モテる男は留年生!
崔 梨遙(再)
1話完結:2000字
高校時代、3年に進級すると4人の留年生がいた。ほとんどが、規定の出席日数をクリア出来なかった先輩達だ。学力で留年したのではなかったと記憶している。その内の2人の留年生と仲良くなった。1人は常識人、どうして留年したのかわからなかった。もう1人はやんちゃ、“そりゃあ、留年するだろう”と思った。
その、やんちゃな留年生は総司。よく僕に話しかけてくるし、仲良くなったら一緒に喫茶店などでサボったりした。総司はイケメンだった。目鼻立ちがくっきりしている。“女性からの人気があるだろうなぁ”と思っていたら、やっぱりモテていた。中学時代から、女性の切れ目が無いという。そして、自分の恋愛武勇伝を語る。
だが、男子からはあまり人気が無かった。笑わそう、ウケようと頻繁に冗談を言うのだが、男子にはウケないのだ。だが、女性にはウケるらしい。完全に女性向けのキャラになってしまっていた。だが、本人は男子からの人気が無いことを気にしていないようだった。
総司はチャラチャラしていたが、いつも金欠だった。バイトもしていたのだが、お金はほとんどデート代に消えるらしい。服も、あまり新しい服を買わなかった。よって、ファッションセンスは良くなかった。それでもモテるのだからイケメンはなんと優遇されているのか! 僕はファッションに気を遣っていたがモテなかった。
学校は男ばかりだったので、総司の狩り場はバイト先だ。ファミレスなど、女性の多いバイト先を選んでいた。そして、女性を食い散らかして、“自分以外の女性と関係があるのね!”と女性陣にバレて、居心地が悪くなるとバイトを辞める。それで、また同じことを繰り返していた。そして、総司はデートの翌日、僕に武勇伝を語る。というのが日常だった。
そんな或る日、その日の総司の武勇伝はいつもと違った。
「崔! 俺、従姉妹と付き合うことになったで!」
「それ、武勇伝なのか?」
総司から、よく“俺は喧嘩が強い”と、そっちの武勇伝も沢山聞かされていた。そんな或る日、事件が起こった。僕の自宅の近く、串カツを食べに行った時のことだった。総司の肩が通行人にぶつかった。運悪く、ぶつかった相手に総司が絡まれた。
「お前、人にぶつかっといて挨拶無しか? 事務所行くか? まず、そこへ座れ」
そこは人通りの多い道端。総司が正座した。“僕はどうしよう?”と思っていたら、声をかけられた。
「お前はなんやねん?」
「この近所に住んでるんやけど」
「なんや、地元の奴か、お前はええわ」
と言われたので、正座している総司の横に立っていた。結局、総司は土下座させられて解放された。
「崔の地元じゃなかったら、あんな奴しばいてたんやけどなぁ」
と、総司は言っていた。
そんな総司もやがて社会人になり、大手企業に就職し、妻子と家を手に入れた勝ち組になった。高校時代の総司を見てきた僕から見たら、総司は高校時代から随分と変わった。
そして、30代後半。僕は知人の女性から“男性を紹介してほしい”と、ずーっと頼まれていた。その女性はみどりという名だった。
「崔さん、本当に誰か紹介してくださいよ、私、ストレスが溜まってヤバイんです。こんな時、彼氏がいたら癒やされると思うんです」
「だ・か・ら・今は紹介できる男性がいてへんねん」
「崔さん、付き合ってくださいよ」
「僕は彼女がいるって言うてるやろ」
「じゃあ、やっぱり紹介してください」
「今、僕が知っている男はみんな妻子がある、だから無理や」
「妻子がいてもいいですよ」
「アカンやろ! 不倫はアカンで」
「男友達でもいいんです、それに、久しぶりにパーッと遊びたいんです」
「不倫せえへんのやったら、なんとか出来ると思うけど」
「お願いします」
「ほな、男の方に聞いてみるわ」
で、ここで総司の登場。僕は、総司とみどりを合わせた。一緒にランチ、一緒にカラオケ。そこで、僕は解散を宣言した。夜になって、総司が不倫をするのを止めたかったからだ。ちなみに、みどりはビジュアルに恵まれていない。顔もスタイルも魅力を(僕は)感じなかった。
僕と総司は、2人で飲みに行こうとした。だが、総司の携帯にメッセージが1つ。みどりからだった。内容は簡潔、“まだ帰りたくない”だった。
「総司さん、いつみどりと連絡先の交換をしたん?」
「いや、カラオケでトイレに行った時、廊下で連絡先を聞かれたから」
「ほんで、総司さんはどうすんの?」
「俺、行ってくるわ!」
総司は振り返りもせず繁華街の人混みの中に消えて行った。結果的に、総司に不倫をさせてしまった。総司の奥さんに申し訳無い。僕の心が罪悪感で満たされた。これは……やっぱり僕が悪いですよね? 会わせなかったら良かった。僕の心にとげが刺さったような出来事でした。総司の奥様、ごめんなさい。
モテる男は留年生! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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