第3話 追放(3)

 やり直しができないはずの付与ができたばかりか、呪われていたはずのネックレスがとんでもない一品になってました。


 冷静になろうと現在の状況を整理してみたが、やっぱりわけがわからない。


 どうしてこうなった。


 原因は恐らくだけどわかってる。僕がほぼ全魔力を込めたせいだろう。


「だからって、どうしてこんな……」


 そこで思いだされるのは、気絶前になんとはなしに発した愚痴。


『どうせ呪いなら、レベルが上がらない代わりに鑑定ができるようになるとか、そんな前向きなのがよかったよね』


 確かにそう言った。


 魔力をしこたまぶち込んだあとにそう言った。


 だけど魔力量も一切調整せず、無理やり魔力で染めあげたようなやり方で、普通なら不可能な付与のやり直しに成功した?


 ありえない。


 でも付与効果の変わったネックレスは、今も僕の首もとにある。


「本当に鑑定ができるようになったのだとしたら……」


 地面に転がっている鉄の短剣を見つめ、小さな声で鑑定と呟いてみる。


『銘:呪われた短剣。


 鍛冶師ブライマル・ドンゴが鍛え、付与師ロイド・クレベールが付与を施した短剣。装備者の生命力を無理やりに吸い取り、攻撃力の強化を果たす。


 攻撃力 220


 生命力 -660


【ただし装備者はこの短剣を装備している限り、一度だけ死に直結するダメージより復活する】』


「ぶッ!?」


 またしても吹いたことで、ただでさえ少ない口の中の水分が余計に減った。


 けれど、驚くなというのも無理がある。


「最後の説明は、レイーシャもベッケさんもしてなかった。つまり鑑定ができない隠し能力みたいなものってこと?」


 ものは試しとばかりに、僕は目を閉じて自分自身の鑑定を願ってみる。


『名前:ただのロイド


 港町リューベルのクレベール家で生まれ育ったが、呪われ子との誤解を受けて追放され、その際に兄に婚約者を寝取られた。失恋のショックはいまだ深いものの、一番の後悔は巨乳に顔を埋めて眠る夢が断たれたことである。


 生命力:20

 魔力:200

 腕力:8

 体力:7

 敏捷:10

 幸運:1006


【特殊能力】


●付与選択


 付与の効果と代償を選べる。つり合いがとれていなければそれに類するものへと自動的に変更される。自分の付与したものであれば、代償を捧げることで再選択が可能となる。ただし回数が増えるほど捧げる代償も多く必要となる』


 なんかとんでもないのがある!


 っていうか、その前に巨乳うんぬんってなに!?


 この説明文って誰が作ってるの!? もしかして神様とか!?


 だとしたら僕はレイージャにそんな……そんな……ことを、思ったことが、ないとも言えないのだけど……。


 だって、仕方がないじゃない。僕だって年頃の男子なんだ! 夢を見たっていいじゃない!


 頭の中で誰にともなく行った言い訳を終え、改めて自分のステータスを確認する。


 ベッケさんに成人の際にしてもらったのでは、特殊能力まではわからなかった。つまりこの鑑定はナイグ家のより上のレベルのものになる。


「でも装備の攻撃力や代償は正確にわかってたし、ナイグ家の鑑定ってやっぱり凄かったんだな……」


 大きな町には必ず鑑定屋があり、武器防具の店や道具屋がよく利用していた。


 リュードンにおいても、ナイグ家の人間が町の鑑定依頼もこなしており、優秀な者は領主に仕えるか、契約中のクレベール家に入ったりする。


 僕の魔力が膨大だったのと、レイーシャと仲が良かったのもあって、親同士が両家の仲を一層深めるべく婚約関係となったのが一年前のことだった。


 僕のお披露目付与が成功していれば、そのまま結婚の流れだったのが、生憎と失敗扱いになった挙句、レイーシャは僕に代わって次期当主となった兄との婚姻を承諾した。


 いつも優しく寄り添ってくれていた幼馴染だけに、やはりショックは大きいが、こうなったら結婚前に本性が知れてよかったと思うしかない。


「でも、そうか……僕は呪われ子じゃなかったんだな……」


 肩にずっしりとあった重みが取れた気がした。


「となると、攻撃力を高めようと念じた結果か……」


 ショートソードが壊れないギリギリまで攻撃力を高めたことにつり合う代償が、生命力の膨大な消費になったのだ。


「でも復活が可能ということは、一度だけでも使えるのか……」


 これはこれで需要がありそうな気もするが、復活の効果を試すのはなかなか勇気がいる。もしだめだったらただの自殺だ。


「これも付与し直せば……」


 どんな効果にしようか悩んでいると、森の外で「魔狼が出た!」という声が聞こえた。


 一体一体が凶暴なのに加え、群れで行動するのが有名な魔物だ。ちなみに魔力を帯びた獣を魔物と昔から呼んでいる。


 凶暴性や耐久性が普通の獣とは比べものにならず、その素材はよく装備品の材料に使用されるし、肉も食料になったりする。


 もっとも魔物の肉は不味いのが多いらしい。僕は食べたことはないが、貧しい家庭などではよく食卓にのぼるのだという。


「大変だ……!」


 魔物が森に入ってこないとは限らない。僕は大慌てで短剣を手に取る。


「代償は魔力でいいのかな? 全部注がなくても成功するのを祈るしかない……!」


 付与を願うのは魔狼への特効。代償はその他の敵への攻撃は無効でどうだろう。


 大急ぎで魔力を代償に捧げていくと、半分ほど使用したところでキインと付与成功時に似た甲高い音が頭の中に響いた。


「これでどうだ」


 ネックレスを握り締め、短剣を鑑定する。


『銘:魔狼殺しの短剣


 攻撃力:100(対魔狼)

 攻撃力 0(対魔狼以外)


【装備者は魔狼殺しの称号を得る】』


 称号まで付いちゃったよ。


 冒険者や騎士には功績に応じていつの間にか称号を得る人がいて、様々な恩恵をもたらしてくれるという。


 今回は魔狼殺しなので、かなり期待できる……と思われる。


 自信はない。


 武器を装備することで称号を得るなんて効果、初めて聞いたもの。


「この短剣を誰かに使ってもらえれば……」


 などという他人任せな思考がよくなかったのか、僕の前に従来の狼よりも一回り大きな魔狼が一匹、のっそりと姿を現した。

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2024年9月28日 12:34
2024年9月28日 14:34
2024年9月28日 16:34

追放付与師は名を売りたい 桐条 京介 @narusawa

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