第38話 話し合い(3)

「待て、ロイド、それはつまり、女神様が直々に、ということか?」


 途切れ途切れに事情を説明し終えると、アーヤが顔色を悪くして途切れ途切れに確認をしてきたので、コクンと頷く。


 ミミさんと呼ぶと怒るアンジェリーナさんは、聞きたくないと耳を塞いで部屋の隅でプルプルしている。


 でも聞いたあとなので手遅れです。ここまできたらこちら側にどっぷり浸かってもらいます。


 だって怖いもの。


 僕ひとりで抱えきれないもの。


「創世の女神様の寵愛まで受けるとは、さすがロイドだ。天寿を全うしたあとは、遥か高みにあると伝えられる神々の世界へ呼ばれるかもしれないな」


「恐れ多すぎて吐きそうなんだけど……」


 どうして女神様が……もしかしてアリシエル様も少年趣味……うわ、なんか凄い寒気がした! 深く考えるのはよそう。そうしよう。


「至高のネックレスと銘がついていましたけど納得ですよう。ロイドさんには特別な使命でもあるのかもしれませんねえ。頑張ってください」


「そうですね、一緒に頑張りましょう」


 アーヤの腕を脱し、アンジェリーナさんのそばまでとことこ歩いて手をしっかり握る。


 振り払われそうになるが、笑顔で抵抗。


 逃がさないぞ。逃がしてたまるものか。


「鑑定の秘密も知られてしまいましたし、ミミさんはもう仲間じゃないですか」

「さっきまでいやがっていたのにいいい」


 泣きだした!? 真似じゃない本気だ!


「諦めろ、ミミ。至高のネックレスに導かれてロイドと縁を持ち、さらに創世の女神様の関与もあるのであれば拒絶できるはずもない」


「いやですううう! リーナはお金持ちで甘々な旦那様と結婚して、一生楽に過ごしたいんですううう!」


「……平民だったのに過剰な夢を抱いていたがゆえに、現在の境遇があるのではないのか?」


「うぐ! 真実なんてだいきらいですううう!」


「あ、真実の女神様もいるらしいですよ」


「真実最高! 大好き! 愛してますううう!」


 早すぎる前言撤回。無理もない。


 暗黒部署云々も伝えると、ふたりは世知辛そうな顔をした。


「神々の世界も、その、色々と大変なのだな……」


「リーナたち人間とは、色々とスケールが違いそうですけどねえ」


「まったくだ。ところでお前はどうして偽名を使っているのだ?」


「いきなり話題が飛んだ!? もう誰も気にしていない流れでしたよねえ!? ここで戻すとか突拍子がなさすぎて驚きですよう!?」


「あ、でも、僕も気になってました」


 シュタッと手を上げると、アンジェリーナさんは言いにくそうにもじもじする。

「埒が明かんな。ロイド、鑑定で暴いてしまえ」


「だめですよう! 女神様も悪用はだめとおっしゃっていたはずですよう!」


「ではさっさと教えろ。どうせたいした理由ではないのだろう。こちらの名前の方が可愛いとか、貴族っぽいので金持ちが釣れそうとか、そんなところではないのか?」


「予想がついてるなら聞かないでくださいよおおお!」


 どうやら図星だったようだ。しかも会心の一撃になった模様。


 びーびー泣くアンジェリーナさんを見下ろし、満足そうに頷くアーヤ。どうやら彼女なりの報復だったご様子。


 僕にもあるのだろうか? ちょっと離れてよう。


「どこへいくロイド。心配せずともお前をいじめたりはしないぞ」


 抱き枕のごとく彼女の膝に戻されるが、抵抗はしなかった。


 怖かったわけでも、お胸の感触に焦がれたわけでもない。


 ただ、その……あ、また後頭部に……ふわあ。


「ロイドさんが幸せそうに惚けていますよう……リーナのことなんてもう忘れていますよう……悲しいですよう……」


「フフフ、私とロイドの絆を思い知ったか」


「絆というより色仕掛けじゃないですか。次はこちらの番ですよう」


 アンジェリーナさんが僕を奪い取り、床で斜め座りをする脚の隙間に置いた。


 もたれかかるようにギュッと抱き締められ、背中に大きなお胸が当たりまくる。


「……なんてだらしのない顔を。私以外の女に興味をなくす付与をした装備を付けさせねば……」


 なんか怖いこと言いだした!?


「付与といえば、ロイドさんの特殊能力ですよう」


 魔法使いとしての修業時代に、師匠から色々な教えを受けるだけでなく、様々な知識も与えられたが聞いたことはないという。


「そのネックレスだって、見方を変えれば女神様からの恩寵品ではないですか。教会に持っていけばとんでもない財産になりますよう」


「無駄だろう。なにせ創世の女神様とやりとりができるのはロイドのみだ。それどころか、教会に知られたら確実に取り込まれるぞ」


「司祭どころか司教待遇は確実ですよう。ロイドさんなら性別を隠して女神の使徒というのもありえそうです」


「偶像に仕立てて、信仰心のない相手にも寄付を促すためか? 教会の上層部がそこまで腐っていないと思いたいが……それにロイドは男のままでいい」


 なんて力強い言葉。アーヤが少年趣味の女装趣味でなくてホッとした。


「そうでなければ私と結ばれないだろう。私にはロイドに似た男の子を生み、それを愛でるという使命がある!」


 ハアハアと怖いよ、アーヤ。だめだ。この人、本当にだめだ。

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