あれから俺達は

 イーブルが姦通したという事実を知っている人間を似たように監視下に置き、必要ならば口封じのための魔術を施して、国外に移住させた。



 そうやってキリクスは秘密裏にアドニスの未来を守った。



 毒殺に関しても、アドニスにはもう危険な婚約者は存在しなかった。

 現在20歳になるアドニスには、決まった婚約者がいない。

 そのため、アドニスとの婚姻を望む各国の王族や、貴族の女性達からの求婚が絶えない、というのが現状だ。



 やがてアドニスにも、相応しい相手がいつか必ず見つかるだろう。



 それに。ユースティティアになりすまし、罪を重ねてきたあの悪女はどうなったのか?




 オプスキュリテの第2皇女、エリスは。






 ————フロアレが黒魔術から解放された後、彼女はまた権力を取り戻した。



 いくら皇帝に冷遇されているとは言え、彼女は正当な皇后だ。

 自分が眠っている間に皇室を好き勝手に操作し、退廃させた皇妃、クリュタイメストラとの権力争いに彼女は勝ったのだ。



 皇室でクリュタイメストラと癒着し、不正を行っていた貴族達を断罪し、彼女の後ろ盾を絶った。

 正当性を重んじる皇帝はクリュタイメストラの不正に腹を立て、彼女を皇妃の立場から側室へと降格。

 そのせいで娘であるエリスの身分までもが降格し、エリスはキリクスの婚約者であることさえ厳しくなってしまった。



 よってエリスは婚約をわずか9歳で破棄された。



 その事でこのザインに、アドニスの婚約者として訪れたのは、ユースティティアただ1人だけ。


 

 エリスがこの国との関わりを無くした事で、アドニスの毒殺の不安も無くなった。



 回帰した後は、エリスはすでにザインに関わりない人物となっていた。





 *




 ザインの皇室の庭にも、あのオプスキュリテ原産のハウオリの木が植えてある。

 〈幸福〉という意味があるのだそうだ。

 庭はライトアップされ、木々や花壇には色とりどりの魔石の光が輝いている。

 このプロポーズのドラマチックな場所に相応しい。



 希少な宝石のついた指輪を、ユースティティアの指にはめる。

 片膝を立て、キリクスはユースティティアの前で跪いた。




 「初めて出会ったあの日の夜。

 あの時からユースティティア、ずっとあなたが好きでした。

 これからあなたを、一生をかけて愛し抜くと誓います。

 だからユースティティア。俺の伴侶になって頂けませんか?」


 

 本格的なプロポーズできちんとユースティティアの承諾を得たかった。

 恐る恐る見上げると、ユースティティアが嬉しそうに涙を浮かべていた。



 「……私も、あの夜からキリクス様の事が好きでした。

 お慕いしております。

 もちろんお受けいたします。私をキリクス様の妻にして下さいませ。」

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