第4話

昼寝から目を覚ました頃、吾輩は少し奇妙な光景を目にした。なんJニキが、いつになく焦った様子でスマホをいじっているのだ。普段は掲示板で「草」とか「w」とか呟きながらリラックスしている彼が、何かに追い詰められたように画面に釘付けになっている。


「マジで!?なんでこうなるんだよ…」なんJニキは額に汗を浮かべ、口元を噛みしめている。


「何やってんだ?」と吾輩は思いつつ、彼の足元に歩み寄ってみた。彼は吾輩に気づく様子もなく、スマホを激しくタップし続けている。


「これ、絶対に晒されてるわ…やべえ、どうする?」と自問自答を繰り返している。どうやら、彼が掲示板で立てたスレが思わぬ方向に転がってしまったらしい。


「イッヌが家族を見下してる説」なんてスレを立てた時点で、ろくなことにならんとは思っていたが、どうやらそのスレが予想外にバズり、彼の意図しない方向へ話題が広がってしまったらしい。スレには、彼が投稿した家族の日常の写真や愚痴が次々と晒され、それが逆に彼の個人情報を掘り返す原因となったようだ。


「これ、消さなきゃ…でももう手遅れかも…」なんJニキはパニック状態に陥っている。


吾輩はその姿を見ながら、「やれやれ、ほんまアホやな」と呆れつつ、彼の足元に座り込んだ。


その時、スマホママがリビングに入ってきた。「あんた、またなんかやらかしたんでしょ?顔が青いわよ!」と鋭い声で問い詰める。


「いや、なんでもないって。ほんの…ちょっとしたネットのことだから」なんJニキは動揺を隠しきれず、さらに焦る。


「嘘ついても無駄よ!ネットで何か問題になってるんでしょ?インスタでも少し見かけたわよ、変な投稿が広がってるって!」


スマホママは、自分のSNSのイメージに敏感だ。彼女にとって、家族がネットで晒されることは何よりも屈辱的なことだろう。スマホママの顔が段々と険しくなっていくのが見て取れる。


「マミ(スマホママ)、ちょっと落ち着けよ。ネットなんていつもそういうもんだろ?大げさに考えるなって」タケルが横から軽い口調で割り込むが、彼も少し不安げだ。なぜなら、彼自身もネットでのやりとりに精通しているからこそ、事態が手に負えなくなる危険性を感じているのだろう。


「そんな軽く済ませられるわけないでしょ!」スマホママはさらに声を荒げ、なんJニキに詰め寄った。「あんた、何を書いたの!?どういうつもりなのよ!」


なんJニキは、どう説明すればいいか分からず、ただ俯いてスマホを握りしめている。そんな時、キッズが部屋に入ってきた。


「どうしたの?」と、キッズが心配そうに聞く。


吾輩はその瞬間、キッズの存在に少しだけ救われた気がした。彼女がいると、家族の中でほんの少しの平和が保たれるからだ。彼女が落ち着いた声で話しかけると、なんJニキもスマホママも少しだけ冷静さを取り戻す。


「もう、やめようよ。ネットのことはわからないけど、家族が一緒にいることのほうが大事でしょ?」キッズがそう言うと、吾輩は思わず心の中で「その通りや」と同意した。


「でも、どうすれば…」なんJニキは小声で呟く。「もうスレは拡散しちゃったし、取り消しようがないんだ…」


「そんなこと気にしなくていいよ。イッヌちゃんも、私たちも、みんな仲良しなんだから」とキッズが微笑み、吾輩の頭を優しく撫でた。


吾輩は、キッズの言葉に救われる思いだった。家族の中で唯一まともな彼女がいる限り、このアホな家族の生活も、まだ何とかなるかもしれないと。


結局、スマホママもタケルも、なんJニキも、少しずつ冷静になっていった。問題はすぐには解決しないだろうが、家族が一緒にいることが大事だということを、キッズのおかげで少しだけ思い出したようだった。


吾輩はそんな彼らの様子を見ながら、またいつもの場所に戻り、体を丸めた。「ほんま、ワイはイッヌやしな」と心の中で呟きながら、静かに目を閉じた。


この家族は相変わらずやが、少しずつ変わっていくのかもしれん――そんな期待を胸に、吾輩はまた昼寝を始めるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る