あれから俺達は(最終話)
あれから8年という歳月は長いようで短い。
今では、かつて悪女と言われ虐げられてきたオプスキュリテの第1皇女はどこにもいない。
本来あるべき姿のまま年を重ね、その美しい心のままに育った。
過去ではエリスが聖女と呼ばれたが、今はユースティティアを聖女と謳う人々ばかり。
(愛してる ユースティティア)
(かつての君を、君と知らず傷つけてごめん)
(もう二度と君を傷つけたりしない)
(これからは必ず幸せにする)
一度きりの回帰。禁忌の魔術。
過去に戻る前にエリスを毒殺に追い込んだと思い込み、ユースティティアをひどく責めた。
あの時彼女が狂ったように笑っていたのが、キリクスは今でも忘れられない。
あの時ユースティティアの目は「私を殺して」と言っていた気がした。
もしかしてユースティティアは、キリクスが回帰する事を願っていたのだろうか。
今となってはもう分からない。
だがこれからは、まだ真っ白で希望に満ちた未来を共に歩ける喜びに感謝しようとキリクスは思った。
そのコバルトブルーの髪もブラウンアイも、今では全てが愛おしかった。
*
花嫁のユースティティアの美しさに目が眩む。
輝く純白のベールに、真珠を一つ一つ散りばめた真っ白のドレス。
白い肌に淡い紅色のリップ。束にした髪に飾られたジュエリーがよく映える。
よく晴れた午後。
皇室の大庭園で行われる結婚式の会場にはアドニスや、アドニスの新しい婚約者、オプスキュリテの皇帝や皇后のフロアレの姿がある。
神官の前で夫婦の誓いを交わしたキリクスは、恥じらう姿が可愛いユースティティアのベールを捲り、その唇にキスをした。
「これにてお2人が正式に夫婦となった事をここに証明いたします!」
神官の声と共に会場から歓声と拍手が聞こえる。
キリクスは、隣で幸せそうに笑うユースティティアの手を取って歩き出した。
ゆっくりと進む2人の頭上には花びらが舞い上がり、来賓した人々は祝福の言葉を送った。
皇室楽団の太鼓とフルート、ハープの音色が聞こえる。
キリクス達は一歩、一歩を大切に踏みしめた。
回帰しなければ救えなかった兄、アドニス。
皇后フロアレ。
そして……初めから恋していた本来の相手、ユースティティア。
回帰した意味の大きさを、キリクスは噛み締める。
幸福そうに笑うユースティティアに熱い視線を向けながら、キリクスはもう一度彼女の耳元で囁いた。
あの日ハウオリの木の下で約束した事を思い出しながら。
「ユースティティア。愛しています。」
「私も、愛していますわ。キリクス様。」
回帰後の先に〜end
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