にさらされ、寒さが一層激しく身を襲ったが、吾輩はただ震えながらも歩みを止めなかった。視界にはただ凍てついた氷が広がり、家族のもとへ戻れる保証もない。それでも、進むしかなかった。
何日も歩き続け、夜が訪れたある日、凍りついた海峡に猛烈な吹雪が吹き荒れた。風は容赦なく吾輩の体にぶつかり、視界を奪っていく。前方に何も見えず、風の音が響く中で、吾輩はひたすら前へ進もうとした。しかし、雪と風が強すぎて、吾輩はとうとうその場で立ち止まってしまった。
「吾輩はここで倒れてしまうのか…」
心の中に弱気な声がよぎったが、家族の姿が思い浮かんだ。キッズが吾輩の名前を呼び、スマホママが優しく撫でてくれる温かさが胸に蘇った。それを失いたくない。それを思うと、倒れるわけにはいかない。
吾輩は雪を掘り、冷たい風を避けるための小さな穴を作り、その中に体を縮めた。吹雪が止むまで、耐え抜くほかに道はない。吾輩は小さく丸まりながら、寒さと眠気をかみしめ、家族を思いながら夜を耐えた。
夜が明け、吹雪が収まると、凍りついたベーリング海峡の向こうに朝陽が差し込んでいた。氷が太陽の光を受けて輝き、辺りが静寂に包まれる。疲れ切っていた吾輩だったが、この光景を見て再び力が湧き上がるのを感じた。
「もう少しや…吾輩はここを渡りきらなあかん」
疲れ果てた体を引きずるようにして、吾輩は最後の力を振り絞り、再び歩みを進めた。凍りついた氷の上を、ただ一歩ずつ慎重に踏みしめていく。体は冷え切り、足は痺れていたが、家族のもとへ帰りたいという一心で前へ進んだ。
数日後、吾輩はようやく海峡を渡りきり、ユーラシア大陸の大地に足をつけた。大陸にたどり着いた瞬間、吾輩は倒れ込み、地面に顔を押しつけて息を整えた。体は疲労の極みに達していたが、家族に再会するための第一歩を踏み出せたのだ。
吾輩は静かに目を閉じ、冷たい地面の感触を味わった。これからも過酷な道が続くことは分かっているが、ここで立ち止まるわけにはいかない。
「吾輩は、家族のもとへ帰るんや」
吾輩はゆっくりと立ち上がり、新たな決意を胸に抱いて、さらに日本を目指す。
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