第34話 狂乱の夜(4)

『名前:ギドー


 リュードン領の町ミングーにある冒険者ギルドの長。リュードンのギルド長の甥で冒険者としての経歴はたいしたことがないが、コネで就任した。セクハラも多く、女性職員にはきらわれている。アブノーマルな性癖の持ち主で、アンジェリーナを酒に酔わせて行為に及ぼうとした純正のクズである。もうやだこいつ、鑑定したくない。死んだ方がいいんじゃないの?


 レベル:3

 生命力:カス

 魔力:ゴミ

 腕力:クソ

 敏捷:のろま

 幸運:0にしてやろうかしら

 考察:魔狼のボスに差しだせば、一撃で殺してもらえる』


 ……どうコメントしたらいいんだろう。


 これ、絶対普通の鑑定と違うよね?


 明らかに個人の感想がでまくりだし、能力値なんか調べる気ないし。


 あと最後の考察ってなに!?


 こんなのこれまで一度もなかったよね!?


 僕が頭を抱えてしゃがむと、アーヤが心配して隣に膝をついた。


「どうした、ロイド」


「なんでもないんだ……うん、なんでもない……」


 鑑定の秘密というか、これはあとで相談しよう。


 まずは、ギルド長では魔狼のボスの相手にならないと教える。


「コネで組織のトップになっただけでなく、女性職員に性的な悪戯だと!? よし、先頭で魔狼と戦わせよう、そうしよう」


 アーヤと鑑定してくれた人……人なのかな? とりあえず、その方とはどうやら思考が似通ってるみたいで、同じ対処法を口にしだした。


「待ってよ、とりあえずアンジェリーナさんと……」


 ギルド長と話してるはずの彼女だが、なにがあったのか火球の魔法で彼を追い回していた。


 逃げ道はひとつ。壁よりも背の高い魔狼が迫ってくる方だ。


「お前ら、俺を助けろ! 緊急依頼だ!」


 ギルド長の評価も低いのだろうが、アンジェリーナさんはアンジェリーナさんで町の人の受けがよくなかったのは本当だったようで、何人かの女性冒険者が飛びかかった。


「私の彼を、そのデカい胸でたぶらかしやがって!」「私の好きな人もよ!」「引き千切ってやるわ!」


 おおう。多分に私怨が混じってるぞ。


 というより、それだと責めるのは彼氏やらの方なのでは?


「ウフフ、男を引きつけておけなかった、あなたたちの魅力のなさが原因じゃないの。そんなに自分は魅力がありませんと喧伝したいのかしら?」


 こちらはこちらで容赦がない。


 頭に血を上らせた女性冒険者が剣を抜き、しかし町の壁を破壊される音が聞こえて動きを止める。


「ほら、きちゃったわよ。冒険者ギルドの長として意地を見せないと。コネだコネだ言われて頭にきていたのでしょう?」


 アンジェリーナさんがギルド長の背中を蹴って、魔狼のボスへ強制的に突撃させる。


 腰にロングソードを装備しているが、ギルド長は抜く暇もなくボスの右足でぺいっと吹っ飛ばされた。


 どこぞの民家に激突し、木造の家屋を壊しながら転がっていくギルド長。


 あれ、死んでないよね?


『名前:ギドー


 状態:瀕死。ざまあ』


 タガが外れたのか、色々と遠慮がなくなりつつある鑑定さん。


 頭の中であっても迂闊に指摘するのは危険な気がするので、とりあえずはスルーしておいて、ギルド長が生きてることにホッとする。


 この状態で死人がでたら、本当にアンジェリーナさんが捕縛されかねないもの。


 取り調べを受けて、町の鑑定士にブレスレットを調べられたら僕も終わりだ。


「アーヤ、まずはあの魔狼のボスをなんとかしよう。僕の予備の短剣を……」


「魔狼殺しにするつもりならやめておけ」


「え? どうして?」


「この町はまだリュードン領内だ。魔狼殺しなんて目立つ武器で巨大な魔狼を討伐すれば、当然領主にも報告が届く」


「それは仕方がないんじゃ……」


「いいのか? せっかく元兄を生贄に捧げて町を出たのに、同じ付与を与えられたとなれば、またぞろ男爵が騒ぎだすぞ」


「でも、町が滅ぶのを黙って見てられないよ」


 飛び出そうとしたが、腕を掴まれた。


「わかっている。奴は私とアンジェリーナ嬢でどうにかする。威圧の影響を受けていない以上、彼女もボスよりレベルが上なはずだ」


 一方でレベル1の僕は威圧の影響を受けまくり、威勢のいいことを言ってても脚をプルプルさせてたりする。


「ロイドはこの場で援護だ。間違っても降りてくるんじゃないぞ」


 アーヤが屋根から飛び降り、着地と同時に転がって衝撃を逃がし、受け身をとって立ち上がる。


 思わず「格好いい……」と漏らしたら、元女騎士が耳をピクリとさせた。


「いつまで遊んでいる。さっさとあのデカブツを倒すぞ」


「えぇ? いやよう。こんな町なんて……」


「ロイドに被害が及んだら殺すぞ?」


 睨まられたアンジェリーナさんが、狂乱中にもかかわらず直立不動になる。


「じょ、冗談よう。そうね、ロイドちゃんもいるのだものね。さっさと倒してしまいましょう」


 アンジェリーナさんがバックステップで距離を取り、アーヤが代わりに前へ出る。


 魔狼のボスが咆哮を放つも、アーヤは怯まずに二本の剣で斬りかかる。


 一本は牙で。もう一本は爪で防がれた。


 普通の魔狼であればほぼ一撃で倒せる彼女なので、やはりボスの実力は別格だ。


 ……鑑定によると主に食っちゃ寝しかしてないはずなのに、どうやって強くなったんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る