第39話 話し合い(4)
身の危険を感じるので、この話題はさっさと終わらせよう。
「僕の鑑定に女神様が力を貸してくださるということは、特殊な付与の能力もそうなのかな?」
「そうだと思いますよう。そもそも稀に人が宿している先天的な能力は、例外なく天からの授けものだと言われていますし」
「だから騒ぎになりそうなのは、普通の鑑定ではわからないようになってる?」
「そこまではわかりません。ロイドさんの特殊な能力に、創世の女神様が興味を持たれただけかもしれませんし、先ほどの話も言い伝えにすぎませんので」
女神様に直接問えればいいんだろうけど、悪用はだめと言われてるし、なによりこの程度のことで手間をかけさせるなんてとんでもない。
「創世の女神様よりの恩寵であれば、呪いの付与ができるのも気になるしな」
アーヤがアンジェリーナさんから僕を奪い返し、また膝の上に置く。どうやらこの体勢がお気に入りのようだ。
「話を聞いて思ったんですけど、ロイドさんの付与は不利益が強ければ呪い、利益が強ければ恩寵として扱われているような感じですよう」
「確かにそうですね」
魔狼の短剣も不利益はあれど、とても利益を上回ってはいなかった。
「それを自在に調整できて、ネックレスの鑑定を使えば、ある程度ではあっても創世の女神様の助言を得られる」
「話を聞いてると、とんでもない人物だよね、そのロイドって人」
「現実逃避をするな、ロイド。誰でもないお前自身のことだ」
「……はい」
頭上から降り注ぐ声に、ガックリ項垂れる。
僕だってアンジェリーナさん同様に……彼女のとは少し、いや、だいぶ違うけど、普通の生活というのを送りたかったのに……。
「案ずるな、ロイド。お前が例え何者になろうとも私はそばにいよう」
「アーヤ……」
「うう、ロイドさんは好ましいお人ですけど、リーナはアルメイヤさんみたいな殉教者じみた気持ちにはなれませんよう」
おもいきり悲しまれると、とんでもなく申し訳なくなる。ごめんなさい。
「諦めろ。ロイドと共にいるのだ。創世の女神様にも存在を知られたに違いない。そもそもお前はロイドの付与なしで、真っ当に生きていけるのか?」
「それを言われると……うう……」
「ロイドが有名になれば私たちの名前も売れる。その頃には強い付与を付けた装備も売れているだろうから、きっと金も使いきれないほどあるぞ」
「……なんだか優良物件に見えてきました」
アンジェリーナさんの目が金貨みたいに輝いている。
「こほん。仕方ありません。このリーナ、ロイドさんがどうしてもと頼まれるので、仲間に加わってあげますよう」
「ありがとうございます、ミミさん」
「……アンジェリーナでお願いします。本当にお願いします。あと、ロイドさんなら特別に、リーナと呼んでもいいですよう」
流し目を送りながら、じりじり迫るのはやめてください。
ほら、アーヤの目が怖いことになってきた。
「三十路は三十路らしく、近い年齢の男を捕まえたらどうだ」
「そんなに嫌わないでくださいよう。それに年上だからこそ、同年代にはできない甘え方もできると思うんです」
アンジェリーナさんことリーナが、正面から抱き着いてきた。
うしろにお胸。前にもお胸。
ふかふかのむにゅむにゅに溺れる。
「あと、リーナはアルメイヤさんの味方ですよう?」
「……どういうことだ」
アーヤが障害を力で排除しかけていたのを中断する。
「リーナの望みは知っていますよねえ? 正妻だなんて面倒な仕事がついてきそうな役割はごめんですよう。側妃も同じですう」
「む……」
「ロイドさんほどの才能と、至高のネックレスの幸運があれば、これからも多くの人と出会うに決まっています。その中には女性もいるはずですよう」
「そうなった場合に私の力になるので、愛人としてロイドに侍るのを認めろということか」
アーヤが真剣に悩みだした。
ところで、僕の意思は確認してもらえないのだろうか。
いや、アーヤもリーナも素敵な女性だし、不満はないのだけども。
「アルメイヤさんがご懐妊の時も、リーナであればロイドさんをお慰めしつつ、正妻などは絶対に狙ったりしませんよう?」
「……いいだろう。今から特別に私を愛称で呼ぶのを許そう」
「では、リーナも同じように」
ふたりの仲がよくなるのは嬉しいんだけど、危険な同盟ができた気がする。
「ロイド。リーナの同行が決まったのなら、あのブレスレットは付与し直さなければならないぞ」
「そうだね。戦闘のたびに暴走されたら、いつかとんでもない事態を巻き起こしそうだし」
その場合は僕とアーヤも共犯扱いで、知れ渡るのはまごうことなき悪名になる。
「お手数をおかけします」
ぺこりと頭を下げるリーナ。殊勝にしていると年齢を感じさせないくらいに可愛らしく、年下なのに彼女を守ってあげたくなる。
しかも意図しての仕草ではない。こういうところから、リーナは勘違いする男の人たちを量産してしまったのだろう。
「いきなり私のロイドに色目か? 牝犬」
「いだいっ! ほっぺつねらないでえええ!」
前途多難な光景ながらも、クレベール家を追放された時と違い、ひとりではないことに嬉しくなって、僕はいつの間にか笑っていた。
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