第2話

「響も俺にいたずらしたらいいよ。そうしたらおあいこでしょ?」

「……そ、それならいいよ……」


 もはや茹でだこのように真っ赤にさせながら、響は挙動不審気味に頷いた。


(響って言いくるめられやすいよ)


 響の危うさは悠を過保護にさせていく。


「でも、いたずらって何したらいいの?」


 本来ならあざとい首傾げだが、響がすると盲目故にただただ可愛く映る。


ベッドむこうに行こう。そこで教えるから」


 悠は響の手を取り、立ち上がらせた。


「ま、まって……っ」


 悠は響の焦った声を聞き入れることなく寝室まで引き連れて行く。途中、被っていた三角帽子が廊下に落ちてしまったが、悠に拾う余裕はなかった。

 この可愛い魔女を愛で倒したい。それしか頭になかった。


「まだ、明るいよ……」

「可愛い格好をした響が悪い」


 我ながら響に対してちょろいな、と悠は密かに呆れていた。


「まず俺からね――――」


 悠はワンピースの背中のファスナーに手をかけ始めた。




 いたずらの詳細は割愛するが、これだけは言える。

 いたずらをされている響も、いたずらをする響もどちらも可愛いということだ。









 夜の帳が降りた頃。

 悠は誕生日のメニュー完成させると、響を起こしに寝室へ向かう。

 中に入ると、響は相変わらず夢の中にいた。

 タガが外れて何度も響を求めてしまった。


「響、起きて」


 軽く揺さぶること数分後、ようやく響はむくりと眠そうに起き上がった。

 今の響は悠のパーカーを着ている。体を冷やさないように着せてやったものだ。

 襟ぐりから覗く鎖骨、裾から覗く細い脚が目に入った。情欲が蘇りそうになってしまう。


「ん……悠くん……」

「ご飯出来たよ」

「ん、ありがと……」

「後でケーキも食べようね」


 昨年と同じ洋菓子店で買った小さなホールケーキが冷蔵庫て眠っている。


「うん」


 完全に目を覚ましていない響はぽやぽやしている。


(背は高めなのに、小さい子みたいで可愛い)


 響を前にすると語彙が失われるのは今に始まったことではない。

 しかし、そろそろ目を覚ましてもらわないと困る。


 悠はベッドの上に上がり、後ろから響を組んだ足の上に座らせ囁いた。


「着替えさせてあげようか?」

「だ、大丈夫……っ」


 短いワンピースと化したパーカーの裾を持ち上げると、目を覚ましたのか響は悠から逃れるように身を捩り始めた。


 数時間前のいたずら・・・・で汗ばんで少しメイクが取れている。それでも響の損なわれることのない美しい容貌がある。悠は嘆息してしまいそうになった。


「リビングにいるから、ゆっくり着替えておいで?」

「うんっ」


 悠は燻る劣情を柔和な笑みで隠して、響を残して寝室を後にした。



(これはほんの序の口だよ、響)



 ハロウィンの夜はまだ始まったばかりだ。





end.

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無邪気な魔女にいたずらを 水生凜/椎名きさ @shinak103

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