第40話 話し合い(5)

『銘:愛と勇気のブレスレット


 付与師ロイドが愛人予定のアンジェリーナのための付与を施した一品。付与者であるロイドに愛情を注いだ分だけ、必要な時に勇気を取りだせる。


【ミミ専用装備。装備制限がかかったことにより、ロイドから獲得した幸せポイントを1消費ごとに勇気の能力値を2上昇させることが可能】』


 幸せポイントってなに!?


 付与をし直したブレスレットを鑑定中に頭の中で叫ぶと、結果が追加された。


【ポイント獲得例


 添い寝:1ポイント


 膝枕:1ポイント(乳房を顔に乗せれば3ポイント)


 パフパフ:5ポイント(直だと10ポイント)


 その他、幸せだと感じる行為でポイントが付くわ。前述のも大体の目算なので、具体的なポイントや効果は自分たちで試してね】


 ……これ、僕がリーナに説明するの?


 あと前から思ってたけど、女神様がとてもフレンドリー。


 まあ、悪いことではないし、寵愛を受けてると思っておこう。


「ロイド、なにやら難しい顔をしているが、付与に失敗したのか?」


「成功はしたんだけど……なんていうか、幸せポイント制?」


 首を傾ける僕に合わせて、アーヤも同じ角度で首を横に倒していく。


「ええと……とりあえず皆も鑑定してみて」


 アーヤもリーナも獲得例までは鑑定できたが、やっぱり女神様のひと言ポイントみたいなものは見えないみたいだった。


 そして、僕を見るふたりの目がじとっとしている。


「ロイド、お前……」


「わざとじゃないってば! 僕は前のよりも効果を少なくしようと、善行を上げなければ勇気を得られないと設定したはずなんだ!」


 効果と代償の釣り合いがとれなければ、それに準ずる効果が設定されるので、今回はそうなったんだろうけど……もしかしなくても、これを決めてるのも女神様だよね?


 だとしたら面白がってる?


 いやいや、女神様に限ってあるわけないよね。うん、多分……。


「でも専用装備なんて初めて見ましたよう。魔剣が持ち主を選ぶ的な逸話はよくありますけど……」


「うむ。自分専用というのは高ぶるものがある。だが、幸せポイントとは……それに説明もなんというか、こう、なかなか……」


「愛人予定とか言われていますし、隠し条項でリーナの本名がさらっとばらされていましたね……」


 創世の女神様が関わっていると思われるので、ふたりとも直接的な物言いを避けている。


「自分の作品には付与し直せるといっても、回数が増えるごとに代償も多く必要になるみたいですし、まずはこれを使ってみましょう」


 リーナがブレスレットを右の手首に装備し、安そうなベッドに腰掛けて僕にこいこいをする。


 なにをされるか予想はつくけど、仕方ないよね。ブレスレットの効果を確かめるためだもんね。付与師として避けては通れないよね。


「……ずいぶんと嬉しそうではないか」


「そ、そんなことないよ。これも仕事のうちだよ」


 しどろもどろな言い訳の結果、アーヤにはわざとこの付与にしたのではという疑惑を深められたみたいだった。


「ええと、あの、失礼します……」


 横向きでリーナの膝を借りる。筋肉とは無縁の柔らかさが、枕にするには丁度いい。しかもむっちりしているのがたまらない。


「お胸が好きなロイドさんが、膝枕で幸せを感じるのは意外ですねえ」


 声をかけられたので、答えようとして上を向いた瞬間、ダイナミックな光景が視界に飛び込んできた。


 凄い。これは凄い。


 リーナの顔が見えない。まるでお胸の天井だ。


「うわあ……」


「これだけでも1ポイントらしいですけど、せっかくなのでもう少し狙いましょう」


 言い終わるより先に、僕の顔面にずっしりとした重みが加わった。


 窒息しそうなのに幸せとはこれいかに。


「ふわあ……」


「さすがに直接は恥ずかしいので、ここまでですよう」


「当たり前だ。服を脱ごうとしたら切り捨てていた」


「アーヤさん、本気の目で言うのはやめてほしいです!」


 リーナの顔が恐怖で引きつる。


 僕にはアーヤの表情は見えないけど、よほどに怖かったのだろう。


「でもでも、これで3ポイント溜まったんですよねえ?」


「あくまでも一例で、実際には僕がどれだけ幸せを感じたかに左右されるらしいけど」


「要するに勇気が欲しければ、リーナのお胸を好きにさせろということですね」


「そう……なってしまうのかな。いや、本当にわざとじゃないんだよ!?」


「リーナはロイドさんを信じますよう。将来のお妾さんですし。うふふ。どうせなら幸せポイントの分だけ、リーナをぐうたらさせてくれる装備を作りませんか?」


 笑顔でとんでもない提案が吐きだされた。


「では、私はロイドが他の女に鼻の下を伸ばすたびに……いや、いっそ私しか愛せなくなる呪いを……」


「怖い怖い怖い! ふたりとも怖いってば!」


 冗談ということにして笑ってみたが、アーヤもリーナも笑ってくれなかった。


「そうだ。どれだけ勇気を得られるのか試してみたらどうだ。今すぐここで」


「ちょっと、アーヤ! 剣を抜いたらだめだって!」


「受けて立ちましょう。リーナも実は興味がありまくりなんですよう!」


「リーナも落ち着いてってば!」


 ふたりが部屋の中央で向かい合い、僕はその足もとでおろおろする。


 ……けども戦いには発展しなかった。


「どうやって幸せポイントと勇気を引きかえればいいのかわかりません……」


 僕もわからないので首を横に振ると、アーヤが毒気を抜かれたみたいにため息をついた。

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