第25話 女魔法使い(1)
「リーナはアンジェリーナと言いまして、近くの町で冒険者をしています」
叩かれた頭を手でさすりつつ、涙目のアンジェリーナ嬢が自己紹介をする。
相変わらず僕の弓をチラチラ見ては、腕を組んで立つアーヤからじりじりと距離を取っている。
「魔法を使えるんだ、凄いね」
思わずといった感じで褒めると、リーナがフフンと胸を反らせた。
「小さい頃、村に立ち寄った貴族様の一行に魔法使い様がいて、私には素質があると弟子にとってくださったのですよう」
魔法使いは魔法使いの素質を見抜くことができる。これは昔から言われていて、僕も幼い頃に男爵様お抱えの魔法使いと対面させられたことがある。
「魔力があっても魔法を使える才能がある人は珍しいものね」
アンジェリーナさんは年上だが、なんとなくため口をきいてしまう。親しみやすいといえばいいのか、舐められやすいといえばいいのか……。
「そうであれば、アンジェリーナ殿は貴族に仕えているのか? となると先ほどの身なりのよい男は使用人か?」
貴族の関係者である可能性を知り、アーヤが身構える。
「それが……リーナはどうにも戦闘に向いていなくて……」
要するに怖がりさんで、魔法兵として戦闘に参加しても、後方でプルプル震えてるか、真っ先に逃げてしまうのだという。
「使いものにならないと放逐されたか」
「う……」
ストレートな物言いを好むアーヤを前に、アンジェリーナさんがそろそろと僕の背中に隠れる。
あまり密着されるとお胸が……おおう。
「ロイド?」
笑顔のアーヤがとても恐ろしいので、慌ててアンジェリーナさんから離れる。
「じゃあ、アンジェリーナさんは、貴族の家を出て町に向かう途中だったんですか?」
そうであれば御者がひとりで、護衛はなしというのもそこそこ納得がいく。
「いいえ、追い出……じゃなくて、人には向き不向きがあると道を示されたのは十年も前でして……以降は冒険者をしてます……」
「では依頼の最中だったのか? 確かに事切れていた男は商人に見えなくもなかったが……もしくは仲間だったのか?」
「依頼主です……といっても、はめられた感じですけど……」
「穏やかではないな。誰かに命を狙われる心当たりはあるのか?」
「あ、魔狼との遭遇は偶然です。はめられたというのは、どうやら真っ当な依頼ではなかったようで……」
人差し指をちょんちょんと合わせて、視線を逸らすアンジェリーナさん。
「つまり、ギルドを通さない依頼を受けたということか」
「はい……」
アンジェリーナさんが顔と肩を落とした。
冒険者に詳しくない僕は、アーヤにギルドについて尋ねる。
「ギルドを通せば安全なの?」
「絶対ではないが、ああいう組織は面子を大事にする。所属する冒険者をコケにされれば、依頼主へ報復する可能性が高い」
「相手が権力者だった場合、その限りではないですけどねえ」
アンジェリーナがさんが虚ろな目で笑う。
「そうなんだ。ギルドを通さない依頼というのは多いの?」
「仲介料が必要にならないので、それなりにはある。だが、依頼者側も冒険者側も問題が発生した場合は自己責任だ」
アーヤが周囲を警戒しつつ、倒した魔狼の死骸を片付け始める。
僕も手伝いだすと、アンジェリーナさんも半泣きでついてきた。
本当に冒険者なのかと疑いたくなる姿である。
アーヤもそう思ったのか、アンジェリーナさんに怪訝そうな目を向ける。
「十年も冒険者をしていて魔物の死骸に怯えるなど……ああ、魔法で焼いたりして痕跡を残してこなかったのか。いや、だとしても多少は慣れるはず……」
「うう……言ったじゃないですか、人には向き不向きがあるんですよう」
唇を尖らせての抗議顔。そうした仕草を見てると、なんとも少女っぽい。
アンジェリーナさんの実際の年齢っていくつなんだろう?
「それなのに冒険者になったのか?」
「最初はどこかの町で普通に仕事をしようとしたんですよう。でも、魔法使いだと知られるとちやほやされまして……」
パーティーへの誘いもひっきりなしで、せっかく魔法を覚えたのだから頑張ってみようと決意。
冒険者になった最初の頃は、順風満帆だったらしい。
ギルドが定める階級も上がっていき、たくさんの依頼もこなした。
「でも、依頼の難易度が上がると、その……」
「極度の怖がりが災いして、仲間の足を引っ張ったか」
「はい……魔物が強くなったりすると、味方への強化や明かりだけでなく、直接の攻撃魔法も求められるようになりまして……」
それまでは敵が見えない位置で震えながら補助魔法を使っていたが、前へでるとやはりまともに立ってもいられず、逃げだしてしまったらしい。
「パーティーは無事でしたが窮地に陥った責任を負わされて、それまで溜めていたお金とかで失ったアイテムや装備を弁償しまして……」
すっからかんで放り出され、やはり自分に戦いに関する仕事は向いていないと代筆などの仕事を始めようとしたらしいんだけど……。
「そこらへんって、基本的にお貴族様の管轄だよね?」
「はい……紹介状もなしに始めるのは無理でした……」
僕の言葉に、アンジェリーナさんが項垂れた。
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