第22話 旅立ち(1)
本日も仕事が忙しいブライマル氏に、鍛冶場で感謝と別れの挨拶を済ませ、僕とアーヤは普段よりも賑やかな町をさっさと出た。
僕は革の胸当てと小手、ブーツの他はネックレスを装備。
アーヤは革の鎧と小手、ブーツに膝当てをしているが、兜は被っていない。
鎧や小手、ブーツは単純に防御力を強化しており、代償は自分たち以外に使えないという内容にした。
それでも防御力はそれなりに強化され、普通の革装備に比べればずっと強い。
「フフン♪ フフフン♪」
アーヤが上機嫌で、あまり整備されてない街道を歩く。
時折、三つ編みを頭の上でまとめている髪留めに触れては表情を緩める。
「ずいぶんと気に入ってくれたみたいだね」
「当たり前だ。ロイドからの贈り物だぞ」
ブライマル氏に頼んで、僕のネックレスと同じく翡翠を使った髪留めを作ってもらった。翡翠の価値自体は劣るが、なかなかの出来栄えである。
そこへ僕が幸運と防御力強化、さらには魔法耐性も付与をした。
付与をする前、代償はどうするか考えていたら、アーヤが真顔で装備する時間が増えるほど僕を好きになるのはどうだろうと提案してきたので即却下した。
拗ね気味の彼女を背に、僕が最終的に考えた代償は、僕への愛情の度合いによって能力値が変化するというものだった。
要するに僕に興味がない女性が装備しても、ただの髪留めでしかない。
アーヤが望むところだと受け入れ、装備後に鑑定したら、あらびっくりな能力値。
ブライマル氏にどれだけ愛情が深いんだとドン引きされていた。
その時のアーヤの誇らしげというか、肉食獣じみた笑みが印象的だった。
「フフフ、ロイドよ。いつでも鑑定していいのだぞ? さあさあ」
ことあるごとに、愛情を確かめさせようとするのは少しウザいけど。
僕としても悪い気はしないので、たまには付き合う。
「それにしても、出会って間もないのにアーヤはどうして僕へそれだけの好意を抱くようになったの? 外見?」
「容姿が好みのど真ん中だったのは間違いない。間違いないが、決してそれだけではないぞ。本当だぞ。本当だからな!」
必死に念を押してくるあたり、自分で言うのもなんだが一目惚れ的なものだったのではないかと思う。
かくいう僕も、初めて見た時から綺麗な人だなと気になってたんだけど。
好いてもらえると、相手を好きになっていく。人間の好悪ってなんだか不思議だなと思いつつ、徒歩での移動を続けるうちに日が沈み始めた。
「今日はここまでにしよう。無理に進んで、見晴らしの悪いところで野営をするはめになったら目も当てらない」
リュードンから離れるほど、魔物だけでなく盗賊の出現率も高くなる。
僕に剣は無理なのがわかったので、ブライマル氏から旅の選別として僕用の小型の弓を貰っていた。
当然付与も施してあり、絶対命中というとんでもない効果を付けた。代償は装備中、弓以外の武器の熟練度が下がっていくというものだ。
アーヤみたいに騎士として剣や槍の腕を鍛えていれば許容できない代償だが、僕のような戦闘が苦手な人間ならなんの問題もない。
代償が効果よりもきつかったのか、攻撃力も強化されてたのは有難かった。しかも魔力を弓に変換できるようにもしてある。
その性能を伝えた際、アーヤもブライマル氏も絶句していた。
そして正気を取り戻すなり、僕に弓の性能を絶対に口外するなと真顔で告げた。
その弓は今、僕の腰に下がっている。使うことがないのを祈りたい。
アーヤと一緒に木を拾い、夜になると少し寒くなるので火を付ける。
ブライマル氏からは、守りの短剣代の他にもろもろの報酬だと金貨十枚も渡された。
多いと返そうとしたが、それだけの仕事をしたと言われ、受け取らないと自分の価値を下げることに繋がり、ひいては僕より付与能力の低い者の立場を悪くするとも言われれば、受け取らないわけにはいかなかった。
おかげで火の魔石を組み込んだ火の杖と、水の魔石を組み込んだ水の杖を買うことができた。
どちらも金貨三枚もしたが、火の杖は文字通り火を、水の杖は水を出せるので旅にはとても役に立つ。なければ荷物が増え、水の調達も大変だ。
焚火に火を付け、手を差し出して温まる。魔法の杖に感謝しよう。
「魔石に魔力がなくなっても、自分で注げばまた使えるようになるし、高いけどいい買物だったね」
「戦闘には使えないが、旅の利便性を上げてくれるのは確かだな」
アーヤは火の勢いを調整しながら、周囲の警戒を油断なく続けている。
「どこかの商隊に同行できればよかったんだけど……」
大勢がまとまって移動するので護衛も多い。同行中は見張りなどの負担もあるが、得られる安全性とは比べるまでもない。
もっともこちらには超絶美人のアーヤがいるので、男所帯の商隊では揉めごとが発生しそうではあるけど。
「まあ、いいではないか。私はロイドとふたりで旅ができて嬉しいぞ。町に着くまでは交代での見張りになるので、添い寝はできないがな」
「それは残念」
「な……!? く……反撃されるとは、ロイドもやるようになったな」
なにをとは問わずに、ふたりで笑い合う。
慣れ親しんだ家を追放され、町を出ることになっても、悲壮感がないのは正面に座る彼女のおかげだろう。
だから僕は、心を込めて「ありがとう」と言った。
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