第10話 筆入れ
母とあたしは学校に呼び出された。
職員室の隣の部屋には、先生と、教頭先生、倉田さんのお母さんと、隣に倉田さんがいた。
「うちの娘が、大変申し訳ありませんでした。」
母は倉田さんのお母さんに立ったまま謝った。
なんで母が謝るの?
悪いのは倉田さんなのに。
あたしが買ってもらえなかった筆入れを、わざわざ見せびらかして。正確悪っっ。
「お母さん、どうぞ、おかけ下さい。」
教頭先生は、母とあたしに椅子に座るよう促した。
母はずっと下を向いたままだ。
あたしは正面の倉田さんを見る。倉田さんは一瞬あたしと目を合わせたけど、すぐに下を向いた。
「麗華ちゃん、どうしてこんな事をしてしまったのか、倉田さんのお母さんにお話できるかな?」
教頭先生が、あたしに聞いてきたけど、どうしてって・・・ムカついただけ・・・
でも、倉田さんのお母さんに、そんな事言えない。
あたしも、下を向いた。
「何か・・・雪美が嫌な事したのかな・・・?」
今度は倉田さんのお母さんが聞いてきた。
だからぁ。しつこいな。ムカついただけだって!ただそれだけ!
あんただってあるでしょ!?なんかムカついてやつ当たったりする事。そんな感じだって。誰でもある事だって。それをこんなに大袈裟にしてさ。
「本当に申し訳ありません。筆入れは弁償させて頂きます。」
母は下を向いたまま謝った。
「お母さん、それだけじゃないんです。私は、麗華ちゃんがどうしてこんな事をしたのか聞きたいんです。」
倉田さんのお母さんが困った顔をした。
「この子は、父親と暮らしてないので、父親がくる度に甘やかすので、何か気に入らなかったんだと思います。すみません・・・」
へ?
あたし、甘やかされてるの?そうなの?
話合いは1時間くらいで終わった。
結局、母がずっと謝って、弁償する事で終わった。
長かった〜。まあでも、黙って座ってれば終われたから良かったか。
母は細かい事は聞いてこないし。
どうして?なんで?って。先生はしつこいけど、母は理由なんて聞いてこない。ひたすら謝って終わった。
次の日の学校は、なんか行きたくなくて休んだ。
「学校には行きなさい!」
母があたしの部屋から出て行かない。
うるさい。さっさと出て行ってよ!
「ちゃんと倉田さんには筆入れ弁償するから。あんたは普通に行きなさい!」
何言ってるか、わかんない。
あたしはベットからでない。
出てたまるか!
困った母は、部屋から出てどっかに電話をかけた。
どうやら父に電話してるみたい。
1時間くらいしたら父が家に来た。
「麗華、ほら、欲しかったやつ。」
父はあたしの顔を見るなり、袋を差し出した。
中を見ると・・・
「やった!」
欲しかった筆入れだ!
「今日は休んでいいけど、明日はそれ持って行くんだぞ。」
そう言うと父はまた出て行った。
やったー!!
欲しかった筆入れだ!
次の日、あたしは学校で、筆入れを倉田さんに見せびらかした。
あなたから産まれただけ 本間和国 @kunuakitubu
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