第17話
数日が経ち、吾輩は群れの中で少しずつ存在感を増していた。ボスやリリーに鍛えられながら、吾輩の体も心も着実に強くなっているのを感じていた。厳しい寒さや飢えも、今ではそれほど苦痛ではなく、むしろこの冷たい大地が吾輩の血を刺激し、新しい力を与えてくれているようにさえ思えた。
ある夜、群れが雪の中に身を潜め、眠りにつこうとしている時だった。遠くから鋭い風に乗って聞こえてきたのは、あのオオカミの遠吠えだった。彼は再び、吾輩たちの狩り場を侵略するつもりなのだろうか。吾輩は胸に緊張が走り、ボスの顔を見た。
ボスもまた、鋭い目で遠くを見据えていた。「奴は、俺たちの群れを試しているのかもしれない」と低く唸りながらつぶやく。
「試している…?」吾輩はその言葉に疑問を抱きながら、群れの皆がどこか張り詰めた様子で身構えているのを感じた。ここは野性の掟が支配する場所。強さだけが全てを決める残酷な土地だということを、改めて思い知らされた。
ボスは群れに目を配り、「奴が何を企んでいようと、俺たちはこの地を守り抜く」と宣言した。その声には絶対的な覚悟と誇りが満ちており、吾輩もその言葉に心が奮い立つのを感じた。
その夜、吾輩たちは周囲を警戒しながら静かに待機していた。やがて、遠くから再びオオカミの影が現れた。彼は一匹ではなく、数匹の仲間を連れてこちらに迫ってくる。彼らの目は飢えと野心に満ちており、吾輩たちの狩り場を奪おうとしているのが明らかだった。
ボスが群れを前に出し、低く唸り声を上げる。「ここは俺たちの地だ。簡単には譲らないぞ」
オオカミのリーダーが冷ややかに笑い、「強さで証明してみろよ」と挑発するように言い放った。その瞬間、彼らが一斉に襲いかかってきた。激しい戦いが始まった。
吾輩も逃げることなく、群れの仲間と共に立ち向かった。初めての本格的な戦いだったが、リリーやボスと共に過ごした日々で培った本能が、自分を駆り立ててくれているように思えた。恐怖は薄れ、ただこの場で仲間を守り、自らの力で生き残ることに集中していた。
戦いの最中、吾輩はオオカミの一匹と対峙した。彼は体格こそ吾輩よりも小柄だったが、素早い動きと鋭い牙で襲いかかってくる。吾輩は必死に彼の攻撃をかわし、雪の上を素早く滑るようにして間合いを取った。
「吾輩は、ここで生きると決めたんや!」吾輩は心の中で叫び、全力で彼に飛びかかり、体重をかけて押さえつけた。オオカミは驚き、抵抗を試みたが、吾輩は必死に押さえ込み、ついに相手が逃げ出すまでその場を守り抜いた。
周囲を見ると、ボスやリリーもまた果敢に戦い、オオカミたちは次第に劣勢に追い込まれている。リーダー格のオオカミも傷を負い、ようやく退却を決意したのか、「今回は引いてやるが、覚えておけ」と威嚇しながら姿を消した。
戦いが終わり、吾輩は息を整えながら、ようやく緊張が解けていくのを感じた。ボスが近づいてきて、「よくやった、吾輩」と静かに声をかけてくれた。その一言は、何よりも誇らしく、温かいものだった。
リリーも近寄り、優しく吾輩の顔をなめてくれた。「あなた、本当に強くなったわね。もう完全に私たちの仲間よ」と微笑んだ。
吾輩は胸の奥に温かなものが込み上げるのを感じた。かつては家族と共にぬくぬくと暮らしていた家犬だったが、今はこの厳しい地で仲間と共に戦い、共に生き抜く者としての誇りを持てるようになったのだ。
その夜、吾輩は仲間と共に静かに眠りについた。空には無数の星が輝き、冷たい夜風が頬を撫でる。野生の掟に身を投じ、仲間と共に生き抜く覚悟が、吾輩を新しい存在へと変えてくれている。
そして、心のどこかで吾輩は思っていた。この地での生活は決して楽ではないが、今なら自分の力で生きていける。そして、もしも家族のもとへ戻る時が来たら、ただの家犬ではなく、誇りを持って守れる存在として再び家族と向き合えるだろう。
「吾輩はただのイッヌやったけど、今はこの地で誇りを持って生きとる」と、心の中で静かに呟きながら、吾輩はその夜、深い眠りに落ちた。
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