第2話
吾輩が昼寝をしていると、家の中からまたスマホママの叫び声が聞こえてきた。
「ねえ、タケル!またなんJで変なこと言ってんじゃないでしょうね!?」
タケルとは、なんJパパのことである。なんでこんなチャラい名前を呼ばれているのかはわからんが、吾輩の耳にはいつも「タケル、何とかしてよ!」という声が飛び交っている。しかし、吾輩が見たところ、タケルが何かを「する」というのを一度たりとも見たことがない。
「うるせえな、何もしてねぇよ、草」と、パパはまた例の「草」という謎の言葉を呟く。吾輩はその度に「草って何やねん、ワイは草ちゃうで」と心の中で突っ込みを入れる。
スマホママはインスタに夢中で、なんJパパは掲示板に夢中、なんJニキもスマホを手放さない。家族の会話は、もっぱらスマホ越しに行われているようだ。そんな彼らの滑稽さを眺めるのも、ある意味で吾輩の日課になっている。
しかし、今日は少し様子が違う。なんJニキが突然、吾輩の方をチラッと見たかと思うと、ニヤリと笑いながらこう言った。
「なあ、これで釣りスレ立てたらバズるかな?うちのイッヌ、毎日家族を見下してる説ってやつ」
吾輩はその言葉に内心で「なんやと?」と驚く。吾輩はただ日々の生活を冷静に観察しているだけで、見下しているわけではない…と、少なくとも表向きはそう思っている。だが、彼らの振る舞いを目にするたび、「ほんまアホやな」と感じてしまうのも事実である。
「おいニキ、それはやりすぎやろ」タケルが薄笑いを浮かべてニキに言う。「イッヌが見下してるって、さすがにそれは…」
だが、なんJニキは一向に気にする様子もなく、もう既にスマホをいじって「スレ立て完了」と呟いていた。
「こいつら…」吾輩は心の中でため息をつく。今まで見下しているなどと思わないようにしてきたが、これではそう思わざるを得ない。
その時、キッズが学校から帰ってきた。「イッヌちゃん、ただいま!」と、いつものように元気よく吾輩を抱きしめてくる。やっとまともな人間が帰ってきた。吾輩は思わず尻尾を振り、彼女に応える。キッズだけは違う。彼女だけは、吾輩を家族の一員として接してくれるのだ。
「今日はね、学校で絵を描いたんだよ。イッヌちゃんが主役の絵!」そう言って、キッズはカバンから一枚の紙を取り出し、吾輩に見せる。そこには、吾輩が大きく描かれていて、周りには彼女の友達と楽しそうに遊ぶ姿があった。
「これが本当の家族や」と吾輩は思う。タケルやスマホママ、なんJニキがどんなに自分たちの世界に閉じこもっていようと、キッズだけは現実を生きている。それにしても、絵の中の吾輩はどこか堂々としていて、実際よりもカッコよく描かれている。やれやれ、絵の中の吾輩に負けないよう、もう少ししっかりせんとな、と思った。
そんなこんなで、今日もまた家族との一日が過ぎていく。吾輩はイッヌである。名前はまだないが、心の中では誇り高き「観察者」として、このアホな家族を見守っているのだ。
「まあ、ワイはイッヌやしな」と、今日もまた昼寝を決め込むのであった。
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