タケオのプレゼント
惣山沙樹
タケオのプレゼント
エッセイ企画には何としてでも参加したい、三十七年の人生のうちでどれがいいだろうか、と考えていたところ、押し入れから「懐かしい物」が出てきた。今回のネタに使えということなのだろう。なのでタケオの話をする。
今から十七年前。二十歳の大学二回生(関西では学年のことをこう表現する)だった私は、男に振られてヤケ酒した勢いで、サークルの先輩だったタケオと一発やった。やっちまった後で、まあ今回のことは別にええか……と流そうとしたところ、一週間後くらいに付き合ってほしいと言われたので、ほなそうするか……となった次第である。どこの大学生も大体そんなもんか知らんが私の場合はそのくらいの貞操観念であった。
タケオはなかなか彫の深い顔立ちをしていた。オーランド・ブルーム似と本人も言っていた。その頃公開されていた「パイレーツ・オブ・カリビアン」を見て、まあ確かに似てなくもないか、と私もタケオの顔はカッコいいと思っていた。
岡山出身のタケオは大阪の大学まで当然通うことはできないので一人暮らしをしていた。私は見事にそこに入り浸った。後々聞いたら賃貸契約的にはダメだったらしいが、タケオは室内でタバコを吸っていたので、私も宿になる喫煙所として活用させてもらっていた。
タケオはパチンカス大学生だった。パチンコに勝った負けたは露骨に顔に出ていたので会えばすぐわかった。負けた日はどこにも行かずに部屋でカップ麺をすするのみだったが、勝った日は良かった。やれ焼肉だ何だのに連れて行ってもらった。
このくらいでタケオの説明はいいだろう。つまり、まあ、適当な始まりだったのにも関わらず、案外仲は良かったのである。私はタケオが大好きだった。
そして迎えた私の誕生日。期待した。めちゃくちゃ期待した。いつものように部屋に行き、小さな箱を渡された。この雰囲気はアクセサリー。箱を開けた私の第一感想は、口には出さなかったがこれだった。
「お風呂の栓?」
穴の開いたハートの飾りはともかくとして。銀色に光る、小さなボールがいくつも連なって鎖になったもの。これ、お風呂の栓についてるやつとちゃうんか?
「グッチじゃ! グッチ!」
タケオはそれを主張してきた。確かにハートにはグッチと書いてあった。ハートの飾りから鎖をたどって反対側には棒状の留め具がついてあり、これをハートの穴に通し、ブレスレットとして使うようだった。
「わぁ~! めっちゃ可愛いやん!」
そのくらいのことを言ったと思う。本物のグッチかどうかは知らないが、あの様子だと相当奮発したはず。ここで「いやお風呂の栓かよ」と言ってしまって機嫌を損ねては、せっかくの誕生日が台無しだ。
そして、愛しい彼氏が贈ってくれた物なのだから、たとえお風呂の栓だろうと毎日身に着けようとしたのだが、このお風呂の栓……いや、ブレスレットはすぐ外れた。苦肉の策として、チェーンの細い腕時計を買い、それのチェーンと絡ませて固定して、ブレスレットと腕時計を二重につけることによって解決した。
それからなんやかんやあって、私とタケオは別れたのだが、その話をするともう一本エッセイが書けそうなので割愛する。
あれから私は神戸、タケオは岡山で、それぞれ家庭を持って円満に暮らしている。連絡も取り合っており、互いの子供自慢や政治の話なんかもするので、いい友人関係を築けていると思う。
そして、十七年の時を経て見つかったのだ。お風呂の栓ことグッチのブレスレットが。私はすぐに写メ(とガラケー世代は表現する)を撮ってタケオにラインで報告した。
「それは沙樹にあげたやつじゃけ、どうにかしてwww」
どうにかねぇ……。
「質屋に卸したら数千円にはなるのではwww」
どうやろう……傷だらけやねんけど……。
「傷物にされたwww」
言い方よ。
それから、他の話題に移ったので、かつてのプレゼントについてはそれで終わったのだが、結局言えなかったな。「あれ、お風呂の栓だと思ってた」って。
タケオのプレゼント 惣山沙樹 @saki-souyama
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