第4話 闇に沈む

    一、


 七月になった。今日もぼくは都築つづき先生と〝おはなし〟をしに学校へ行く。都築先生と〝おはなし〟をするようになって、もう一ヶ月ほど経っただろうか。都築先生と過ごす時間がぼくの中学校生活に彩りを添えてくれたのだ。今は、学校が楽しい。

 中学校の夏服に袖を通す。半袖のワイシャツにスラックス姿。部屋に置いてある姿見で身嗜みだしなみを確認する。うん、もう流石に着慣れてきた。

 一階に降りて朝食を摂る。これまでのぼくの朝食の時間は親が仕事に出掛ける時間とかぶっていたので、ぼくは自分で朝食の準備をしていた。小学生の頃はぼくが親の起きる時間に合わせていた。中学に上がってからは、朝は自分で調理を任されていた。うちはIH調理器だから火の元は大丈夫だろうし、トースターの使い方くらい分かるだろうということでだ。都築先生との活動を始めてからは、小学生の頃の様に親が朝食を摂る時間と丁度噛み合うので、最近は一緒に朝食を済ませている。メニューは簡単なもので大体いつも、ベーコンエッグとトーストだ。

「いってきます」

 通学鞄を持って、外に出る。親は既に仕事に出て居ない。

 今日はまだ梅雨なのによく晴れて、朝から肌を焦がす様な日が差している。と言っても、昼過ぎから夕方頃にゲリラ豪雨があるかも知れないので折り畳み傘はしっかり鞄の中に入れている。もうすぐ、梅雨が明ける。確か、梅雨が明ける頃に降る激しい雨の事を「おく梅雨つゆ」と言うのだったか。「ゲリラ豪雨」という言い方は的を射ているのだけれど、なんだか風情が無い。

「わ、眩しい」

 つんと日光がぼくの目をくので、ぼくは目元に手でひさしを作った。

 バス停までの道のりを歩く。相変わらず早い時間なので、人通りはそれほど無い。近所のおばさんが掃き掃除をしていたので、おはようございます、と挨拶する。いつも通りの朝だと思いながら歩いていく。

 ……暑い。額には玉の様に汗が浮かび、それは身体も同じで、服の下にも滲んで広がっていくのが分かる。朝の情報番組で天気予報のキャスターが「今日の最高気温は三十七度と、猛暑日の見込みです」と言っていたのを思い出した。雨が降っていないのを見計らった様にうるさいくらいの蝉時雨が降り注ぐ。もう夏じゃないか。

 バス停に着いて、バスが来るのを待つ。ぼくの他にはスーツのジャケットを腕に掛けたサラリーマンや、学生服を着ているけれどぼくより歳上の、多分高校生のお姉さんが居た。彼らは恐らく駅の方へ向かうから、ぼくとは違うバスに乗るのだろう。

 バス待ちの間、ぼくは鞄から小説本を取り出し、そこから栞を取り出して読み始めた。『人間失格』はとっくに読んだし、『ユビキリサイクル』も読み終わって図書室に返却したので、今は『タナトスの呼び声』を読んでいる。NUBATAMAヌバタマの原作集(NUBATAMAは小説を元に音楽を書いているのだ!)に収録されている中編小説だ。もうほとんど読み終えている。

 ぼくは蝉の声をBGMに行に目を据える。後は結末を見届けるだけだ。

 ……暑くて集中出来ない。

 バス停は屋根が付いて日陰になっているのだけれど、梅雨特有の湿度もあって暑さが籠っている。屋根の無い外の焦がす様な暑さとはまた違う。ぼくは頬を伝う汗が本を濡らさないように、ぐいと手の甲で拭った。

(この暑さじゃ集中出来ないし、バスの中で読むか……)

 ぼくは栞を元あった場所に挟んで本を閉じ、手に持った。すると、丁度バスがやって来た。行き先を確認する。駅の方には行かない、学校の前を通るバスだ。ぼくは先に並んでいた人に、すみません、とひとこと告げ、列を縫ってバスに乗り込んだ。

 バスの中は外とは打って変わって少し寒いくらいに涼しかった。汗がスッと引いていくのを感じる。半袖ワイシャツでは腕が少し冷えるくらいだ。ぼくは空いている座席に座ると、改めて本を広げて読み始める。

『タナトスの呼び声』は「自殺」がテーマになった物語だった。あらすじはこうだ。

 主人公は幼い頃から〝生きること〟に対してどこか違和感を抱いていた。家族や友人には囲まれていても、何かが満たされない、虚しさを感じ続けているのだ。学校での人間関係も上手くいかず、主人公の心は次第に孤独と絶望に覆われていく。

 そんな中、主人公はインターネットを通じて同じ様に〝生きること〟に苦しんでいる人達が集まるサイト、掲示板に辿り着く。その掲示板の中で『タナトス』と名乗る人物から送られてくるメッセージが主人公にとっての唯一の救いとなる。次第に主人公はその言葉に強く引き寄せられ、彼の指示に従って「タナトスの儀式」と呼ばれるものを行うようになる。その儀式とは、例えば深夜に橋のはじをを歩くことだったり、見知らぬ場所で一人で過ごすことだったり、夜の浜辺へ行って足首まで海に浸かることだったり、少しずつ死を身近に感じさせる行為だった。この儀式を通して主人公は現実世界から遠ざかり、死への強い魅力を感じるようになっていくのだった──というものだ。

 この物語を元に書かれた『闇に沈む』という曲も、ぼくが分からなかっただけで自殺を暗喩あんゆしていたのか、と納得する。

 

 ──もう終わりだね 何もいらない

 ──このまま消える 闇に沈む

 

 ぼくは歌詞を反芻はんすうする。曲の終わりの印象的な歌詞だ。

 自殺、か。ぼくは一度も考えたことが無い。どんなにぼくの置かれた境遇が良くないものでも、そういう考えに至ったことは無いのだ。そもそも「死」という概念がピンと来ない。生きることに違和感を抱いたことも特に無かった。学校での人間関係が上手くいっていないことは、ちょっとだけ共感する。

 つい、考えさせられてしまう。「死にたい」とはどんな気持ちなのだろう。幸いと言っていいのか、親類縁者に自殺した人は居ない。誰かが精神を病んだという話も聞いたことが無い。死にたくなった時、人は本当に「何もいらない」と思ってしまうのだろうか。ふと、都築先生はどうだろう、と考えてしまう。現代の『葉蔵ようぞう』は自殺について何を思うのだろう。『人間失格』に登場した葉蔵は、脳病院──つまり今で言うところの精神病院に入って、自殺はしていないのだけれど。ぼくは少し不思議な気持ちで『タナトスの呼び声』の結末を見届けた。


    二、


「おはようございま──」

 

 ──世界はこんなに広いのに

 ──足音だけが空に溶ける

 ──あの頃の約束も

 ──風の中で砕け散っていく

 

 ぼくが木工準備室の扉を開けると、都築先生があの曲を口遊くちずさんでいた。透き通るような歌声で、ぼくは思わず、外の暑さも扉を開けた木工準備室の涼しさも忘れてその場に立ち尽くして聞き入った。都築先生って、歌が上手いんだ。初めて知った。先生はぼくに気付かないまま、ノートパソコンに向かって何か仕事をしている。「自殺」について歌う都築先生は儚い雰囲気をまとって、引き込まれてしまいそうだ。

 

 ──闇に沈む 静かに揺れる

 ──重ねた嘘が夜に溶けて

 ──もう戻れない 君のいる場所

 ──全てが消える 闇に沈む

 

 先生がワンコーラスを歌い終えたところで、拍手を送る。ぼくが聞いていたのはBメロからだったので、折角せっかくならAメロも聞きたかった。

 ぼくの拍手の音で、先生が驚いた様にこちらを振り返る。

「わ、聞いてたの。もう……居るなら居るって言ってよ」

 先生は気まずそうに肩をすくめた。ぼくはえてそれを気に留めず

「先生、歌が上手なんですね」と言ってのける。

 先生は、あー、とか、うー、とか言って何か言葉を探していたけれど、最後には

「ありがとう……。実は、歌うのも好き……なんだ」

 と、照れくさそうにぼくと視線を合わせずに言った。

「ふふ、先生ってやっぱり多趣味」僕は木工準備室に入り、扉を閉じた。

 ぼくはそこに一脚だけある生徒用の椅子に座って、床に通学鞄を置く。先生もぼくの方を向いて、ぼく達は定位置に着いた。「今日は何のおはなしをしようか」の言葉も無くぼく達はいつも通りに会話を交わす。

「聞かれてるなんて思わなかったよ、油断した……。ああ、恥ずかしい」

 先生はすごく恥ずかしそうだ。とても上手なんだから、そんなにひた隠しにすること無いのに。

「上手なのに」ぼくが、もったいない、という気持ちを込めてひとこと言えば

「特技は特技なんだけど、そういうのって隠しておきたくて……」と先生が。

 先生は小さく肩を落として、はあ、と溜息をつく。

「ぼくだってこの間、ノコギリが上手だってクラスのみんなにバレちゃったんですからおあいこですよ。むしろ、聞かれたのがぼく一人で良かったじゃないですか」

 何をそんなに恥じるのかとぼくは言う。

「恥ずかしいものは恥ずかしいの!」先生は色白の顔を少しだけ赤くしてそう言ってから「キミ、鋸引のこびきが得意なの隠しておきたかったの?」とぼくに問う。

「いや、そういう訳じゃないですけど……」ぼくはちょっと圧倒されてしまった。

 ともかく、とぼくはちょっと話を戻した。

「先生って歌が上手いですけど、カラオケとか行ったりするんですか」

 正直、あまりイメージは湧かないけれど訊いてみた。

「カラオケ? 昔は行ったけど、最近は全然」

「えっ、行ってたんですか」意外な返答にぼくは顎が外れそうになった。

「失礼しちゃう。キミ、僕の事を何だと思ってるの」先生はちょっとむくれた。

「え、意外と多趣味な人……ですかね。ギター、音楽、家具店巡り、家具作り、読書、ゲーム、後は……歌」

 ひい、ふう、みい、と数えていく。こうして数えてみると、都築先生って本当に多趣味だ。多才と言ってもいいのかな。

「僕の趣味をそこまで知ってるのは、キミくらいだよ」と先生は項垂うなだれた。

 都築先生は自分の趣味の大半を人に内緒にしている。他の生徒にも、他の先生にもだ。何がそんなに恥ずかしいのかは分からないけれど、先生は自分の趣味はあまり人に知られたくないそうだ。先生と〝おはなし〟するようになって初めて聞いた「自分の趣味を誰かに知られるのは何となく嫌」という言葉。ぼくも気持ちは分からないでもない。先生がこんなにも多趣味であることは、ぼくと先生の間での秘密なのだ。

「もう一度歌ってくださいよ」ぼくはすっかり先生の歌声のとりこだ。

「ええ、嫌だよ」先生はむず痒そうにした。

「素敵な歌声なのに。まるでセイレーン」

 歌声と言えば、でセイレーンの名を口にしてみた。

「セイレーンって、歌声で船乗りを虜にして船を沈ませる、あの?」

 先生は口元は笑っているけれど軽く目を伏せて、ふう、と溜息をつく。あまり嬉しくなさそうだ。

「えっ、そんな話があるんですか」

「知らない? セイレーンって、海に巣食う怪物で、歌声で船乗りを魅惑して船を沈めて船乗りを食べちゃうんだよ」

 知らなかった。ぼくは、へえ、と曖昧に返事することしか出来なかった。「セイレーンみたい」って、褒め言葉じゃなかったんだ。

「ギターも弾くなら、弾き語りとかしないんですか」興味本位で訊ねる。

「まあ……家でなら、しなくもない、かなあ……。本当に口遊む程度にだけど」

 ぼくはそれに惹かれてしまう。

「いつか聞かせてください」と、お願いする。

 しかし、

「いつか、ね」

 適当にはぐらかされてしまった。

 それにしても、と先生は話題を変えてしまう。

「今日は朝から暑いね。もう梅雨も終わるのかな、早いなあ」先生は外を|見やった。

 ぼくもつられて外を見る。太陽が燦々さんさんとグラウンドを照らしている。ぼくは外の暑さを思い出して汗が出そうになった。

木工準備室ここはちょっと涼しいですね」

 外よりは涼しい。教室にもクーラーは付いていて、ここと同じくらいの温度のように感じる。外よりは涼しいのだけれど……。

「もっと涼しくしないんですか。先生も暑いですよね」

 先生も暑いのか、着ている服は半袖のポロシャツに細身のクロップドパンツと夏らしい装いになっている。その上からトレードマークの紺色エプロンだ。この間まではクロップドパンツではなく、長ズボンを穿いていた。

「暑い? 少し風向き変えようか」

 先生はリモコンに手を伸ばし、スイッチを押した。冷房のひんやりした風がぼくの身体に当たる。

「ありがとうございます」ぼくは礼を言った。

「十分涼しくなったら言ってね。風向き戻すから」

「はい」

 先生は机にリモコンを置いた。

「これだけ暑いと、泳いだら気持ち良さそうだね」先生が言う。「昔のこの時期は、こんなに晴れなかったけどね。催涙雨さいるいうって感じでさ」

「さいるいう?」耳慣れない言葉にぼくは首を傾げる。

「涙をもよおす雨、って書いて催涙雨。七夕の頃に降る雨の事だよ」

 丁度今頃だね、と言いながら先生は簡単に説明してくれた。

「へえ。日本語って雨に関する表現が多いですよね」

「やっぱり、雨が多い国だからじゃないかな。キミは他にどんな言葉を知ってる?」

 先生に促され、ぼくは言う。

「送り梅雨、って言葉を最近知りました」

 へえ、と先生は感心したように言った。

「どんな意味なの?」

「梅雨の終わり頃に降る、雷を伴った激しい雨の事……らしいです。最近は、『ゲリラ豪雨』って言葉に取って替わられちゃったけど」と僕は説明した。

 先生は、ふうん、と興味深げに相槌を打つと

「夕立とも違うんだ。僕、そういう雨は全部夕立だと思ってたよ」と言う。

「夕立は夏の午後に降る激しい雨の事を言うんですよ」ぼくは得意になって言った。

 先生は、うふふ、と楽しそうに笑って

「キミは物知りだね。将来は学者さんかな」と言う。

 ぼくは、また適当な事を言って……と少し呆れてしまう。

「この前は技術の先生、その前は数学の先生。で、今度は学者ですか」

 ぼくが呆れ顔でそう言うと先生は

「選択肢がいっぱいあっていいじゃない」とのたまう。

 これはしたり、ぼくが年端としはもいかないからって。閉口してしまった。

「先生も言いましたけど」ぼくは話を戻す。「確かに泳いだら涼しそうですよね」

 学校ではこの間プール開きがあり、水泳の授業が始まったけれど、ぼくは水泳の授業には参加出来ない。その代わりに、宿題としてレポートを書いている。「水着を着て参加出来ない代わりに」と体育の松田まつだ先生と沖永おきなが先生が代わりの案を考えてくれたのだ。ぼくと同じ様に見学になった生徒も同じく課されるみたいだ。

「先生は泳いだりしないんですか」

 先生は、ええ、と考えをめぐらせ

「僕は痩せてるのがコンプレックスだから、人前で肌を晒すのは嫌だな。暑いし動きやすいから半袖を着たりしてるけど、本当はあんまり着たくない」

 先生はガリガリに痩せている。ポロシャツの袖、クロップドパンツの裾から伸びている手足は枯れ木の様で、強く握ったら折れてしまいそうなほど細い。先生は一時期、何を食べても砂の味がしてしまうという状態に陥ったそうで、食について良い思い出が無いらしく食べることが苦手で、普段からあまり食べないのだ。だから痩せているのだろう。

「そうですか。ぼくと一緒ですね」

 ぼくは先生ほど痩せてはいないけれど、肌を見せるのは嫌なのでこう言う。先生は難しい顔になりながらも

「だね」

 と言ってくれた。

「先生、やっぱり『闇に沈む』、もう一度歌ってくださいよ」ぼくはねだる。

「ええ、なんでよ」先生は渋る。

「だって、」ぼくは顔が熱くなるのを感じた。「先生が歌う『闇に沈む』は、雰囲気があるから」

 先生は、ふっ、と笑って

「そんなに?」と困った顔でぼくを見る。

 ぼくはこくこくと頷いた。ぜひ歌ってほしい。

「NUBATAMAには劣るけど」先生はためらって言う。

 そんな事ない、と首を振る。

「しょうがないな。一番だけだよ。キミだけだからね、聞かせるの」

 ぼくは、それでもいい、と頷いた。やった、と内心ガッツポーズをする。先生は息を二、三拍整えると囁く様な声で歌った。


 ──沈む、沈む、夜の向こうへ

 ──逃げた光は遠く霞んで

 ──追いかけても君は見えない

 ──全てが消える 闇に沈む


 ──沈む夕日が今日も滲んで

 ──触れた記憶はすべてが遠く

 ──何度も繰り返したあの声

 ──もう届かない 闇の中で


 ──世界はこんなに広いのに

 ──足音だけが空に溶ける

 ──あの頃の約束も

 ──風の中で砕け散っていく


 ──闇に沈む 静かに揺れる

 ──重ねた嘘が夜に溶けて

 ──もう戻れない 君のいる場所

 ──全てが消える 闇に沈む


 ──夜風がそっと髪を撫でる

 ──心の奥に 冷たい海が

 ──すべてを飲み込んでいく


 ──闇に沈む 最後の祈り

 ──響かない声 誰もいない

 ──もう終わりだね 何もいらない

 ──このまま消える 闇に沈む


「Cメロと大サビはサービスね」

 歌い終えた先生が言う。ぼくは拍手を送った。

 その時、ガタンッと何かを倒す様な音が準備室の外から聞こえた。先生はぼくに向かって口元に人差し指を立てると「キミは奥に隠れて」と小声で言って椅子から立ち上がった。言われた通り、ぼくは先生が居た所、準備室の奥に隠れると先生は勢いよく外開きの扉を開けた。

安住あずみ先生、そこで何してるんですか。盗み聞きとはいいご趣味ですね」

 扉の外にはA組の副担任の安住先生が居たらしい。都築先生の声には怒気が籠っていた。ぼくはそんな都築先生の声を聞いたことが無かったから、少し怖かった。位置的に顔は見えないけれど、きっと顔も怒っているのだろう。

「都築先生──、──て、なんてふしだらなんですか!」

 一部は早口すぎて聞き取れなかったけれど、安住先生の感情的ヒステリックで甲高い声が聞こえてくる。「ふしだら」という言葉を殊更ことさら強調していたように思う。ぼくと都築先生はそんな関係じゃないのに。

「僕は別にそんなつもり無いですけどね。ましてや男子生徒ですし。その様な思考に至る安住先生の方が、余程ふしだらなんじゃないですか」

 都築先生がバッサリと安住先生のげんを切り捨てる。ぼくは、もっとやってやれ! という気持ちになった。と言うのも、ぼくは安住先生の事があまり好きでないのだ。彼女は国語の先生なのだけれど、授業は詰め込みすぎて分かりにくいし、質問させてくれる雰囲気の授業でもないし、特に私語や居眠りが多いと授業を止めてまで感情的になって怒るところが一番苦手だ。

 準備室の奥から、ちらと安住先生の顔を覗き見る。都築先生に言い伏せられた安住先生は、顔を真っ赤にして今にも「キィー!」という金切声かなきりごえを上げそうな顔になって、都築先生に背を向けつかつかと足早に木工室を後にした。その背中からは「覚えてなさいよ」という言葉が受け取れた。

 都築先生は扉を閉めると「もう出て来ていいよ」と言ってぼくに微笑んだ。相変わらず、切り替えの早い人だ。

「ぼく達の活動、バレたんですか」

 ぼくは心配になる。都築先生との〝おはなし〟は誰にも内緒で始めた活動だから、誰かにバレてしまっては困るとぼくは思ったのだ。

「大丈夫、キミの事はバレてないよ。安住先生が言ってたのは『密室に生徒を連れ込んで』って事だから」先生は眉尻を下げて笑う。

 良かった、とひとまずぼくは胸を撫で下ろした。

「人の事ふしだら、ふしだらって言うけど、生徒を密室に連れ込んだ、イコール淫行いんこう教師って言う安住先生の方がよっぽどふしだらだよね」

 先生はおかしそうに笑う。「僕達、男同士なのにね」と。ぼくもつられて笑いだしてしまった。

「とどの詰まり、更年期なんだよ。あのヒスババア」

 都築先生は吐き捨てるように言った。「ヒスババア」は多少言い過ぎな気もするけれど、その通りなので、ぼくも笑って聞くことが出来た。

「女の人の更年期って、ああなるものなんですか」ぼくは訊ねる。

「まあ、イライラしたり気分の浮き沈みがあるとはよく聞くね。女性じゃないから詳しくは知らないけど」

 確かに、都築先生は男性だ。ぼくは何を訊いてしまったのだろう。

「ああやって色んな事に目くじら立ててる様子を『更年期』って揶揄やゆしてるだけだから、絶対に安住先生に向かって『更年期ですか』とか言っちゃダメだからね」

 先生はこう釘を刺すけれど。

「言わないですよ。失礼なことくらい分かります」

 やがて、八時二十五分の予鈴よれいが鳴る。

「いけない、もうこんな時間」先生は飛び上がった。

「じゃあ、ぼくは教室に行きますね」通学鞄を持ち上げて、椅子から立った。

 先生の方を振り返り、

「また、放課後に」と手を振る。

「うん、またね」先生も笑顔で応えてくれた。

 教室に向かう途中で、あ、と思い出す。思わぬハプニングがあったものだから『闇に沈む』のテーマとなった「自殺」について、現代の葉蔵こと都築先生はどう思っているのかを訊くのを忘れてしまったな、と。

(ま、放課後でいいか)

 改めて、教室に向かう足を進めた。


    三、


 給食の後の休み時間の事だ。ぼくは本を読んでいた手を止め、千葉ちばの席に近付く。

「ち、千葉!」

 都築先生に向かって「今度訊いてみる」と決意したものの、今まで散々うじうじ過ごしてきた。だけど、ぼくはほんの少しだけ勇気を出してみることにした。

「何だよ」

 クラスのお調子者にして人気者、千葉悠真ゆうまは軽やかに返事をした。千葉の席には千葉と一緒に、二人の男子生徒──伊藤いとうつかさ三枝さえぐさ由良ゆらが居た。彼らもぼくを見る。

 伊藤はぼくに『ユビキリサイクル』を勧めてきたヤツだ。「読んだら感想聞かせて」と言っていたので読了後に感想をきちんと伝えたけれど、伊藤はぼくにそう言ったのを忘れていたようだった。でも、ぼくの感想を快く聞いてくれて、伊藤も読書好きということが分かって最近は読書仲間になりつつある。三枝は入学式の後の自己紹介でも言っていたくらいゲームが好きなヤツで、ぼくよりは都築先生と話が合いそうなのだけれど、先生はゲームが趣味なのを秘密にしているからなあ、と距離が測りづらかった印象がある。まあ、話す機会そのものが無かったのは別として。この間の技術の時間で鋸引きを教えた時に、意外と話しやすいヤツなんだ、と認識が改まった。この人気者の千葉を筆頭とした、伊藤、三枝の三人は(面白さという意味で)クラスの中心的存在だ。

 閑話休題、ぼくは入学式の日からずっと千葉の明るさに惹かれて、彼と仲良くなりたかったのだ。だからぼくは、少しだけ勇気を出してみる。

「あのさ、千葉って音楽……聴く?」

 会話下手なぼくは、単にNUBATAMAの話をしたいだけなのに妙に回りくどい訊き方をしてしまった。

「うん、聴く。誰好き?」

 千葉は、ぼくの言いたい事を汲み取ってくれたかの様に話に乗ってくれた。

「ぼく、NUBATAMAが好きで……最近よく聴いてる。千葉は?」

 横で聞いていた伊藤が「NUBATAMA!」と声を上げた。

「俺、NUBATAMAだったら『文明開花』が好き」と伊藤が。

「オレはアサシカの方が好きだな」三枝も言った。

 千葉は……。

「俺もNUBATAMA聴く! 『紺碧こんぺき』とかすげー好き」

「本当に⁉︎」

 ぼくは千葉と共通の話題があって、舞い上がりそうなほど嬉しかった。

「ぼく、『紺碧』はまだ聴いたことないや。ずっと『闇に沈む』ばっかり聴いてた。伊藤の言った『文明開花』もまだ……」まだ知らぬ曲にぼくは食指が動いた。

「『闇に沈む』もいいよな」と千葉が言うので、ぼくは

「うん! すごく好き」と言った。

 思わず自分の解釈を披露しそうになったけれど、いきなりべらべら喋っては引かれてしまうと思って口をつぐんだ。

「『紺碧』も『文明開花』もマジでいいから、聴いてみ」伊藤が言う。

 ぼくは、うん、と頷く。どちらも早く聴いてみたい。

「『紺碧』って確か、『ブルーコンマ』のオープニングだったよな」

 三枝が言った。知らない言葉づくしだ。

「『ブルーコンマ』?」ぼくは素直に訊ねる。

「うん、美術がテーマの漫画」千葉が答えた。「前にアニメ化されたんだけど、その時のオープニングテーマが『紺碧』だったんだよ。だから『紺碧』の原作は『ブルーコンマ』」

 千葉と美術……今ひとつ結びつかない。

「千葉って、えっと……その、」

 つい伊藤に目配せしてしまう。上手く言葉が紡げない。

「ユーマは漫画好きだもんな」

 伊藤が橋渡しをしてくれようとしたのだけれど、ぼくの訊きたかった事とは全く違ったので、思わず「そうじゃなくて!」と声を張ってしまった。

 三人の視線がぼくに集まる。クラス内で立場の弱いぼくは白旗を上げそうになる。声を絞り出すようにぼくは訊ねた。

「千葉って、美術……好き、なの?」

 ぼくの言葉に千葉と三枝は、

「テンちゃん、全然ちげーじゃん!」とげらげら笑った。

「え、俺がやらかしたの?」伊藤は不可解そうな顔をした。

 三枝が言うには、

「ユーマ、好きな教科は美術なんだぜ。部活も美術部」とのことだ。

 そうなんだ。仲良くなりたいと思っている割に、ぼくは千葉の事をよく知らない。

「えっと……どんな作品を描くの?」

 すると千葉は歴史の教科書を机の中から取り出して、「ここ、見てて」とページの端を指した。

 千葉が教科書の頁を指で弾く様にめくっていくと、絵が動いた。所謂いわゆる、パラパラ漫画というやつだ。棒人間がコミカルに起承転結を紡いでいた。

「わあ、すごい。これ、千葉が?」

 ぼくが感心と共に訊ねると、千葉は大きく頷く。

「俺、将来は漫画家になるんだ」と言って胸を張った。

「読者一号、に……なりたい、な。ダメ?」

 自然と口からこぼれた言葉だったけれど、なんて厚顔無恥な事を言ってしまったのだ、と悔いる。だけど、千葉は気にしていない様子で「いいよ」と頷いた。

「漫画も本ってことで、どっちが読者一号になれるか競争しないか」

 伊藤が提案する。ぼくの読書仲間らしい(と言っては烏滸おこがましいかも知れないけれど)事を言った。

「ええ、そんなの絶対に伊藤の方が有利じゃん。ぼく、漫画はあまり読まないんだし」ぼくは声を尖らせた。

「まず、本当になれるかだよなー」三枝は現実的だった。

 彼の言う通り、千葉はまだ漫画家ではない。

「なれるって信じようぜ」伊藤は言う。ぼくもその横で力強く頷いた。

 三枝はぼくと伊藤の熱意に気圧けおされながらも

「そういやオマエって、いつからテンちゃんと仲良くなったんだよ」

 と言った。そういえば、伊藤個人とは同じ本好きという距離感で付き合っているけれど、千葉・伊藤・三枝が集まったところにぼくなんかが混ざるのは今まで有り得なかったことだ。ぼくがもごもごとしていると、

「ああ、俺らは『ユビキリサイクル』がきっかけで話すようになった」

 伊藤がさらっと言った。「読書仲間って感じかな」と付け足す。伊藤公認でぼく達は読書仲間という事になった! それはそれで嬉しい。

「テンちゃん、本好きだもんな。オマエもなの?」

 三枝はぼくと出席番号が離れているし、席替えをした後も席は近くならなかったので、クラスで一番目立たないぼくのことなんか知らないのが当たり前だと思う。

「コイツ、ずっと本にかじり付いてるくらいの本好きだぜ」

 千葉が三枝にぼくを紹介してくれる。覚えていてくれて嬉しい。

「席替えする前まで読んでた本、何だっけ」

 千葉に訊ねられる。確か、席替えをしたのが中間テストの後くらいだから……。

「あ、えっと……多分、『人間失格』かな。太宰治の」

 ぼくは言葉につかえながらも答えた。

「げーっ! 太宰治って文豪のだろ? オマエ、もうそんなの読んでんのかよ」

 三枝はこう言うけれど、決して否定的な意味合いではなく彼なりに褒めているのだろうことがうかがえた。

「俺もさ、この前こいつが給食の時間に読んでたから気になって、帰ってから調べたんだけど大正時代? の話っぽかったわ。いつかは読みたいしネタバレ踏むのは嫌だから、ネタバレ無しのあらすじしか調べてないけど」

 伊藤の言にぼくを除いた一同は、へえー、と間延びした相槌を打った。自分の好きな作家が話題に挙がっていると、自分事ではないのに何だか気恥ずかしい。

 ふと、時計に目を遣る。もうすぐ休み時間が終わってしまう。

「あのさ、伊藤」ぼくが伊藤の名を呼ぶと

「テンちゃん、でいいよ」と返ってきた。

 ぼくは突然の申し出にあたふたしてしまった。

「あ、ありがとう。それじゃあ……テンちゃん」

 ぼくは改めて伊藤──テンちゃんを呼ぶ。

「なに?」

「NUBATAMAの原作集、読んだ?」

 テンちゃんにはこれが訊きたかった。

「ううん、まだ」

 まだ、という事はこれから読むのかも知れない。

「『タナトスの呼び声』……良かったから、テンちゃんも……その、読んでみて。『闇に沈む』の原作」ぼくは人に何かを勧めるのが下手だ。

「もし! 読んだら……感想、聞かせて」

 ぼくはそう言い残して自分の席へ戻った。よく考えたら、テンちゃんはぼくの後ろの席なのだから、別に今言わなくても良かったかも知れない。それほどに、ぼくは緊張してしまっていた。


    四、


 一日の授業を終えて、ぼくはこっそりと教室を抜け出し人目を気にしつつ木工室へ向かった。木工室の重たい扉を開けると、やはり木材の匂いでいっぱいだ。静かに扉を閉め、奥にある準備室へ向かった。

 こんこん、と軽くノックする。

「都築先生、ぼくです」と一声掛けると

「開いてるから入って」と扉の内側から籠った声が聞こえた。

 ぼくは扉を開けて中に入る。先生は……机に向かって何か書いていた。

「先生、仕事ですか」

 ぼくはそう訊ねながら、いつもの椅子に座って鞄を床に置いた。

「そう。今週末に配る学年だより。もう少しでキリ良くなるから、ちょっと待っててくれる?」

 毎週末、都築先生はぼく達の親に向けて、ぼく達一年生についてまとめた記事を書いて学年全体に配ってくれる。ぼくは先生の書く、女の子が書いたみたいな丸っこい文字が好きで、別に自分に向けて書かれていなくても毎週読んでいる。

 少しの間、沈黙が流れる。ペンが不規則にカリカリと紙を引っ掻く音だけがこの空間に響く。先生とぼくが同じ空間に居ながら何も言葉を交わさないのが、何となく居心地が悪く、沈黙を破ってしまう。

「今は何を書いてるんですか」出来るだけ邪魔にならない様に声を掛ける。

 先生は机から少し顔を上げると、ええとね、と少し間があってから

「もうすぐ期末試験でしょ。だからその間、部活は休みになりますよ、とかかな。キミも試験勉強はちゃんとするんだよ」

 と机に向き直りぼくに背を向けたまま答えた。

 試験勉強、という言葉にギクリとする。主要な教科の内、英語と理科は自信が無いのだ。英語は難しいし、理科はよく授業が脇道に逸れるしで勉強が進まない。

「テスト勉強、ここでしちゃダメですか」

 ぼくは都築先生が教えてくれるなら分からない箇所も分かりそうな気がして、猫撫で声でお願いしてみた。

「だーめ。試験期間は居残りしちゃダメなんだから、当然おはなしも無しだよ」

 先生はあっさりと言った。是非も無し、か。

 また、ぼく達の間に沈黙が満たされる。ペンが紙を引っ掻く音は止まない。先生は仕事中なのだから邪魔してはいけない、という思いと、早く先生とおはなしをしたい、という思いでいっぱいになって溺れてしまいそうだ。先生はもう少し、と言いつつもその「もう少し」が永遠の様な時間に感じられて、ぼくは本でも読んで気を紛らわそうかと思った。

 鞄の中に手を伸ばそうとした時、

「よし、後は帰ってからやろう」

 という先生のひとことと共にペンを置く音が聞こえた。ぼくは鞄から手を引っ込めて姿勢を正す。

「お茶、用意するね」と先生は言って、机の下から二リットルペットボトルの麦茶を取り出した。揃いのマグに注いでくれる。

 そして、椅子ごとぼくの方を向くとマグの片割れを渡してくれた。流石に木工準備室に冷凍庫は無いので、氷は浮かんでおらず、常温だ。

「ありがとうございます」ぼくはマグを受け取る。

「いつも通り、お茶菓子もどうぞ」

 先生は木で出来た浅いボウルをぼく達の間にある、机代わりにしている椅子の上に置いた。これは先生のお手製ではないと言っていた。中にはクッキー、おせんべい、もなかなどが入っている。喉に詰まったりしたら危ないから、という理由からキャンディは入っていない。

「さて、今日は何のおはなしをしようか」

 先生のひとことで放課後のおはなしは始まった。ぼくは今朝からずっと訊こうと思っていたことがある。「自殺」についてだ。センシティブな話題なので、マグを持つ手に力が籠る。

「あ、あの!」ぼくは意を決して声を上げた。緊張で声は上擦ってしまっていた。

 一呼吸置いて、気持ちを落ち着ける。

「先生は、『死にたい』と思ったことはありますか」

 空気がぴりりとする。先生も穏やかな笑顔から一変して真剣な面持ちになった。

「キミ、……そんなに思い詰めてたの」

 これじゃまるで、ぼくが自殺を考えているみたいだ。ぼくは慌てて否定する。

「違います! そうじゃなくて……」

 俯きがちになって上目遣いで先生を見る。先生は未だ剣呑けんのんな顔つきだ。

「NUBATAMAの『闇に沈む』は『自殺』がテーマの曲だったので……。ぼくは『死ぬ』って概念自体ピンと来ないから、先生はどうなんだろうって思って……」

 ぼくが事情を説明すると

「びっ」と先生は声を出して少し溜めてから「くりしたぁ……」と安堵の声を大きな溜息と共に吐き出した。

「てっきり、自殺を考えるほど何か思い詰めてるのかと思ったよ。良かった、そういう事じゃなくて」

 ころころといつもの調子で笑って先生は言う。ぼくの言葉足らずであらぬ誤解を与えてしまった、と反省する。

「死にたい、か」

 先生は何かを思い出す時そうするように、どこか明後日の方へ視線をやった。

「……うん、あるよ。『死にたい』って思ったこと」

 ぼくは、どきりとする。

「それって、どんな気持ち……なんですか」

 先生はアンニュイな顔になると「昔話を聞いてくれるかな」と言う。ぼくがゆっくり頷くと、先生はくうを仰ぎながら話し始める。

「未来に対して、何も展望が持てなかったことがあるんだ。自分は無力で、無能で、役立たずで、ただ呼吸をして存在していることすらこの世の全ての人に対して申し訳無いと思ってた。ふとした瞬間、事故にでも遭って死んでしまっても構わない……ってね」

 ぼくは黙って、可能な限り感情を殺して聞くことしか出来なかった。多分、先生は同情など欲していないのだから。そう考えるのは、以前似た様な話題になった時にぼくが同情する素振りを見せた瞬間、先生から凍てつく視線で見られてしまったからだ。先生は目を伏せて続ける。

「僕には勇気って言うか、思い切りが無いから実際に自殺を企てたことはないんだけど、死に方はいっぱい調べた。それで、人間って簡単に死ねるんだって知識では知った。とにかく昔から生きることに対して執着が薄いんだよね。この前、『もし明日僕が死んでも』って話をしたでしょう。あれも半分くらいは本心なんだ。キミが引き留めてくれたから、まだ生きていようかなって思えたけど。ありがとう」

 やにわに礼など言われてしまって、ぼくは困惑する。先生は更に続けた。

「僕ね、身内が一人、自殺してるんだ」

 そのひとことで、ぼくの心臓は跳ね上がる。

「僕、その当時は幼かったから詳しくは知らされてないんだけど、僕みたいに生きるのがたまらなく辛くなっちゃって、服毒したらしいんだ。いっそ僕も彼みたいに思い切りがあったら死ねたのかな、って昔は思ってた」

 先生はそこまで言うと、細く息を吐き出した。

「僕の昔話はこんな感じかな」先生は切なく微笑む。

 こんな話を聞かされてしまって、ぼくはどうしようかと思った。ただ、何か点と点が繋がりそうな気がして訊ねる。

「あの、何て言うか……それって、先生が食事が嫌いになったり、今も続けてるゲームをやってた時期と重なりますか」

「うん、そうだよ」先生は薄笑いを浮かべていた。目元は、悲しそうだった。

「その頃の先生って、何があったんですか」

 図々しくも訊ねた。何があってそうなってしまったのだろう。興味本位と言えば嘘になる。先生の事をもっと知りたかった。

 先生は押し黙る。ややあって

「……ごめん。今はまだ話せない。いつかはきちんと話すから、待ってて」

 そう、憂鬱そうに言った。そして神経質に唇を爪で引っ掻く。そう言われてしまっては「はい」としか言えなかった。

 このまま音楽の話をするのははばかられたけれど、話を始めたのはぼくなので責任を取るつもりで問い掛ける。

「その……『闇に沈む』の話に戻るんですけど、『死にたい』って思ってた時は『何もいらない』って思ったんですか」

 先生は、そうだなあ、と考えを廻らせると

「うん、要約するとそうかも知れない。『もう他に何も望まないから、ただ死だけ欲しい』とか『生まれた事実さえもいらない、消えて無くなってしまいたい』みたいな感じかな。どちらかと言えば後者の方が『死にたい』の感情には籠ってるかもね」

 と穏やかな顔でぼくに聞かせてくれた。

「『死ぬ』って何なんでしょうね」

 ぼくはそう言うとお茶を口に含んだ。緊張で口の中がカラカラになってしまった。

「ね、何だろう。僕も昔は漠然と死に憧れてたけど、分からないままだよ」

 先生はあっけらかんと言った。更には

「生きてる間は死を哲学して、死ぬ間際は生を哲学するんじゃないかな。人間って多分、そういう生き物だと思う」

 とも言う。十二年しか生きていないぼくには、難しくてよく分からなかった。

「キミは『闇に沈む』の歌詞を読んで、何を思ったの」

 ところで、といった感じで先生もお茶を口に含む。

 ぼくは、ううん、と考え込む。

「孤独……と、絶望……それから、闇──死という大きな波に呑まれる感じ、ですかね。上手く表現出来ないんですけど」

 正鵠せいこくを射た返答は出来なかった。

「国語の授業じゃないんだから、自由に考えていいんだよ」

 と先生はアドバイスをくれる。そうだ、ぼくの解釈を伝えればいいのだからそこに正解は無いのだった。

「じゃあ、そうですね、ぼくのイメージとしては……独り、夜の海辺で水面みなもに映った月を掴もうとする感じ……かな。掴もうとしても、手から零れ落ちちゃうじゃないですか。そういう虚しさみたいなものを感じました」

 先生は優しい顔になって「素敵な解釈だね」と言った。

「そう言う先生はどう感じたんですか」

 先生は「僕?」と言いたげな目をして、んー、と声を漏らした。

 すると思いがけず


 ──闇に沈む 止まらぬ涙

 ──何度も願った 目を閉じて

 ──もういらないよ、光なんてさ

 ──このまま消える 闇に沈む


 と『闇に沈む』の二番のサビを歌った。

「ここなんだよね、僕が一番印象に残ってるの。目の前にある筈のものに対して目を閉じて、拒絶する感じ。ああ、『死にたい』ってこういう事だな、って思う」

 思い半ばに過ぎる、といった感じで言う先生だったけれど、ぼくはそれよりも、歌声を披露することをあんなに恥ずかしがっていた先生が自ら歌い出したことに吃驚びっくりしてしまった。

「え、先生、なんで……歌って……」

 それは疑問の形を取って口から零れだす。

「キミには歌声聞かれちゃったから。もう恥ずかしがること無いかな、って」

 先生は、ふふ、と愉快そうに目に弧を描いた。ころころと笑いながら

「どう? 僕の解釈は」とぼくに訊ねる。

「え? ええと……本当に『死にたい』って思ったことのある人の言う事は、含蓄がんちくがあるな、と……」

 ああ、とても答えづらい!

「ごめん、ごめん。答えづらいか。僕は『死』を考えた側の人間だものね」

 先生は眉尻を下げてころころ笑う。笑い事ではないだろうに。まなじりに刻まれた皺が際立った。

「僕に訊きたかったのはそれだけ?」

 先生がそう言って話題を変えようとするので、ぼくは最後に思い切って訊いてみることにした。

「先生は『自殺』って、どう思いますか」

 ごくりと唾を飲み込む。先生は、そうだなあ、とちょっとだけ上を向くとぼくの方をしっかり見て

「与えられた全ての選択肢に背を向けて逃げ出す行為、かな」

 ぼくがいつか、変な気を起こさないようにだろうか。力強い言葉だった。

「絶望とは一種の麻酔だ」落ち着いた声で先生は言う。

 ぼくが何だろう、と先生を窺うと続けた。

「絶望は心を無関心へとなだめ落ち着けるのだ──ってね。どうにかしようとすれば幾らでもやりようはあるのに、それにすらも背を向けるのが『自殺』っていう行為だと思う。自殺を卑怯な手段とまでは言わないけど、『助けて』って言えば案外助けてもらえるものだよ。渡る世間に鬼はなし、って言うでしょ」

 先生はそう言うとお茶を飲んだ。渡る世間に鬼はなし、か。確かに、ぼくは色々な人に助けてもらって生きている。感謝して生きるのが筋というものだろう。

「死ぬことと同じくらい避けては通れないことって、何だと思う?」

 先生はそうぼくに問い掛けると机にマグを置いて、個包装のもなかの包装を剥き始めた。先生がもなかを食べている間がシンキングタイムということだろうか。死と同じくらい避けて通れないこと……何だろう。死ぬまでに体験すること、年月の流れ、時代の変遷へんせん……これは奇をてらいすぎだろうか。

「うーん……あ、もしかして『歳を取ること』ですか」

 ぼくが答えると、先生はお茶でもなかを流し込み、口元を手で覆い隠しながら「惜しい!」と言った。

「違うんですか」

 先生は、ううん、と少し唸ると言った。

「それも間違いではないんだけどね。答えは、『生きること』」

「とんちですか」

 ぼくがちょっと膨れると先生は

「チャップリンの引用だよ」

 と、ころころ笑った。現代の葉蔵は自殺について否定的なようだ。そして「さて」とひとことあってから

「今日あった事、聞かせてよ」と言う。

 今日……はて、何があっただろうか。……あっ!

「そうだ、聞いてください!」ぼくは一気に有頂天になる。

「逃げないから、落ち着いて。何があったの」先生は、どうどう、とぼくを宥める。

 ぼくは今日、千葉と会話したのだ。有頂天にならずに居られるものか。

「この前『千葉に訊いてみる』って言ったのをずっと勇気が出なくて先延ばしにしてたんですけど、今日、やっと千葉と話して、」

 先生は、うん、と相槌を打ってくれる。

「千葉もNUBATAMAが好きだって、言ってました……!」

 かぁっと顔が熱くなるのを感じる。ぼくは大きな一歩を踏み出したのだ。

「本当に。良かったじゃない、共通の話題があるって分かって。千葉くんは何の曲が好きだって?」

 先生まで嬉しそうに微笑みかけてくれる。ぼくは喜びを分かち合うように言った。

「あ、はい。千葉は『紺碧』って曲が好きだって……ぼくはまだ、聴いたこと無いんですけど。なんか、美術がテーマの漫画? を元に書かれた曲みたいです。アニメのオープニングテーマだとかで」

 先生は、へえ、とぼくに調子を合わせると

「千葉くん、美術に興味あるんだ。知らなかったよ。美術の早乙女さおとめ先生、口が堅いからそういう事全然教えてくれなくって」と零した。

「将来は漫画家になるって言ってました。パラパラ漫画も見せてもらいました」

 ぼくは自分の事でもないのに誇らしかった。

「漫画家! いいなあ、もし千葉くんが漫画家になったら僕も読者になろうかな」

 先生は軽い調子で言った。あまり深い意味は無いのかも知れない。だけど、

「読者一号はぼくですからね」

 負けられない、とぼくは意気込む。先生は困った様に笑って

「それくらい譲るよ」と言った。

「ぼく、今はアームストロング船長みたいな気分です」

 と言ってまではしゃいでしまう。

「アポロ十一号の?」先生はきょとんとする。通じてはいるみたいだ。

「はい。他の人にとってはほんの小さな一歩かも知れないけど、ぼくにとっては大きな躍進だったんです」

 ニール・アームストロングの言葉をもじって伝えた。

「ふふ、確かにそうかも知れないね。仲良くなれるといいね」

 はた、と燥いでいた気持ちが一瞬にして不安に塗り替えられる。

「今日、昼休みに千葉とテンちゃんと三枝が一緒に居るところに話し掛けに行ったんですけど、邪魔じゃなかったかな……。三人でひとつのグループって感じだから」

 先生は呆気に取られた顔でぼくを見る。

「テンちゃんって、伊藤くんの事?」

 先生は伊藤がクラスメイトから「テンちゃん」と呼ばれていること自体は知っているみたいだ。だけど、ぼくとテンちゃんの間に起きた事を先生は知らない。ぼくはそこを説明する必要があった。

「あ、はい。今日、テンちゃんから『テンちゃんって呼んで』って言われたから」

「いつの間に伊藤くんとそんなに仲良くなったの」

 先生の疑問ももっともだ。

「前に『ユビキリサイクル』の話したじゃないですか」

 ぼくが言えば先生は、うん、と頷く。

「それがきっかけで、テンちゃんも同じ本好きだって分かって……。それからちょっとずつ話すようになりました。ぼくの読んでる本は難しいから、テンちゃんのお勧めを聞くばっかりですけど」

 先生は合点がいった様に、ああ、と声を上げて

「それで今日になって『テンちゃんって呼んで』って言われた訳か。席も近いもんね。真後ろだっけ」

 テンちゃんの席は僕の真後ろだ。ぼくは、うん、と頷く。

「で、だ。千葉くん、伊藤くん、三枝くんの三人の中に飛び込んで邪魔じゃなかったかって?」先生は肩を竦める。

 ぼくはしゅんと縮こまって頷いた。

「邪魔って言われたの?」

「言われてはないですけど……雰囲気ってあるじゃないですか」

 ぼくは昼休みの事を思い返す。先生は更に問う。

「じゃあ、邪魔だなって思われてたと思うの?」

 そうは感じなかったので、ううん、と首を振る。でも、と訴える。

「千葉って人気者だから、対等に渡り合えるテンちゃんや三枝に比べたらぼくなんて……」

 ぼくは俯いてしまう。マグに半分ほど残った麦茶に、ぼくの顔が映る。思い悩むぼくの顔はとても冷たい目をしていた。

「とりあえずさ、伊藤くんと仲良くなれたならそれでいいじゃない」

 先生は事も無げに言った。え? とぼくが目を点にして

「先生って、ぼくが千葉と仲良くなれるよう応援してくれてるんじゃないんですか」

 と質すと

「それはそうなんだけど、クラスに馴染むって意味では誰かと仲良くなれたならそれはそれでいい事なんじゃないかな、って。違う?」と返ってきた。

「違わないですけど……」ぼくはなんだか釈然としなかった。

 先生は「いい?」と前置きすると

「現状に満足出来ないようじゃ、次のステップには進めないよ。まずは伊藤くんと仲良くなれたことを喜ばなきゃ。伊藤くんにも失礼だよ」と言う。

 テンちゃんに失礼、か。確かにそれもそうだ。クラスで一番目立たないぼくに最初に構ってくれたのは千葉だったけれど、テンちゃんだってぼくに構ってくれた一人なのは確かだ。それを言えば三枝だってそうだ。理想を言えば千葉と仲良くなりたいけれど、最低限あの三人の中に入れればそれでもいい。

「確かに……ぼく、テンちゃんを差し置いて千葉と仲良くなりたいだなんて、テンちゃんにすごく失礼な事言ってましたね」

 先生は「よろしい」とでも言いたげな顔で頷いた。そして

「最終目標はクラスに馴染むこと。これは大丈夫?」と訊いてくる。

「全員と仲良くならなきゃダメですか」ぼくは渋い顔をしてしまった。

 先生は、いいや、と首を振って

「そんな大仰おおぎょうに構えなくていいよ。クラスメイトと挨拶が出来ればいいと思う」

 と答えた。それなら、とぼくは承諾する。

「その為に、仲良くしたい子には積極的に話し掛けよう。まずは伊藤くんがクリア」

 先生の言にぼくは、うん、と頷く。大丈夫だ。

「伊藤くんは、千葉くんと三枝くんとよく一緒にいるんだよね」

「多分……。あの三人がクラスの面白トリオだから」

 不意に先生は、あっはは、と笑って

「『面白トリオ』か、上手い事言うね。僕、やっぱりキミのセンスが好きだよ」

 と言う。どうも、ぼくの言葉は先生の琴線に触れるらしい。

「じゃあさ、キミも加わって『面白カルテット』にならない?」

 ぼくはぎょっとして先生を見る。

「無理です! ぼく、何も面白い事言えないです!」

 ぼくにはギャグのセンスなんて無いのだ。

「そう? 僕はキミの事、面白いと思うけどな」

 先生は楽しそうに目に弧を描いて言う。

「先生が面白いと思ってても教室でウケるかは別です! それに、目立つのは……何か、違うと言うか……」

 ぼくは別に目立ちたい訳ではない。

「目立てなんてひとことも言ってないよ。千葉くん、伊藤くん、三枝くんの三人にウケればいいじゃない」

 と言って先生は悪戯っぽく、ぼくに笑い掛ける。

「伊藤くんと仲良くなれたキミなら、三枝くんとも千葉くんとも仲良くなれると思うけどなあ」

「……」

 わざとらしく大袈裟に言う先生にぼくはたじたじになってしまって、黙って机代わりになっている椅子の上にマグを置くと、個包装のクッキーを開けて口に運んだ。

「あれ、怒っちゃった?」先生は目を丸くして言う。

べふにべつにおふぉっへないえふ怒ってないです

 行儀は悪いけれど、クッキーを齧りながら答える。飲み下して、

「三枝、ゲームが好きらしいじゃないですか。先生、話し掛けてみたらどうです」

 と、言ってやる。先生は目を白黒させると

「言えないって! 僕、ゲームが好きなことは内緒にしてるって言ったよね⁉︎」

 と慌てだす。仕返しだ。

「でもさ、」先生が言う。「本丸の千葉くんと仲良くなりたいんだったら、やっぱり伊藤くん……とは仲良くなったから、三枝くんとも話してみたらどう?」

 ぼくは、ううん、と唸ってしまう。

「ぼく、ゲームはやらないし、三枝はNUBATAMAよりアサシカの方が好きって言ってたし……」

 打つ手無し、とぼくが肩を落とすと

「キミもアサシカを聴いてみたらいいだけの事じゃない」と飛んでくる。

「それはそうなんですけど……」

 未知のものに何でもかんでも興味が湧く訳ではないのだ。

「キミ、NUBATAMA以外は誰の曲聴くの。前に話してくれた……誰だっけ」

 ぼくが一ヶ月くらい前、歌番組を観て心を揺さぶられたアーティストの事を言っていることが分かった。

しいな裕美子ゆみこですか」

「あ、そうそう。そっちも聴くんじゃないの」

 先生のくりっとした目に見られてぼくはしどろもどろになる。

「聴きますけど……クラスで好きって人、聞いたこと無い」

 先生は、はあ、と溜息をつくと

「それはキミがクラスの事情に疎いからでしょ」と言った。

 それを言ってはお終いだろう。実際、その通りなのだけれど。

「まあでも、粃裕美子ってマイナーな方だとは思うけどね。聴いてるの、ざっくり言って僕と同世代くらいの人じゃないかなあ。歌詞が文学的だし」

 なんだ、とぼくは得心がいった。

「マイナーなんですね。文学的だからいいのに」

 先生は、ふっ、と短く溜息とも笑い声とも取れる息を漏らすと

「文学の良し悪しが分かる中学一年生って、キミくらいだよ」

 という風に声を和らげて言った。

「ぼくみたいな生徒は初めてですか」と訊けば

「そうだねぇ、そうかも」と返ってきた。

 三枝とは今のところ特に共通の話題が無いので、ぼくは帰ったらアサシカの曲を聴こうかな、と思った。

「ぼく、三枝とも話せるように頑張ってみます。ゲームは分からないから、音楽が共通の話題になったらいいな」

 先生はにこりと笑って

「キミから粃裕美子をオススメしてみるのもいいんじゃない。好きなんでしょ」

 と言う。ぼくははっとした。

「ぼくの好きなものを話題にしてみても、いいんです……よね」

 先生は「そう」と相槌を打って

「会話っていうのは、何気無い言葉の中にきっかけを作って、作られて、乗って、乗られてを繰り返すんだよ。……っていうのは僕の知り合いの受け売りなんだけど」

「先生にも友達って居るんですか」

 ぼくは好奇心から訊ねてみた。先生って、どんな人と仲良くしてるんだろう。

「んー? 友達かって言われると微妙だけど、飲み友くらいなら居るよ」

 学生時代の付き合いはほとんど切っちゃった、と先生は笑う。

「どんな人ですか」

「えっとね、一人は前に少しだけ話した刑事さんと、あと一人は営業マン」

 刑事、と聞いて「ああ、あの風通しの悪い人」と先月の記憶が蘇る。

「刑事さんって、ぼくみたいに友達を作るのが苦手な人ですよね。営業マンの友達も居るんですか」

 意外だ、と思った。

「あはは、それ今度伝えとく。そうだなあ、僕達、営業マンの彼がきっかけで飲みに行く仲になったからなあ。彼、大阪の人でね、ものすっごくお喋りな人なの」

 ぼくは、条件反射の様にお笑い芸人を思い浮かべる。大阪の人ってやっぱりお喋りな人が多いのかな。

「大阪の人ってやっぱり喋るの上手いんですか」

「喋るのが上手いって言うか、ノリがいいかな。その人は自分の事『根暗だ』って言ってるんだけどね。大阪じゃ、あれでも根暗なのかも知れない」

 先生は愉快そうに笑って言うけれど、あれ、とか言われてもぼくは知らないので困ってしまう。

「根暗なんですか」

「らしいよ。勤勉な人だと思うけどね」

 勤勉な営業マンと言うと、売上成績なども良いのだろうか、など余計な考えを廻らせてしまう。

「刑事さんはどんな人なんですか」

 友達を作るのが苦手らしいので、ぼくみたいな感じの人を想像していた。

「猫みたいな人」

「……猫?」

 日向でごろごろして毛繕いをする姿を想像する。ぼくとは反対に、自由奔放な人なのだろうか。自由すぎて友達が出来づらいとか? だけど、それでは前に言っていた「人見知りが激しい」とは異なってしまう。

「うん、猫。猫って正直でしょ。だからその人も猫みたいに、見ず知らずの人に話し掛けられると『話し掛けないで』って態度に出ちゃうの」

 背中を丸めて威嚇する猫を思い浮かべたら何となく想像出来た。

「よく友達になれましたね。だって、元々見ず知らずだったんですよね?」

 先生はくつくつと笑って

「そこはほら、営業マンの彼が上手くやってくれたんだよ。僕も割と人見知りする方だし」と茶目っ気を出して言う。

 ぼくはそれを聞いて、はあ、と曖昧な返事をした。

「先生って人見知りするんですか」

 こうしてぼくと話す姿を見ていると、あんまりイメージには無いけれど。

「入学式の日。僕ってば、緊張して上手く自己紹介出来なかったでしょ」

 もう三ヶ月前の話だ。ぼくは、そういえば……と思う。

 すると突然、窓の外からばたばたっと叩きつける音と雷鳴が聞こえてきた。

「ああ、降ってきちゃったね。すごい雨だ」先生が言う。

 ぼくも振り返って窓の外を見る。

「本当だ。ひどい雨。雷まで鳴って」

 折り畳み傘で間に合うだろうか、と考えを廻らす。

「昼間はあんなに晴れてたのにね。こういう雨、なんて言うんだっけ」

 先生が悪戯っぽく微笑む。答えは今朝先生が教えてくれた。

「催涙雨?」

 ぼくが言うと先生はしとやかに笑って

「かもね。最終下校時間まで、雨宿りしてく?」と言ってくれた。

「本、読んでもいいですか」

 今日話したかった事は全て話したように思うので言ってみた。

「うん、いいよ。あ、そうだ。『タナトスの呼び声』はもう読んだの」

 先生もこう言ってくれたので、ぼくは鞄に手を伸ばす。

「今朝読み終わりました。先生ももう読んだんですか」

 と言って鞄のファスナーを開いた。

「まだだよ」

 先生がそう言うのを聞きながら鞄をまさぐる。

「じゃあまだ感想は内緒です。『意見交換しましょう』って言いましたよ──あれっ」

 無い。──無い、無い、無い!

「どうしたの?」

 先生がぼくに問う。

「本が無いんです! 自分の机に置きっぱなしにしちゃったかも!」

 先生はひゅっと息を呑み

「それは大変、早く取っておいでよ!」

「ちょっと行ってきます!」

 ぼくは慌てて準備室を飛び出し、木工室から駆け出した。


    五、


 一年A組の教室。黒板を向いて右側の、少し後ろ側にある自分の席。ぼくはここに本を入れっぱなしにしたのではないかと目星を付けて、探った。

 ──あった。

「良かったぁ……!」

 本はぼくにとってお守りの様なものなので、それが手元に戻ってきて心底安心した。早く木工準備室へ戻ろうと教室から駆け出す。すると、

 ドスン! と何かとぶつかった。強くぶつかったものだから、ぼくはその拍子に尻餅をついてしまう。顔を上げると──クラスのいじめっ子、竹内たけうち健太けんたとその手下共が廊下いっぱいに広がって悠々と歩いていた。ヤツらが野球部に所属していることは、風の噂で知っていた。急に雨が降り出したものだから、屋内へ移動してきたのだろう。

いてえじゃねえか」竹内が凄む。

「ご、ごめん……」

 ぼくは身体の大きな竹内に怯えてしまって、蚊の鳴くような声しか出せなかった。

「おい、知ってるか竹内。そいつ女なんだぜ」

 手下の一人が下卑げびた声で言う。

「知ってる、知ってる。女のくせに男のカッコして、マジきも」竹内も同調する。

「だよな。スカート穿けよ」

 竹内らがぼくの苗字をもじった、下品な言葉を使ってはやし立てる。ぼくはそんな彼らの品性の無さに呆れ返ってしまって、そんな彼らに怯えていたのも馬鹿らしくなった。「ぼくは男だ」とただす気さえも失せ、体勢を立て直し、ゆっくりと立ち上がってただ彼らの顔を見た。コイツらは何を喚き立てているのだろう。

「なんだよ、その目」手下が言う。所詮コイツも虎の威を借る狐に過ぎない。

「別に。ぼくは元々こういう顔だから」ぼくは至って平静なつもりだ。

 ぼくと竹内らの間の空気は膠着こうちゃく状態になる。ややあって

「これ、なーんだ」

 と竹内が何かを頭上でひらひらと揺らす。──ぼくの本だ。尻餅をついて転んだはずみで落としてしまった!

「か、返して!」

 ぼくが竹内に飛び掛かるも、ひょいと上に持ち上げられてしまって届かない。図体のでかい竹内と小柄なぼくでは体格差がありすぎるのだ。

「返してよ!」ぼくは果敢かかんに飛び掛かる。

 ダメだ、届かない。

「返してってば!」ぼくはひたすらに訴える。

「こいつ、本ばっか読んで優等生気取りかよ」

「マジうぜー」

「これ、破いちまおうぜ」

 本が乱暴に開かれて、無理な力が掛けられようとした時──

「おい、その辺にしとけよ」

 ぼくの背後から声がした。ぼく達は声の主を見る。……見掛けない顔だ。ワイシャツの下に真っ赤なTシャツを着て制服を着崩して、少し長い髪を後ろで引っ詰めてゆわいた、ぼくよりは少し背の高い、けれど小柄な男子生徒だった。眼鏡を掛けて、スケッチブックを持っている。彼は何だか、言い知れぬオーラの様なものが漂っていた。ぼく達は彼の雰囲気に気圧される。彼は

「弱い者いじめして、強い奴気取りかよ。はっ、だっせ」

 と、竹内らを嘲笑った。

「何だとお前!」竹内が息巻く。

「おいおい、センパイに向かって『オマエ』は無えだろ。礼儀がなってないな」

 どうやら彼は先輩だったらしい。彼は余裕綽々よゆうしゃくしゃくの表情だ。

「俺の親父は議員なんだぞ!」

 竹内が周りを脅す時の常套句じょうとうくだ。先輩はそんな竹内を鼻でわらって

「だから何だよ。オマエは何者なんだよ」と言ってのけた。

「俺は、議員の息子で……俺の親父はすげえんだからな!」

「ハイハイ。議員の息子、スゴイですね。で、オマエ自身は何者なんだよって訊いてんの」

「ぐ……」

 すごい、竹内が怯んだ。竹内は暴力は強いけれど、口喧嘩には滅法めっぽう弱いことがこれで明白になった。……先輩みたく言い負かせられる気はしないけれど。

「オマエ、一年だよな。何組だよ。名前は」

 先輩は有無を言わせぬ口調で言う。

「……」竹内は黙る。

「クラスと名前はって聞いてんだよ」

 先輩は、ドカッ! と大きく壁を蹴って威嚇した。鋭い蹴りだったので、当たったら痛いでは済まなさそうだ。

「一年A組……竹内、健太……」

 先輩は、ふん、と息をつくと「1のAの竹内か。覚えたからな」と眼鏡の奥から射る様な眼差しで竹内を見た。

「中学上がって気が大きくなってんのは分かるけど、あんまりイキってんなよガキ」

 すると竹内がぼくの本を投げて寄越す。

「冷めた。行こーぜ」

 遂に竹内が白旗を上げた。すごすごと竹内とその一味は退散していく。ぼくは一連の流れを、ただ眺めていることしか出来なかった。

 手も足も出ず悔しい、そう思うと目からぽろぽろと涙がこぼれてきた。

「わ、怖がらせちまったよな! ゴメンな、大丈夫か? オマエ、アイツらにいじめられてるのか」

 先輩は先ほどとは打って変わって、気さくにぼくへ話し掛けてくれた。

「だい、じょうぶ……。あいつら、クラスの……いじめっ子、なんです。先輩、ありがとう……ござい、ました」

 ぼくはとうとう、しゃくりあげてしまう。

「泣くなって、男だろ! これから帰るところか?」

 先輩はぼくの肩を抱き寄せて慰めてくれた。帰るところではないので、ううん、と首を振る。

「木工、室……」

 涙を拭う手の隙間から先輩を窺うと、少し考える様子を見せていた。寸隙すんげきあって

「木工室っつーと、都築せんせーの所か。よし、付いて来い」

「え、あ、わっ……」

 ぼくは先輩に手を引かれて木工室まで歩き出した。

「オレ、久遠くおんって言うんだ。久しく遠いって書いて久遠。クラスは3のC。オマエは?」

 先輩は唐突に名乗った。

「え、あの、えっと……」

 ぼくが言葉に閊えていると

「またアイツらに何かされたらオレんとこ来い。大抵教室か、放課後は美術室に居るから。たまに校内でクロッキーもしてる」

 と言った。久遠先輩か……。三年生って、頼もしいな。

「オレ、手はぜってー怪我出来ねえから、代わりに口と足が出るんだよなー。美術部なんだ。もうすぐ引退だけど」

 能天気に久遠先輩が言う。そんな彼の様子に少し、元気付けられる。千葉と同じ部活なんだ。

 先輩に連れられてぼくは、木工準備室まで辿り着いた。先輩は準備室の扉をノックもせず開けて

「都築せんせー、いるー?」と開口一番に言った。

したながくんじゃない。どうしたの」先生の軽やかな声が聞こえる。

「ほら、入れよ」先輩はぼくに促す。久遠って、苗字じゃないのか。

 先輩はぼくの手を離した。ぼくは俯きながら取り返した本を大事に抱えて、木工準備室に入った。

「わ、キミ、どうしたの。そんな顔して」都築先生が驚いた声を出す。

 ぼくが上手く事情を説明出来ないでいると

「ソイツ、おなクラの奴にいじめられてた。オレが止めたけど。せんせーって今担任やってる?」

 と、先輩が掻い摘んで説明してくれた。

「うん、一年A組を受け持ってるよ。それがどうかした?」

 先生はぽかんとした顔で言う。

「あー、じゃあ、竹内って奴。もっと目ぇ光らせといて」先輩は端的に言った。

「竹内くんかぁ……」先生はがっくりと肩を落とす。

「議員の息子だか何だか知らねーけど、アイツ自身は大した事無いんだから、指導はした方がいいと思うぜ」

 先輩は腕を組んで、先生を軽くめつけた。厚い前髪と眼鏡の奥にあっても分かるくらい、目力の強い人だ。

「うん……ごもっともだね。松田先生にも話しておくよ」

 松田先生は体育の先生だけれど、生徒指導の先生でもある。そして、野球部の顧問だ。

「頼むぜ、都築せんせ。今日はオレがたまたま校内でクロッキーしてたから良かったようなもんだぜ」

 それじゃ、と言って先輩は去っていった。根回しまでしてくれた。

「……災難だったね」

 先生が言う。ぼくはワイシャツの袖で涙をぐいっと拭って

「本当です。危うく本が犠牲になるところでした」と気丈ぶった。

「本、ちゃんとあったんだ。本もキミも、無事で良かった」

 先生が慈しむ声でそう言うので、ぼくはまた泣きそうになった。多分、目元は赤くなっていることだろう。

「二くんが仲裁に入ってくれたみたいだけど……」

 ぼくは先生の言葉にはたと思う。そういえばあの先輩は何者なのだろう。

「ええと……さっきの、久遠先輩って言ってましたけど、先生知ってるんですか」

 先生は、そりゃあ勿論、と言って答えてくれた。

「二久遠くん。一年生の頃から知ってるよ。奇抜なアイデアの持ち主でね、去年金工の授業で電気スタンドを作ったんだけど……」

 作ったんだけど? ぼくは首を傾げる。

「ランプシェードの表側はお洒落な洋服とかお化粧品の柄を描いたのに、内側に血飛沫を描いて、電気をつけると惨殺現場になるっていう仕掛けを作ったからよく覚えてる……」

「わあ」

 そんな前衛的(?)なセンスの持ち主だったとは。先生は続ける。

「突き抜けた才能なんだろうけど、あの時は度肝を抜かれたよ。参観日に保護者向けの展覧会もやって、よく出来た作品は電気をつけて展示したけど、彼の作品はよく出来てたのに電気をつけられなかった……」

 そう言って先生は少し遠い目をした。

「先輩は美術部だって言ってましたけど、絵が上手いんですか」

 ぼくが訊ねると先生は、うん、と頷き

「そうそう、美術部。作品はまじまじと見たこと無いけど、ざっと見てた範囲では一番絵が上手かった。部活ではよく物を借りに来てたよ。美術室には無いけど、木工室にはあるような物」

 接着剤とかね、と先生は笑った。

「接着剤?」ぼくは思わず訊ねる。

「うん、木材でモザイクアートをやるって言うから」

 タイル材を使ったモザイクアートはよく見るけれど、木材か。

「面白いアイデアですね。展示はもうしてないんですか」

「うーん……多分、今頃は美術準備室で眠ってるんじゃないかな」

 ちょっと見てみたかったぼくは、少し落胆してしまった。そんな様子のぼくに気付いてか先生は、

「そんながっかりしないでよ。今度見せてもらったら。二くんのクラスは知ってる?」

 と軽やかな声で言った。

「はい。確か、三年C組だって……でも、上級生のクラスなんて怖くて行けません」

 同じクラスの生徒とも上手く話せないぼくが上級生のクラスに行くなんて、飛んで火に入る夏の虫だ。

「ふふ、冬休み前には行かないと卒業しちゃうよ。三年生、三学期はほとんど学校来ないし」

「う……」

 ぼくは言葉に詰まる。一年生から見た三年生はずっと大人で、頼もしいけれど、そんな大人の輪に入るなんて同い歳の生徒とも上手く話せないぼくには難しくて、でも都築先生という大人とは話せて……頭を抱え、さんざっぱら考えて

「行けたら行きます……」

 とだけ答えた。こんなの、行かない人の常套句じゃないか。

 竹内から取り返した本を見る。

「本、ちょっと皺になっちゃった」ぼくは呟く。

「何されたの?」先生は心配そうにぼくに訊ねる。

「これ、破かれそうになったんです。弁償してほしいくらい」

 ぼくは声を尖らした。先生は苦々しい顔をして

「うーん……破かれてないなら、弁償は難しいんじゃないかな……」と言う。

「分かってますよ」

 ふん、と鼻息荒くぼくは答えた。本だからどうとか以前に、人の物を乱暴に扱う神経が分からないのだ。きっとあいつらは社会で上手くやっていけないに違いない。

「あ、でも」

 先生が声を上げた。

「どうしたんですか」

 ぼくは膨れっ面でぞんざいに返事する。先生は

「皺になったり折れた本のページ、直す方法知ってるよ」と言った。

「本当ですか!」ぼくはその言葉に飛びついた。

 先生は、ちょっと手間は掛かるんだけど……と始める。

「折れたページの下にコピー用紙を敷いて、濡らして固く絞った布でページを少し濡らすの。そうしたら新しい紙でそのページを両面から挟んで、本を閉じて板で挟む。その上から五キロくらいの重石おもしを乗せて乾かしたら元通り、ってやり方」

「濡らしちゃうんですか?」

 却って皺になりそうだとぼくは思った。先生はころころと笑うと

「少し水気を与えるくらいだよ。紙の繊維が折れ曲がってるから、ただ伸ばして重石を乗せるより少しふやかさないと直らないの」

 と教えてくれた。そうなんだ。だけど、ぼくは納得がいかない。

「何でそんな事、ぼくがいちいちやらないといけないんですか。竹内がこんな風にしたんだから、竹内がやってくれればいいのに」

 先ほどの出来事に対して気色ばむぼくに先生は

「キミの怒りももっともだけど、落ち着いて。わざわざ同じ土俵に立つ必要無いよ」

 と宥める様に言う。むう、とぼくは口を噤んだ。

「次の保護者会の時にちゃんと伝えるから。ね?」

 それでいいでしょ? と先生はぼくを窺う。

「……ちゃんと伝えてくださいよ。あと、松田先生にも言っておいてください」

 まだ溜飲は下がらなかったけれど、こっぴどく叱られればいい、と心の中で毒づいてこの場は納めることにした。すっかりむくれたぼくを見ながら先生は困った様に微笑んで溜息をひとつついた。

「この意地悪な世界にもね、永遠のものは無いんだよ。僕たちの抱えるトラブルでさえも」

 ぼくは目を点にして先生の顔を見てしまう。

「──チャップリンの引用。今は『ちくしょう』って思うこともあるだろうけど、それもずっとは続かないから。大丈夫だよ」

 先生は穏やかにぼくを諭す。

「生きてさえいれば何とでもなるから。いつか見返してやる、って思ってればいいよ」

 ぼくは先生の言葉に考えを廻らす。生きてさえいれば……。

「先生もそうだったんですか」

 先生は大きく、うん、と頷いた。

「一時はもうだめだと思ったこともあったけど、そこで諦めずに今まで生きてて良かったよ」

 先生は小さな花がわらう様な、控えめだけれどぱっと明るい笑顔をぼくに見せてくれた。ぼくはそれに対して

「先生は『死にたい』って思ったこと、あるんですもんね。やっぱり死ななくて良かったですか」と訊ねる。

 先生は嬉しそうに

「うん。まあ、厳密に言うと惰性で生きてきたけど、死ななくて良かった。選択肢は沢山あるって知れたよ」と言った。

 先生は「自殺」について「与えられた全ての選択肢に背を向けて逃げ出す行為」と言っていた。いつかの先生が直面した問題から逃げなかったから先生は今ここにいる、という事になるのだろう。ぼくが得心していると、窓の外から鋭いくらいの光が差してきた。

「雨、止んだみたいだね」先生が言う。

 ぼくも振り返り外を見て

「本当ですね」と応え「下を向いていても虹は見付からないんでしたっけ」と、以前先生が言っていた事を口にした。

「覚えててくれたんだ」楽しげに先生は笑う。

「あの時もこんな雨上がりでしたよね」ぼくはそれが少しこそばゆい気がした。

「よく覚えてるね」

 そう言って先生が、ふふ、と声を漏らした。

「まだ若いですから」

 ぼくは得意満面になって言った。

「あ、生意気言って」

 先生は反論するけれど、声が笑っている。

 顔を見合わせて、ぷっ、と二人が噴き出すとぼく達は揃って肩を揺らして笑った。下を向いていても虹は見付からないのだとしたら、竹内から受けた仕打ちをいつまでも根に持っているのは下を向いている行為ではないだろうか。そう考えたら、受けた仕打ちの事が少しどうでもよくなった気がした。

 先生との何気無いひとときが愛おしい。こんな時間が過ごせるこの世界に生まれて良かった。『タナトスの呼び声』が死の儀式だとしたら、この〝おなはし〟は多分、生の儀式だ。ささやかな仕合わせで満たされた気持ちになれるぼくは、きっとこれからも自殺を考えることは無いだろう。

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キミと僕でおはなしをしよう 首藤慧一 @Britain

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