第19話 元兄と元婚約者(1)
「アーヤの童顔好きって、相当だったんだね……」
「ちょっと待て。変な誤解はやめようではないか。それに誰でもいいというわけではないし、なにより私はロイドの才能目当てではないぞ」
早口で言い訳しまくりの女騎士……いや、もう貴族ではないので元になるのか。
「目当ては僕の体だもんね」
「うむ! いや、違う! 待ってくれ! 私を少年趣味扱いしないでくれ!」
「違うの?」
「当たり前だ! ロイドは私をどういう目で見ているのだ!」
激昂するアーヤに、僕はそこらにあった革製のブレスレットを差しだす。
「なんだ、それは?」
「防御力が上がる代わりに、嘘をつけなくするブレスレット」
そんな付与をしてる時間はなかったので、もちろん大うそだ。しかし、アーヤは知る由もないのでおもいきり慌てる。
「待て! まさか私に装備しろというのか! あんまりだぞ!」
「じゃあ、素直にどうぞ。アーヤは幼い顔立ちの背の低い男が好きだよね?」
「……そう言われると、やぶさかではない気がしないでもないが、受け答えは差し控えさせてもらいたいのを、答えにさせてもらいたい」
「うん、長々と煙に巻こうとしてるけど、アーヤの本心が知れてよかったよ」
それと教えると怒られるので、ブレスレットの性能がはったりだったのは黙っておこう。
「うぐぐ……」
ブレスレットを元に戻そうとして、これでいいかと思い直す。
「話を聞いてくれ、ロイド。貴族の下心丸だしな中年どもに卑猥な目で見られ続けてみろ! 歪んで当然だ!」
性癖が歪んでる自覚はあるようなので一安心だ。
まあ、僕もアーヤをどうこう言えない気はするけど。
「それにロイドだって、乳房の大きな女に露出させるような付与を施したりするではないか!」
「あれはあの時限りじゃないか。それになにかの間違いだったんだよ」
詳細な条件設定を付与の際に行えば、悪ふざけとしか思えないような装備条件も付かない。
「だが巨乳好きは確かだろう! だからあの牝犬をチラチラ見ていたのだ!」
「確かに、その、大きいのは好きだけども、レイーシャに関しては幼馴染として幸せにしてるか気になっただけだよ」
レイーシャを見てもあまりショックを受けなかったのを告げると、アーヤは半信半疑ながらも、一応は僕への詰問を止めた。
「まさかアーシャに調教されてたとは夢に思ってなかったけど」
「調教とは、また……しかし、うむ、いいな」
なにやら変な道へ目覚めそうだぞ、この元女騎士。
僕まで引きずられたら困るので、クククと笑う彼女を無視する。
「……よし」
魔力台にブレスレットを乗せ、魔力を込めていく。
与える付与は、付与師としてのレベルが上がる代わりに、童貞を卒業できなくなるというものならどうだろう。
僕だって鬼じゃない。元兄はとっくに経験済みだろうし、童貞でなければ代償に意味はなくなる。
そうした条件付けでも付与は可能だったので、僕の特殊能力はかなり幅広く使えて有用だと思う。
「レイーシャのも用意しておくか」
同じブレスレットを探し、幸運が上がるという内容にしておく。
ただし隠し条件として、浮気をすれば装備後の幸運値がそっくりマイナスに転じるというのはどうだろう。
これも報復としては優しい部類ではないだろうか。
ふたつのブレスレットを完成させると、アーヤが興味深そうに覗き込んだ。
物欲しそうにしたあとで何度か咳払い。自分の手首をさすったりもしている。
「あとで僕たちの分も作ろうか。付与はもちろん変えるけども」
「催促したみたいで悪いな。しかし、これは連中に与えるのだよな」
訝しげなアーヤにネックレスを貸す。
「ロイド、お前……」
隠し条件を見たのか、アーヤが呆れていた。
「僕なりの仕返しだよ。それと祝福かな」
銘は両方とも恩寵のブレスレットになっている。ブライマル氏作のはずなのだが、何故か作成者も付与者も不明。
「まるで迷宮で入手したものみたいだな」
「それだ。その設定でいこう」
森で行き倒れていた冒険者を救った代わりに、ネックレスと合わせて三つもの装飾品を貰った。おかげで魔狼殺しの短剣も作れましたという塩梅だ。
「強引すぎる気がしないでもないが、あの不愉快な男が有用な付与をできるようになれば説得力も生まれるか」
「相手が喜んでる間に僕たちは別のところへ行こう」
目的地は特に決めてない。貴族とあまり関係を持たずに、有名になりたいのであれば迷宮都市はどうだと誘われてはいるけども。
「隠し条件は最高レベルの鑑定でなければ見抜けないし、問題になることもないだろう。あの牝犬には呪いになるかもしれないが」
「アーヤはレイーシャが浮気しそうに見えるんだ?」
「あんなにわかりやすく、男を利用することしか考えていない女も珍しいと思うぞ。むしろ、どうして世の男どもは気付かないのだ?」
僕も捨てられる前は、とても優しい素敵な女性だと思ったしね。
擬態が上手いというか、男を転がすのが上手いというか。
「それにあの男も、不快な視線を私の体に這わせてきていたぞ。貴族の中年どもと同じ人種だ。権力を持たせればろくなことにならないだろう」
相変わらず、ズークは散々な評価をされている。
それにしても、アーヤに視線ねえ……そうか、そうなんだ。
「……アーヤ、なにニヤニヤしてるの?」
「フフフ、嫉妬するロイドを可愛いと思っただけだ」
「うわ、少年趣味を白状した途端、遠慮がなくなったよ」
「そうかもしれないな。ではロイドの場合は、巨乳趣味が露見したので、今夜は遠慮なく私の胸を楽しむのだろうな」
「いや、それは……うう……」
どうにも欲望に素直になれない僕を、アーヤが楽しそうに眺めていた。
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