第3話
昼寝を決め込もうとしたその時、リビングから再び不穏な声が聞こえてきた。どうやらまた家族会議が始まるようだ。
「なんでこんなこと書くのよ!うちのイッヌが家族を見下してるって、インターネットで言いふらすなんて信じられない!」スマホママの怒声が響く。
なんJニキがスレを立てたことがバレたらしい。「いやいや、ネタやん。別に本気で言ってるわけじゃねぇし、なんJではこんなん普通やって」と、ニキは全く悪びれた様子もなくスマホをいじり続けている。
「ネタでも気分悪いんだけど!」スマホママは怒り心頭で、インスタに投稿する手を一瞬止めている。珍しい光景だ。だが、どうせまたすぐに吾輩の写真を撮って「#うちの可愛いイッヌ」とかタグをつけて投稿するのだろう。
タケルもやれやれといった表情で、「まあまあ、イッヌが家族をどう思ってるかなんて、実際のところ分からんやん。それよりさ、晩飯どうする?」と話を逸らす。だが、家族の食事などどうでもいいように、スマホママは「もう本当にこんな家イヤ!」と苛立ちをぶつける。
「お前が一番家のこと気にしてへんやろ」と、吾輩は心の中で冷ややかに突っ込んだ。
家の中はますます荒れるばかりで、吾輩はしばし外の空気を吸いたくなった。ドアの前で「ワン」と鳴いてみると、キッズがすぐに気づいてくれた。「イッヌちゃん、お散歩行きたいの?一緒に行こう!」と、吾輩にリードをつける。
「助かった」と、心の中でキッズに感謝しながら、吾輩は外へ出た。外は静かで、清々しい風が吹いている。これぞ吾輩の求めていた平和な時間だ。キッズは無邪気に吾輩と歩きながら、学校での出来事や友達の話をしてくれる。
「ねえ、イッヌちゃん、いつも家の中で何考えてるの?」と、キッズがふと質問してきた。
吾輩はしばし考えた。吾輩が日々考えていることをもし彼女に伝えられるなら、どれだけ面白いだろう。だが、吾輩が人間の言葉を喋れるわけでもないし、彼女に全てを理解させるのは難しい。
「ワン」とだけ答えておいた。
キッズはそれで満足したのか、「やっぱりイッヌちゃんは賢いなぁ」と微笑んだ。どうやら彼女には、吾輩の「ワン」だけで何かが伝わっているらしい。それにしても、キッズの笑顔を見ると、吾輩の気持ちも穏やかになるのだから不思議だ。彼女だけは、吾輩の味方であり続けてくれる。家族全員がアホに思える中、彼女だけは違う。
家に戻ると、どうやら家族会議は終わっていたらしい。スマホママはまたインスタに夢中になり、なんJニキは再びスレ立てに勤しんでいる。タケルも「草」と呟きながら、なんJの世界に没入している。
「ふう、やれやれや」と、吾輩は再びリビングの隅に戻り、体を丸めた。家族は相変わらずだが、吾輩には大した問題ではない。彼らがどんなに滑稽であろうとも、吾輩にはキッズがいる。そして、自由気ままに昼寝を楽しめるこの場所がある。
「ほんま、ワイはイッヌやしな」と、目を閉じながら今日もまた一日を終えるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます