第2話 女装くんと妹のニートランド

山奥の雨がようやく上がった頃、俺は深い溜息をついていた。


ここ、俺が一人で静かに暮らす「ニートランド」に、訪問者が二人も来てしまった。しかも、どちらも個性が強すぎる。まずは、女装くん。見た目は完全に可愛い女の子なのに、中身は男。それに加えて重度のブラコン、妹の梨花。


「えー、ニートくん? この女だれなのー? めっちゃ、ニートくんに馴れ馴れしいんですけどぉ」


女装くんが、俺の腕を取って訴える。正直、男に腕を取られるのは微妙に居心地が悪い。しかし、その瞬間、視線の向こうで梨花がヤンキーみたいなガン飛ばしの表情をして、ものすごく不機嫌そうに俺たちを見ていた。


「はあ⁉︎」


梨花の声が低く響く。ヤバい、完全にキレてる。俺の妹、梨花は重度のブラコン。俺が他の女の子と親しくすることなんて、絶対に許せないんだ。しかも、今回は見た目だけで判断してるけど、相手は男だってこと、分かってるのか?


「ざっけんな‼︎ やってやるよ‼︎ ゴルァ!」


梨花がすごい形相で怒鳴り、俺に詰め寄ってくる。


「梨花ちゃん落ち着いて! 誤解だって!」


「お兄ちゃん、どいて。そいつ殺せないから。殺せないから!」


うわ、こんなセリフ、マジで聞くと思わなかった。俺は手を振り回し、どうにか妹をなだめようとするが、梨花の目は完全に戦闘モードだ。そんな中、女装くんが笑いながら言う。


「妹めっちゃ嫉妬深くて草」


「女怖すぎホモになるわ」


横で見ていたデスコがつぶやく。デスコ、お前、ちょっと余計なこと言うなって。女装くんが笑顔でデスコに言い返す。


「君はオスなのかぁ?」


なんとか梨花を落ち着かせるために、俺は二人に事情を説明することにした。女装くんは、ただのコスプレ仲間で、今日会ったばかりだということを。


「やだ! 私ったら誤解してたのね。女装ちゃんはお兄ちゃんに今日会ったばかりで、大した関係じゃないのね」


「そうそう。だから、梨花は年頃だし、お兄ちゃん離れした方がいいんじゃないか? それに、ボーイフレンドでも作って男慣れを……」


「は⁉︎ 男キモいじゃん」


梨花が言い放つ。そりゃ、分かってはいたけどさ。俺は溜息をついて、もう一度話を続けようとしたが、梨花がさらに続けた。


「それはそうと、私もここに住むから。お兄ちゃんが主張するところの自称国家『ニートランド』に」


「ええ……」


梨花は俺の決意が揺らいだのを見逃さなかったらしい。俺がどう言おうと、彼女は既に決断していた。しかも、母さんの許可まで取っていたらしい。


「ほら、お母さんの手紙を読み上げるね」


梨花がリュックから手紙を取り出して、堂々と読み上げる。


「最愛のムッスコへ。ムッスメの梨花が『お兄ちゃんに会わせろ、結婚させろ』と暴れて手がつけられません。だからムッスコに丸投げします。もうお前ら結婚すればいいよバーカ。母より」


「以上!」


「これは酷い」


女装くんが呆れたようにぽつりとつぶやく。俺も心の中で同意しながら、梨花に言う。


「でも、梨花は現役の女子高生だろ? 学校はどうするんだよ」


「そこは大丈夫! 私の高校はオンラインでも授業が受けられるから! インターネットが繋がってればOKね」


「でも、梨花の高校はお嬢様学校だろ? 通学して、将来のコネクションを作った方が……」


「そんなのどうでもいい! あいつら、私の美貌に嫉妬して、私を虐めるのよ!」


梨花が拳を握りしめ、悔しそうに言い放つ。


「くそっ、ブスの分際で美少女の私に楯突くなんて! ブスはやっぱり心までブスなんだわ!」


「それ、そういう態度が良くないんじゃないかなぁ……」


俺が冷や汗をかきながら苦笑いする。だけど、妹の決意は固いようで、俺の言葉なんて全く耳に入っていない。


「それにさ、この山小屋は狭いんだよ。寝室もリビングもギリギリのスペースだし、シングルベッドしか置けない。梨花が住む場所なんてないぞ」


「大丈夫。キャンピングトレーナーがあるじゃない。アレに住むわ」


「アレはトイレなんだってば。梨花が住んだら、俺がトイレに行けなくなる」


「私は野糞するお兄さまも好きよ!」


「この女やべえ」


デスコが震えながらつぶやく。俺もデスコに同意するしかなかった。正直、妹の言葉には毎度驚かされる。そんな中、女装くんがニヤリと笑って口を開いた。


「やっぱり、時代は女装男子っしょ。はっきりわかんだね」


俺は頭を抱えたくなった。


そんな話をしていると、女装くんがふと思いついたように、俺たちを見回し、提案をしてきた。


「じゃあ、提案があります。ボクもここに住みます」


「ええ……?」


俺が驚いていると、翌日、女装くんが手配したトラックがニートランドに到着。大きめのコンテナハウスと、仮設トイレが5つも設置された。


「これでトイレ問題は解決!」


「いやいやいや、これってかなりお金かかったんじゃ……?」


女装くんはニッコリと笑って答える。


「知らなかったんですか? ボクは人気YOUTUBERだから、お金はタップリとあるのです」


「でもここ、山奥だし、不便だぞ?」


「ふふふ、昨日ダンジョンでレベルアップしてから、肌が強くなったんですよ」


女装くんは自信満々に続けた。


「ボク、男の子だけど女性ホルモン強強だから、肌に油脂分が少なくて、肌荒れしやすかったんです。でも、レベルアップで肌が強くなったおかげで、もう肌荒れしません! 見てください、この玉のような美しい肌を!」


デスコが感心したように言う。


「陶器のようにキレイで草」


「ボクはボクの美しさのためなら、何だってしますよ! だって、かわいいは正義だから!」


「正義なのかぁ」


俺はもう何が正しいのか分からなくなりながらも、ニートランドが次第に騒がしくなっていくのを感じていた。


第二話 終わり。

次回に続く。

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山奥ニート、謎のダンジョンでレベルアップして無双生活始めます @inutika

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