第36話 話し合い(1)

 町へ被害を与えたお詫びに、倒した魔狼のボスをまるごと寄付したので、素材を売れば修繕費ができるどころか大幅な黒字になるだろうとのこと。


 住民に死人がでていないのもあって、アンジェリーナさんへの悪感情はだいぶ軽減されていたのだが、ギルド長が騒いだ。とにかく騒いだ。


 あまりにうるさかったので、ついうっかりアンジェリーナさんに払わせた慰謝料で、趣味のアブノーマルなプレイをさせてくれる人を探すんですかと言ってしまったら場が凍った。


 ギルド長は必死に否定していたが、ギルドの受付で話していたのもあって、受付嬢のひとりが自分もしつこく誘われて困ってると言いだした。


 そのうちに女性の冒険者にも、ギルド長の立場を利用して誘いをかけられたと訴える人が現れた。しかも結構な数が。


 緊急で事情聴取が行われ、泣く泣く応じたという受付嬢や女性冒険者の証言がでてきて、とどめにギルド長と衛兵の隊長、さらには町長もグルだと判明。


 町を揺るがすスキャンダルに発展し、急遽リュードン男爵への報告が決まった。


 アンジェリーナ嬢に関しても、なんとか自分の女にしたくてあの手この手で嫌がらせを行い、追い詰めてから救って恩を売ろうとしたのだという。


 これらの内情をすべて知っていたからこそ、鑑定さんはギルド長を罵倒しまくったのだろう。聞くすべはないけどそんな気がする。


 夜になる頃には問題の三人は牢へぶち込まれ、関係者への聞き込みも始まった。

 いつ共犯扱いされるか心配していたが、気が付けばそんな結果になっていた。


 きっと僕の幸運さんが、張りきって仕事をしてくれたに違いない。


 アンジェリーナさんも被害者だったのは明らかになったが、見目麗しい少年がいるパーティーへ声をかけまくり、一緒に冒険しては恋人や仲の良い女性がいる前でたぶらかしたという悪評は消えなかった。


 その話を聞いたアーヤは、事実に決まっていると断言していた。


 結局は町に住み辛くなったという理由で、僕への同行を希望しているが、アーヤが反対している。


 曰く、あの女の目は野獣のそれと変わらないらしい。


 アーヤも一緒なのではと指摘しかけ、アーヤがお得意の添い寝禁止をだそうとしたところ、話を聞いていたアンジェリーナさんが「それならリーナが」と言ってひと悶着。


 どうするかはまだ決めていないが、ここまで一緒に行動する流れができている以上、幸運さんが仲間に加えろと勧めているようにしか思えない。


「組み合ってる最中に触ってわかりましたけど、リーナのお胸の方が大きいですよう。おまけにもちもちです」


「ぽっちゃりしているだけだろう! 大体なんだ、このだらしのない尻は!」


「ふみい! 叩くのはいけないと思います。それに男の人は、大体このくらいの体形の方が好みなんですよう!」


 すでに夜も遅く、周囲の家の人たちは寝静まっているだろうにこの騒ぎである。


 発端はどちらが僕と添い寝するかから始まった。


「アルメイヤさんこそ、この腹筋はなんですか! カチカチじゃないですか! こんなの触っても楽しくないですよう!」


「なんだと! だが腰は引き締まり、尻もキュッと上がっているぞ。貴様の垂れきった肉体にはない見事さだろうが!」


「垂れていません! それにリーナは可愛い子たちが甘えやすくなるように、あえてこの体形を維持しているんですよう!」


「うそをつくな! 不摂生のたまものに決まっている!」


 とうとう取っ組み合いが始まった。


 身体能力的にはアーヤが上だと思うんだけど、アンジェリーナさんも意外に力が強いんんだよな。


 どれどれ。


『名前:ミミ


 レベル:9


 王国の地方の村落の農家に生まれたが、魔法の素質を見出されて賢者オルファスの弟子となる。だが臆病な性格ゆえに実力が発揮できず、加えて攻撃魔法以外はたいしたことがないため、無駄飯ぐらいと陰口を叩かれるようになり、それに耐えかねて出奔。実家へ戻るも、仕送りがなくなったことを愚痴られ、村の金持ちに愛人として売られかけたので逃走。故郷と離れたミングーの町に腰を落ち着けて現在に至る。アンジェリーナは仮名。


 生命力:20

 魔力:329

 腕力:26

 体力:18

 敏捷:7

 幸運:1


【特殊能力】


●魔法の素質

 魔法を使うことができるレアな才能。


●火魔法の申し子

 火系の魔法に抜群の素質を発揮する一方、他の系統は上手く使えなくなる。

 ……だからといって洞窟で明かりが必要な時に火球を浮かべて明かり代わりにするのはどうかと思う』


 なんか鑑定さんから忠告が入った。


 それにしても魔力高っ!


 僕の200でも宮廷魔術師級だとか言われてたのに。さすが賢者と言われる人から……ん? オルファス?


 確かオルファスという賢者様が、こことは違う国で悪しき水蛇を退治したとかいう英雄譚があったような……そうだ。前にクレベールへ招いた吟遊詩人が歌ってくれたものだ。


「あ、あの、アンジェリーナさん? オルファス様って……」


「お師匠様ですよう? あれ、ロイドさんに教えましたっけ?」


 アーヤもオルファス様の名前を聞いて表情を変えた。


「まさか賢者オルファスか? とんでもない英雄の弟子ではないか。なるほど。だから厳しい要求へついていけずに放逐されたのか」


「それが、無駄飯食らいと言われるのが嫌で出奔したみたい」


 眉をひそめるアーヤと、噴きだすアンジェリーナさん。


「ど、ど、どうして……」


「あ、ごめんなさい。悪いと思ったんですけど、気になったんて鑑定させてもらいました」


 正直に告白すると、アンジェリーナさんは怒るのではなく目を点にした。

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