第11話
日常が穏やかに戻ったある朝、家族がリビングに集まって朝食をとっている中、スマホママが何か考え込むようにしているのが目に入った。彼女は少し悩ましげな表情を浮かべており、何かが気になっている様子だ。
「どうしたん?」タケルがコーヒーを飲みながら尋ねると、スマホママはスマホを見つめながら答えた。
「フォロワーもだいぶ増えたけど、そろそろ『天才イッヌ』ネタも飽きられてきてる気がするのよね…」
なんJニキも、興味なさそうにスマホをいじりながら口を挟んだ。「まあ、ネットってのは移り変わりが早いからな。お前のフォロワーもすぐ別のネタに食いつくだろ」
そのやりとりを聞きながら、吾輩は心の中で「やれやれ、ようやく騒ぎが落ち着いてきたか」と思っていた。天才イッヌの評判が少しずつ忘れられることは、吾輩にとって歓迎すべきことだ。吾輩はただのイッヌとして、静かに家族と過ごすことを望んでいる。
その時、キッズが明るい表情で言った。「イッヌちゃんが普通にしててくれるだけで、私は十分だよ!」
その言葉にスマホママも少し考え込むようになり、「そうね…結局、イッヌがいてくれるだけで家族にとっては十分幸せなのかもね」と、しみじみと呟いた。
タケルは冗談っぽく「お、スマホママが悟りを開いたか?」とからかうが、スマホママは照れくさそうに笑い、「まあ、ずっと特別扱いするよりも、普通に大事にしてあげるほうがいいのかも」と答えた。
その日、スマホママはインスタに一枚の写真を投稿した。そこには、特に「天才イッヌ」として特別な演出もなく、ただキッズの隣でリラックスしている吾輩の姿が写っていた。そして、投稿のキャプションにはこう書かれていた。
「我が家のイッヌ、いつも私たちを癒してくれる大切な家族です。特別じゃなくても、これが本当の幸せ」
その投稿は、多くのフォロワーから「素敵な家族ですね」「シンプルでいいですね」といった温かいコメントを受けた。スマホママも少しずつ、フォロワーのために過剰に飾り立てることから離れ、家族の日常を大切にすることに意識を向け始めたようだ。
その夜、家族全員がリビングに集まり、自然に笑い合い、話をする時間が流れた。なんJニキもスマホを少しだけ離し、タケルも「ネットのネタで盛り上がるのも楽しいけど、こうしてみんなでいるのが一番やな」と素直に笑っている。
キッズも吾輩を撫でながら、「イッヌちゃん、普通でいてくれてありがとう」と囁くように言ってくれた。
吾輩は、その言葉に応えるように「ワン」と静かに吠えた。家族が騒ぎを通して、少しだけ本来の「幸せ」を見つけた気がする。この家族は、特別なものを追い求めるよりも、ただ一緒に過ごすことに価値を見出し始めたのだ。
「やれやれ、これが一番の幸せやな」と吾輩は心の中でつぶやき、リビングの真ん中で体を丸めた。
吾輩はイッヌである。ただのイッヌとして、この家族のそばにいることが吾輩の役目であり、吾輩の誇りだ。騒がしい日々があっても、家族が迷った時には静かに見守り、そして、こうして一緒にいる時間を何よりも大切にしていくのだ。
静かな夜が訪れ、家族はそれぞれの部屋へと戻っていった。吾輩はリビングの真ん中で一人、静かに目を閉じる。この平穏な日常こそが、吾輩にとって最高の贈り物であり、家族にとっても大切な宝物であることを知っているからだ。
「ほんま、ワイはただのイッヌで十分や」と、再び心の中で呟きながら、静かに眠りにつくのであった。
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