第42話 次の町へ(2)
リーナの活躍によって、姿を見せていた魔狼の大半がいきなり黒コゲ。
それを見た生き残りは仇を取るでもなく、すたこらさっさと退散。
魔物とはそんなものだというのが、アーヤの言であるがなんとも薄情なものである。
「さすがに賢者オルファスの直弟子だっただけはある。ヘタレでなかったら、追放されることもなかったろうにな」
「追放されたんじゃなくて、出奔したんですよう!」
「正確にはいたたまれなくなって逃げだしたんだろう?」
アーヤとリーナが、僕の前を並んで歩いている。
リーナが先の戦闘で使用した勇気は2。幸せポイントたった1つ分だ。その程度で、魔狼なら臆せずに戦えた。
消費も少ないので補充もなしだ。
ざんね……いや、違う。期待してない。僕は期待してないぞ!
……はい、うそです。ちょっと期待してました。
アーヤにバレたら剣を抜かれそうなので、黙ってるけどね。
「性格は変えるのが難しい。臆病なのはなおさらだ。だから賢者オルファスが逃げたリーナを探したりはしていないのだろうが、戦力になるとわかれば別だな」
「ふへへ。お師匠様、リーナを迎えにきちゃったりしますかねえ?」
リーナがフードの奥で、なんとも不気味な笑みを浮かべる。
「当たり前ではないか。そのブレスレットがあれば一人前どころか、国においても有数の戦力だ。前線への投入間違いなしだな」
「う……! ざ、残念ですけど、リーナはもう出奔した身ですし、それに、ほら、ロイドさんがいないと幸せポイントが補充できませんよう」
「付与をやり直して、ロイド以外で幸せポイントを獲得できるようにすればいい」
「うわあああ! ここに悪魔がいますよう! きっとアーヤさんこそが、古に人間へ被害をもたらしたという伝説の悪魔なんですううう!」
リーナが僕の腕にすがりつく。
ローブ越しでもぽよんぽよん。これが僕の顔に乗ったんだよな……。
「あれ? なんだかロイドさんの幸せポイント獲得したみたいですよう」
「ロイド……さすがにちょろすぎないか?」
やめて。そんな目で僕を見ないで。
言い訳をしている間に空が黄金色に染まり、街道の近くで野営をすることになった。テントはリュードンを出る際に買ったものを使う。
「ふたり用に三人はさすがに狭いだろう。三十路は外で寝ろ」
「さっくりひどいこと言いだしましたよう!?」
「夜風に当たると寒さで体が引き締まって、無駄な贅肉が減るぞ」
「そうなんだ……」
「ロイド、なぜそこでガッカリするのだ」
「うっふっふ。男の人はぽっちゃりが好きなんですよう」
「くッ……卑怯な。私がぽっちゃりしたら、誰も前衛ができないではないか」
そんなアホな話をしつつも、食事中に魔物へ襲われることもなく、僕とリーナが先に見張りをすることになった。
危険が増す深夜帯に、アーヤに見張りをしてもらうためだ。
なので結局はふたり用のテントで問題なしとなった。
「ふへへ。夜に町の外で焚火に当たりながら、男の人とふたりきりだなんて……なんだか物語みたいですよう」
隣り合って座るリーナが、手を温めながらニヤニヤしている。
「賢者様のお弟子さんだったなら、一緒に色々なところへ出向いたりしたんじゃないの?」
「そうですけど、リーナは戦闘の役に立てなかったので、雑用係としていつも忙しく走り回っていましたねえ。それでも無駄飯食らいと言われましたけど」
リーナが俯くと、フードを脱いで露わな横顔が火で照らされた。
普段は自信がなさすぎて地味に見えているが、やっぱり綺麗な女性だと思う。
「食事なんてほとんど味がしませんでしたよう。お前も食べるのかって目で言われているようで……お師匠様はそういうところ無頓着な方でしたし」
「それで出奔したの?」
「実際は追い出されたも同然ですねえ。与えられていた部屋はいつの間にか別の人に割り当てられていて、お師匠様にもうその報告をされて……」
「そっか……辛かったんだね」
「いやな思い出ばかりですけど、邪魔にされていたのもわかっていましたけど、あんなふうに追い詰めなくてもよかったと思うんですよう……」
リーナは泣いていた。
ここは男らしく肩を抱き、慰めることで愛玩動物じみた扱いの改善を狙うべきかもしれない。
そう思ったんだけども、僕が行動するよりも早く、リーナに頭を持っていかれてしまいました。
お胸の谷間に頭がストン。むにゅむにゅに挟まれて夢見心地。
そしてリーナが泣き止んだかと思えば、幸せポイント獲得のお知らせ。
しんみりした空気も一瞬で吹き飛びましたよ。
「ふへへ。ロイドさんはリーナにメロメロですねえ」
「なんだと?」
いつの間に交代の時間になっていたのか、アーヤがテントからのっそり顔を出し、僕をいい子いい子しているリーナの頭を片手で掴んだ。
「痛い! 痛いですよう!」
「抜け駆けは禁止だと見張り前に伝えたぞ?」
「これは流れで……ロイドさん、リーナを助けてえええ」
アーヤは手加減しているので、じゃれ合いみたいなものだった。
邪魔にしていないのは雰囲気でわかり、リーナはギャアギャア喚きながらも楽しそうに笑っていた。
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