第27話 女魔法使い(3)
「……複数まとめて攻撃できたらいいという願望を抱いていたら、放った魔力の矢が勝手に分裂して魔狼を屠ったと」
「そうなるね」
肯定したらアーヤが頭を抱えた。
なんかごめんなさい。
一方のアンジェリーナさんは興奮しまくりだ。怖がり設定はどこへいったと問い詰めたくなるくらいに、僕の手にある弓を奪おうとする。
「落ち着いてください、アンジェリーナさん」
「リーナは冷静です。なのでじっくり見せてください!」
魔法使いだけに、魔力で矢を作れる弓が気になるのだろうか。
「売ったらいくらになるんだろう。ふへ、ふへへ」
違った。単純に金銭的な興味だ。
「金に執着があるのなら、愛人になればよかったではないか?」
アーヤが同じ女性ながら辛辣な言動をぶつける。
僕にまとわりつくアンジェリーナさんに、どうやら若干イラついてるっぽい。
彼女の不機嫌さを感じ取ったのか、アンジェリーナさんが僕から離れる。
「……年齢のせいで足もと見られるんですよう。働き口紹介してやるからとかそんなのばかりで、ろくな条件がありませんでした」
……検討はしたのか。
「冒険者をしているのと変わらない給金で、愛人兼従業員とかふざけすぎです。そんなのにすがるくらいなら、冒険者一本で頑張りますよう」
「その結果、薬草取りの仕事も貰えなくなったと」
僕の指摘に、アンジェリーナさんは「うぐ」と胸を押さえる。
「新人パーティーを見付けて、色々教える代わりに加えてもらったりしたんですけど、年上の魔法使いなのでやっぱり攻撃魔法を期待されまして……」
だよね。僕でもきっと同じ期待を抱くと思う。
「仲がいい幼馴染の男女というパーティーなんかは、リーナが加わったあとで大喧嘩を始めてしまったり……」
「……色目を使ったのか?」
「まさかですよう。ゆったりめなローブも着たりしているのに、皆が皆、そこのロイドさんみたいに、私のお胸やお尻を見てくるんですよう」
ごめんなさい。
チラチラ見てしまって、本当にごめんなさい。
でも仕方ないんだ。だって男の子だもの。
「それで新人の間でも悪名が広まって、ひとりで行動せざるをえなかったところに今回の依頼を受けて飛びついたと」
「……そのとおりです」
アーヤの確認に、アンジェリーナさんが細い首をカクンと倒すように頷いた。
「先行きは暗そうだが、命は助かったんだ。達者に暮らすといい」
アーヤ嬢、関わりたくないオーラを全開で放出中。
そうはさせじと、恐怖を乗り越えてタックル敢行のアンジェリーナ嬢。
敵ではないので、アーヤはあまり無理をできずに、なかなか引き離せないでいる。
見捨てられたらあとがないとでも思ってるのか、アンジェリーナさんはとにかく必死だった。
僕が「うわあ」と言ってしまうくらいには必死だった。
「事情を聞いたからには、仲間に入れてくださいよおおお。もしくはロイドさんの弓をくださいよおおお」
「ええい、離せ! お涙頂戴でたかりたいのならよそでやれ!」
もとよりあまり気を遣うタイプでもないが、アンジェリーナ嬢にはなんの遠慮もいらないと思ったのか、アーヤが顔面を容赦なく蹴りだした。
あ、顔に痕がついた。
それでも諦めないとか、アンジェリーナさんはアンジェリーナさんでかなりギリギリな生活環境の模様。
「私だって怖がりじゃなければ、そこそこ優秀な魔法使いなんですよう!」
「だったら魔道具作りとか、そちらで活躍すればよかっただろう!」
「魔法使いの才能はあっても、付与師の才能はからっきしだったんですよう! 攻撃魔法以外も、大きな町へ行くとそんなに重宝されないレベルなんです! どうしろって言うんですかあああ」
「それは私の台詞だ!」
二発目の蹴りが、アンジェリーナさんの頬を歪め、なんとも面白い顔になっている。
あ、アーヤが押し負けて組み敷かれた。
……なんかエッチだな。
「ロイド! 見ていないで助けないか!」
「でも、僕が近付くと……」
「弓を! リーナにその弓を恵んでくださいいい!」
「こうなる」
魔法使いにしては力があるので、非力な坊やの僕はあっさりマウントをとられてしまう。
「だからといって、されるがままになる奴があるか!」
今度はアーヤが、三十路の女魔法使いを引き剥がすはめになる。
幸か不幸か他の魔物がくることはなかったが、僕たちは魔狼の被害にあった現場を放置して、しばらく騒ぎ続けた。
やがて夕暮れになると、アンジェリーナさんがポツリと町へ戻ると言った。
「ディックさんを放置はしておけません……」
短い詠唱を唱えたかと思えば、杖もなしに氷を作って、ディック氏の遺体を覆った。
「見事なものだな。普通は杖を触媒とすると思うのだが」
リュードンには少なかったが、アーヤの実家にはそれなりに魔法使いがいたようだ。
それらと比べても、アンジェリーナさんの魔法は発動が速いという。
「師匠には戦闘に一番不向きな人間に、どうして誰より優れた攻撃魔法の素質があるのかと頭を抱えられました……」
当時を思いだしたのか、とても寂しそうだった。
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