エピローグ
悪女
(どうして上手くいかなかったの?)
エリスは自分こそがザイン帝国皇帝の未来の皇后となる筈だったと、唇を噛む。
そのためにユースティティアの母親であるフロアレを、黒魔術を掛けてまで眠らせたのに。
(なんであの女だけが幸せになるのよ)
エリスは許せなかった。ザインの第2皇子で元婚約者、キリクスも。
一緒になって断罪した第1皇子のアドニスも。
エリスと皇妃を追い詰めた皇后のフロアレも。
そして何よりも許せないのが、初めから全てを持って生まれた異母姉のユースティティアだった。
ユースティティアには、冷たい折檻室と薄汚れた床に這いつくばる姿がお似合いだと思っていた。
正当な血筋の第1皇女というだけで、皆からチヤホヤされていた彼女が。
だからエリスは奪った。
ユースティティアの居場所を。それなのに。
クリュタイメストラがただの側室へと降格してから、生活の質はぐんと下がった。
狭い部屋に移るようにと言われ、使用人の数も減り、食事も、与えられる服も宝石も質素になった。
また、自由になるお金も少ない。
(ああ、惨め 惨めだわ)
(私を断罪した全員、私の前に跪かせ、無慈悲に殺してやりたい)
「………エリス。どうやら計画は失敗したようだな。」
狭い部屋の窓が開け放たれ、そこに重く色濃い闇の魔力を放つ彼が現れた。
長い漆黒の髪。
尖った瞳孔。真っ黒なローブに全身を包んでいる。纏った魔力は凄まじく、恐ろしい深淵の闇に引き摺り込まれそうになる。
「…………様!!」
「エリス。一つ、面白い話をしよう。
お前はこの世にある禁忌の魔術、〈回帰〉を知っているかい?」
「……回……帰?」
目の前にいる不気味な男は、口の端を持ち上げ、含み笑いを浮かべた。
「ああ、そうだ。
エリス——————回帰の魔術を習得し、過去に戻って全てをやり直せ。
お前を貶め追い詰めた、ザインのアドニスとキリクス。
お前とクリュタイメストラをこの様にした皇后のフロアレ。
そして、お前をいつも不幸にする姉のユースティティア。
この4人を過去に戻って、殺せ。
そうすればエリス。君は君の大好きな権力を握って幸せに暮らす事ができるだろう。」
(回帰)
(ああ……何て素敵な魔術なの)
(その先には私の求める本当の幸せが待っているのね?)
目の前の男同様、エリスは唇の端を久しぶりに吊り上げた。
楽しみだと、エリスは笑う。
あの4人の陰惨な最後が目に浮かぶ。
キリクス。アドニス。フロアレ。
そして誰よりも憎い姉のユースティティア。
「あははは!あーハハハハハ!!!アハハハハハハハー!!
あーハハハハハ!!!!」
外に待機していた衛兵が驚くほどの声量で、エリスは高らかに笑う。
オプスキュリテの第2皇女、エリス・アルコイリス・オプスキュリテ。
彼女は、このオプスキュリテで最も恐ろしい悪女だ。
エピローグ end & 本編【完】
最後までお読み頂き、ありがとうございました!含みで終わったので、いつか2部があるかもしれません。またいつかお会いしましょう。
Frozen blue rose《凍てつく青薔薇》の悪女【完】 kaya@コミカライズ【私、何度か〜】 @kaya0
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