第43話 次の町へ(3)
徒歩なので移動に時間がかかり、十日以上もかけてようやく次の町に到着した。
すでにリュードン領は離れているらしく、アーヤが今は南のザレイル領だと教えてくれた。
リュードンの気候もわりと温暖だったが、歩を進めるほどにさらに温かくなっていく。南の方はもっとだという。
付与師の修行に明け暮れ、遠出などしたことがなかったのでなにもかもが新鮮だ。きょろきょろしまくっては、アーヤに襟首を引っ張られる。
リーナは道中の戦闘で自信がついたのか、ローブで体をすっぽり隠しているのは変わらないが、フードはもうかぶってなかった。
「ごめんごめん。町にもすんなり入れて気が緩んでたかも」
照れ笑いを浮かべると、アーヤが仕方ないなと肩を竦めた。
「ここは王都から続く街道の中継地点で、南に進むとザレイルの領都ザレイルブルクがある。ここよりもさらに活気があるぞ」
「そうなんだ」
故郷を離れる際にあった一抹の寂しさも、頼りになる仲間と一緒に新しい風景を見られるとなれば気にもならなくなる。
「アーヤは領都に行ったことがありそうだけど、リーナは?」
「ありませんよう。リーナの故郷は王国の東の方ですし、お師匠様に見出されてからは王都住まいでしたし、同行したこともないですねえ」
下顎に人差し指を当て、うーんと考える仕草もなんともあざとい。
それが絵になるのだから、本当に三十路かと疑いたくもなる。
「我々が目指すのはその領都よりさらに南、王国でもっとも巨大な迷宮があるジャネイルになる。ちなみに男爵領だ」
「うわあ……」
男爵様と聞くと身構えてしまうが、リュードンの領主様とは別の人なので、あまりに警戒しすぎるのも悪いかもしれない。
「領土は狭いが、迷宮のおかげで王国でも一、二を争うほどに繁栄している。ジャネイルは迷宮都市とも呼ばれているな」
「リーナも聞いたことがありますよう。お師匠様の高弟が王国の依頼で探索団に加わっていましたし、お師匠様も潜ったらしいですよう」
「迷宮で魔物を倒せば魔石を手に入れられるからな。それを売るだけでも、その日の食費と宿代にはなる」
王都で発展しているという水洗のトイレや、火を使う調理台も、水や火の魔法を込めた魔石を燃料に使うらしい。
魔石のおかげで近年の魔道具界隈は著しい発展を遂げており、剣に魔石をはめ込んで魔法を放ったり、属性を持たせる魔法剣なんてものも登場し始めている。
「外で遭遇する魔物も、魔石を落としてくれればいいのにね……」
「まったくだが、迷宮の魔物は迷宮自身の魔力によって生成されたものだと言われているからな。成り立ちから自然な魔物とは違う」
「その代わり、迷宮の魔物からは素材が取れません。その場で死骸が消えて、魔物の核である魔石のみが残るらしいです」
途中で保存食の残りが心許なくなり、一日一食でかなり少ない食事がここ三日は続いていたので、アーヤが話しながらも串焼きの屋台に見入っている。
アーヤもブライマル氏の店で受付嬢として働き、その分の給金は貰っていたので、早速自分のと僕の分を購入する。
「あのあの、アルメイヤさん……?」
「奢ってほしいか? ならば添い寝番を三回ほど譲れ」
「な……! それはあまりにも横暴ですよう!」
添い寝番というのは、野営で僕と一緒の見張りになるのを意味する。
当初はアーヤが深夜帯をひとりで担当していたが、リーナが僕を抱き枕にテントですやすや眠るのを見て、三日と持たずに限界を迎えた。
以来、リーナも普通以上に戦えるので、一日交代でふたりは深夜の見張りをしている。ちなみに僕には選択権も拒否権もなかった。
「アーヤ、あんまり意地悪をしたらだめだよ。リーナには僕が奢ってあげる」
「さすが未来の扶養者です! 将来と言わず、すぐにでもリーナを愛人にしませんか!?」
「調子に乗るな! ロイドはリーナに甘すぎる!」
などと言っていても、アーヤは自分のお金でリーナの串焼きも購入する。
店主が用意していたのを見るに、最初から三本買うつもりだったのだろう。
「お肉ですよう! これで道端に生えている変な草を、食べれるのかどうかと睨むこともなくなります!」
大声で外聞が悪いことを言わないでほしい。お腹が空いていたのは事実だけども。
リーナが受け取った串焼きを、屋台の前で堂々とかぶりつく。
ブレスレットで勇気を得ての戦いに慣れてきたのもあって、僕やアーヤと一緒なら少しずつ周囲にも怯えなくなり始めていた。
「美味しいですよう! 涙がでてきそうですよう!」
リーナがあまりにも美味しそうに食べるので、お昼近かったのもあって、屋台の周囲に人が集まりだした。
商売の邪魔になってはいけないので、僕はリーナを連れて広場へ向かう。
中央に水の魔石を使った噴水があり、円を描くように広場が展開されている。上下左右に道が伸びていて、ここが町の中央なのが窺える。
木製のベンチが噴水を囲むようにいくつかあるので、僕たちはそのうちのひとつに腰掛けた。当たり前のように、僕が真ん中に座らせられる。
今さら抗議しても仕方ないし、美人で年上の女性に挟まれて食事をするというのも男冥利に尽きる……かはわからないけど、僕にとっては楽しい。
「あ、本当に美味しいね」
「うむ。リュードンへ赴く際は素通りしてしまったが、宿の料理なども期待できそうだな」
幸いにして路銀は潤沢に残っている。僕たちはあっという間に串焼きを平らげ、迷宮の話も忘れて次はなにを食べようと相談を始めた。
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